はずれスキルは当たらない
都会の片隅でひっそりと生きていた社畜は深夜のオフィスでひっそりと息を引き取り、行政手続きのように真っ白な部屋で『スキル渡し女神』にスキルを渡され、追い立てられるように異世界へ放り出された。目を覚ませばそこは森の中。意識を取り戻した社畜はゆっくりと身を起こし、一匹の妖魔と目が合った。妖魔はケケケと嗤う。社畜は滝のような汗を流し、ふと気付く。そうだ、無駄に露出の多いあの女神に転生特典とやらをもらったはずだ。スキルの名前は確か『鑑定』。そう、『鑑定』だ。敵の特徴やら弱点やらを見破るスキルに違いない。社畜は意識を集中し、高らかに声を上げる。
「ステータスオープン!」
社畜の声に反応し、中空に半透明のウィンドウが現れ、染み出すように文字が浮かび上がる。妖魔が不思議そうにウィンドウを見つめた。ウィンドウが社畜に真実を告げる。
『妖魔:インプ。ハワイオワフ島出身。高砂部屋』
「は?」
思わず高い声が出る。インプがマネをするように「キ?」と鳴いた。社畜は深呼吸すると、気を取り直したように鋭く叫んだ。
「ステータスオープン!」
ウィンドウの文字が揺らめき、別の文字に入れ替わる。
『妖魔:インプ。右投げ左打ち』
「は?」
再び高い声が出る。インプが「キ?」と首を傾げた。社畜は震える声で叫ぶ。
「ステータスオープン!」
『妖魔:インプ。ウィングバック』
「ステータスオープン!!」
『妖魔:インプ。アウトボックススタイル』
「ステータスオープンんー!!」
『妖魔:インプ。モンドセレクション金賞受賞』
ははは、と乾いた笑いが社畜から漏れる。「キキキ」とインプが笑った。社畜は笑いながらゆっくりと身を起こし――全速力で走り始める。インプは「キーッ」と怒りの声を上げ、背の羽を羽ばたかせて社畜の背を追った。
「転生特典、何の役にも立たねぇじゃねぇかぁぁぁーーーーっ!!」
朝の森に社畜の絶叫が響き渡る。背にちくちくと刺さるインプの三又槍を感じながら、社畜は涙目で走り続ける。
「ただでもらったもんにろくなもんねぇわチキショーーーーっ!!」
森の果ては見えず、異世界に来ても変わらず襲い来る理不尽に社畜はただ泣くことしかできなかった。
完




