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連絡が減ったのに、引き寄せていると思った頃

それから数日、

彼女からの連絡は、ほとんど来なくなった。


朝、同じ道を歩くこともなくなった。

委員会の連絡は、必要最低限。

メモも、口頭も、短く、要点だけ。


「これ、提出期限いつ?」


「金曜」


それだけ。


以前なら、

一言二言、余計なやり取りがあったはずなのに。


昼休み、

彼女の机の周りには、いつも誰かがいた。


女子同士で話し、

時々、男子とも言葉を交わす。

その輪の外側に、

僕の立つ場所はなかった。


それでも、

完全に遮断された感じはしなかった。


委員会のグループ連絡では、

彼女は必ず返信をくれた。

遅れることはあっても、

無視はしない。


「了解」


短い文字。


それだけで、

胸の奥が少し軽くなる。


放課後、

廊下で偶然すれ違ったとき、

僕は声をかけた。


「西園寺」


彼女は立ち止まらなかったが、

歩く速度を少し落とした。


「何」


「明日の委員会、

 時間変更あるって」


「ああ、知ってる」


「……それだけ」


彼女は一瞬だけこちらを見て、

「ありがとう」と言った。


その一言が、

必要以上に強く残った。


家に帰る途中、

同じクラスの男子と一緒になった。


「最近さ、

 西園寺、藤原と話さなくなったよな」


「そう?」


「避けられてるんじゃない?」


その言い方は、

軽かった。


でも、

胸の奥がわずかにざわつく。


「そんなことないよ」


すぐに、そう返した。


「必要なときは、普通に話すし」


「ふーん」


彼は深くは追及しなかった。


「まあ、

 ああいうタイプって、

 距離取ったり近づいたりするよな」


その言葉を、

僕は都合よく受け取った。


――距離を取る。

――近づく。


それは、

関係が動いている証拠だ。


本当に終わっているなら、

動きすらない。


週の終わり、

委員会の帰りに、

彼女が一人で校門を出るのが見えた。


声をかけようとして、

一歩踏み出す。


その瞬間、

彼女のスマートフォンが鳴った。


彼女は画面を見て、

小さく笑い、

誰かに返信を打ち始めた。


僕は、立ち止まった。


今は、違う。


そう思った。


近づくべき時と、

引くべき時がある。


今は、

引く番だ。


彼女が距離を取っているのなら、

こちらも、少し下がる。


それが、

ちょうどいいはずだ。


家に帰ってから、

日記を開いた。


昨日のページの、

あの一文が目に入る。


「本当は、好きなんだと思う」


その下に、

短く書き足した。


「今は、揺れている」


それで、

すべてが説明できる気がした。


連絡が減ったのも、

話しかけてこないのも、

必要最低限なのも。


全部、

関係が次の段階に進む前の、

調整だ。


そう結論づけると、

不安は、形を変えて静まった。


この距離は、

拒絶じゃない。


引き寄せるための、

間だ。


このときの僕は、

距離が広がるほど、

なぜか確信を深めていた。


自分から遠ざかっているのに、

自分に向かっているのだと。

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