二人きりになれるはずの時間
それは、
僕が意識的に「二人きり」を作ろうとし始めた、最初の週だった。
きっかけは、放課後の委員会だった。
偶然、彼女と同じ委員に割り振られた。
黒板に名前が書かれた瞬間、
胸の奥が小さく跳ねた。
「西園寺も、この委員なんだ」
思わずそう口にすると、
彼女は一瞬こちらを見て、すぐ視線を逸らした。
「そうみたいね」
それだけ。
それでも、
帰る時間が同じになる理由ができたことが、
僕には大きかった。
委員会が終わったあと、
教室を出るタイミングを、わざと合わせた。
「一緒に帰ろう」
できるだけ自然な調子で言ったつもりだった。
彼女は、鞄を持つ手を止めて、
少しだけ間を置いた。
「……今日は、いい」
理由は言わなかった。
「委員会、同じだし」
そう続けると、
彼女の眉が、わずかに動いた。
「それと、帰るのは別でしょ」
その言い方は、
拒否というより、線を引く感じだった。
それでも僕は、
完全に断られたとは思わなかった。
――今日は、って言った。
次の日も、
その次の日も、
似たようなやり取りが続いた。
「今日も一緒に帰らない?」
「……だから、やめて」
「委員の資料、渡したいだけなんだけど」
「明日でいいでしょ」
語尾が、少しずつ強くなる。
それでも、
彼女は席を移動しないし、
委員会自体を辞める様子もなかった。
昼休み、
友達と話している彼女のところへ行った。
「西園寺、ちょっといい?」
彼女の隣にいた女子が、
一瞬こちらを見てから、気を利かせたように離れる。
その空気が、
僕には「成功」に思えた。
「何」
「委員会のことでさ——」
話し始めると、
彼女は明らかに周囲を気にし始めた。
「ここで話すことじゃないでしょ」
「じゃあ、後で」
「……後でって、いつ」
その言葉に、
苛立ちが混じっていた。
僕は少し考えてから、
「放課後」と答えた。
彼女はため息をついた。
「藤原さ、
最近、ちょっと距離近くない?」
その言葉は、
思っていたよりも、はっきりしていた。
「そうかな」
とっさに、否定した。
「前から、こんな感じだったと思うけど」
「前とは違う」
彼女はそう言い切った。
「前は、必要なときだけだった」
その言い方に、
胸の奥が少しざわついた。
でも同時に、
別の考えが浮かんだ。
――意識してるから、距離が気になる。
そう思うと、
彼女の不機嫌さが、
逆に意味を持ち始める。
放課後、
結局、二人で話す時間は作れなかった。
彼女は友達と帰っていった。
その背中を見送りながら、
僕は、不思議と落ち着いていた。
これだけは、確信できた。
彼女は、
「二人きり」を避けている。
それはつまり、
二人きりになることを、
意識しているということだ。
どうでもいい相手なら、
こんなふうに、はっきり嫌がらない。
そう自分に言い聞かせながら、
僕は、次はどうやって時間を作るかを考えていた。
一度や二度、
うまくいかないくらいで、
諦める理由はない。
このときの僕は、
まだ気づいていなかった。
「一緒にいたい」と
「一人にしてほしい」が、
同じ場面で、
同時に存在することもあるのだということに。




