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特別だと思う理由を、集め始めた日

「藤原ってさ、西園寺さんと仲いいよな」


そう言われたのは、

理科の準備室から戻る途中だった。


声をかけてきたのは、

同じ班の男子だった。名前は、まだ完全には覚えていない。


「……そうかな」


曖昧に返すと、

彼は少し笑った。


「小学校から一緒なんだろ?

 なんか、雰囲気あるじゃん」


雰囲気。


その言葉が、胸の中で静かに残った。


「でもさ、西園寺さんって、

 藤原にはちょっと厳しくない?」


今度は、別の女子が言った。


教室の後ろで、

数人が雑談している輪の中だった。


「話しかけると、すぐ切り上げられるし」


その言い方は、

責めるというより、不思議がっている感じだった。


僕は一瞬、言葉に詰まったが、

すぐに首を振った。


「そういう性格なんだと思う」


「へえ。でもさ」


女子は少し声を潜めて、

教室の前の方をちらりと見た。


そこには、西園寺由紀がいた。

別の女子と話している。


「他の人には、普通じゃない?」


確かに、そうだった。


彼女は今、相手の話を聞き、

短く相槌を打っている。

声も、柔らかい。


その様子を見ながら、

僕は、なぜか落ち着いていた。


「……僕には、昔からああなんだ」


そう言うと、

「ふーん」と、曖昧な返事が返ってきた。


納得されたのか、

興味を失われたのかは、分からない。


でも、その場で話は終わった。


昼休みの終わり頃、

廊下で彼女とすれ違った。


「西園寺」


名前を呼ぶと、

彼女は一瞬だけこちらを見た。


「何」


語尾は短い。


「理科のノート、

 さっき先生が言ってたところ、分かった?」


ほんの確認のつもりだった。


彼女は少しだけ眉を寄せ、

「別に」と答えた。


「自分で聞けば」


それだけ言って、

足を止めずに通り過ぎる。


冷たい。


そう思ったはずなのに、

胸の奥に残ったのは、

不思議な満足感だった。


放課後、

校門の近くで、彼女が誰かと話しているのが見えた。


今度は女子だった。


笑っている。

さっきまでとは、まるで違う表情だ。


その隣を通り過ぎるとき、

彼女は僕に気づいたが、

何も言わなかった。


ただ、

ほんの一瞬、視線が合った。


それだけで、

十分だった。


家に帰ってから、

今日のことを順番に思い返した。


他の人には普通。

自分にだけ冷たい。

それを不思議がる周囲。


それらが、

一つの形にまとまっていく。


――やっぱり、特別なんだ。


そうでなければ、

説明がつかない。


彼女が誰にでも同じなら、

こんな差は生まれない。


冷たさは、

距離を取っている証拠で、

無関心ではない。


ノートの端に、

何気なく今日の日付を書いた。


その下に、

理由のようなものを、

言葉にせず、並べてみる。


否定しない。

完全には切らない。

視線は、合わせる。


それだけで、

十分だと思えた。


この日から、

僕は無意識に、

「特別だと思える材料」を

集め始めていた。


それが、

後になって、

どれだけ自分を縛ることになるかも知らずに。


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