少しずつ、避けられている気がした週
その週の始まりから、
何かが、微妙にずれていた。
朝、同じ時間に家を出たはずなのに、
あの角で彼女の姿を見かけることはなかった。
最初は、ただの偶然だと思った。
中学校が始まったばかりで、
時間割も、登校のリズムも、まだ定まっていない。
少し早く出たのかもしれないし、
少し遅れただけかもしれない。
理由はいくらでも考えられた。
だから、僕は立ち止まらなかった。
歩きながら、自然にそう結論づけた。
教室でも、彼女は以前より静かだった。
視線が合う回数が、明らかに減っている。
こちらを見ない、というより、
最初から視界に入れないようにしている感じがした。
昼休み、廊下ですれ違ったとき、
僕は思わず声をかけた。
「今日、一緒に帰る?」
言ってから、少し後悔した。
断られるかもしれない、という予感があったからだ。
彼女は、ほんの一瞬だけ足を止めた。
「今日は、用事あるから」
それだけ言って、すぐに歩き出す。
理由は聞けなかった。
聞く必要もないような、
きっぱりとした距離が、そこにはあった。
胸の奥が、きゅっと縮む。
でも、同時に、
どこかで納得している自分もいた。
――中学生になったんだから。
――いつまでも一緒ってわけにはいかない。
そう言い聞かせると、
不安は少しだけ形を変えた。
それは、寂しさというより、
期待の先延ばしに近かった。
彼女は、前よりも多くの友達と話すようになった。
特に男子とも、普通に会話をしている。
その様子を見るたび、
胸の奥に、小さな棘が刺さる。
でも、それもまた、
「普通」に近づいている証拠だと思うことにした。
自分にだけ冷たいのは、
特別だから。
そう考えれば、
彼女の態度は、むしろ一貫しているように見えた。
週の半ば、
帰り道で、偶然にも彼女の後ろ姿を見つけた。
声をかけようとして、
やめた。
彼女の歩く速度が、
明らかに、速すぎたからだ。
まるで、
追いつかれることを前提にしていないような歩き方。
それでも、
彼女は道を変えなかった。
だから僕は、
少しだけ距離を詰めて、
同じ道を歩いた。
彼女は振り返らない。
振り返らないまま、
そのまま家の方向へ消えていった。
その背中を見送りながら、
僕は、奇妙な安心感を覚えていた。
もし本当に嫌なら、
こんな曖昧な距離は取らない。
完全に、切るはずだ。
金曜日の放課後、
彼女は友達と一緒に帰っていった。
笑っていた。
いつもより、ずっと自然な笑顔だった。
その光景を見た瞬間、
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
でも、すぐに、
別の考えが浮かんだ。
――外では無理しているだけだ。
――本当の顔を見せるのは、慣れた相手にだけ。
そう思うと、
あの冷たい態度すら、
自分にだけ許されたもののように感じられた。
その週が終わる頃には、
彼女と話す回数は、確実に減っていた。
それでも、
関係が壊れたとは、思わなかった。
むしろ、
新しい段階に入ったのだと、
そう信じた。
距離が生まれるのは、
近づく前触れだと。
彼女は、ただ慎重なだけだ。
僕はそうやって、
一つずつ、理由を積み重ねていった。
避けられているという可能性を、
丁寧に、視界の外へ押しやりながら。




