卒業パーティー
本来の、卒業ダンジョンとは、3年の課程を終えた生徒が全員で挑むものである。
俺とゾフィーは季節外れの卒業となった。
また、卒業を記念して急遽、全校をあげてのパーティーが開催されることとなった。
がしかし、
「ロードナイトドラゴンで攻撃!」
「くぅ! だが、俺のライフカウンターは残っている!」
おっさんとパーティーそっちのけで場末のパブでCSに興じていた。
「いいのかよお前さん。パーティーは」
と、おっさんが質問する。
「いいんだよ。俺は、問題児だから。称賛はゾフィーが受けるべきだ」
「ゾフィーね。青春してて羨ましい限りだぜ」
「……。そういうのじゃない。背中を預けあった仲だから」
「そぉのわりに、顔が赤いじゃないの」
「うぅ、うるさい! まだ、回復状態のソウルズは残ってる! とどめ!」
「ぎゃあ!」
とCSで黙らせるとおっさんがひっくり返った。
「「よくない!」」
ドレス姿のゾフィーとグリーン先生に引っ張られるのはお約束である。
彼女たちのドレスに合わせて、俺も正装をさせられた。
学園が支給したものだ。
学園は全て、お祭り騒ぎ。その喧騒を生んでいる衆人環視が俺に集まった。
「あれが、1年生ながらダンジョンをクリアした天才の片割れ?」
「しかも殆どの授業を欠席しながらだ。アイツは本物だよ」
「でも、相方のクラス委員長は学年首席でしょ? おんぶにだっこだったんじゃ?」
と口々に不本意な感想を述べられてしまった。
俺は、天才でも本物でもない。
「おほん」
1つ呼吸を整えて
「おっしゃる通りです。僕は、ゾフィーヤ・キッペンベルグにくっついていただけですよ」
と宣言するのだった。
「ねぇ」
ゾフィーが合流した。
「さっきの……。本気で言った?」
「さぁね。少なくとも俺は、天才じゃないよ。だからいいんだ。あれで」
「アンタがそうならいいんだけどね。私は認めているよ。アンタが本物だって」
「本物のなにさ」
「それは……。本物の」
ゾフィーは剣の修行でまめのできた指で唇を抑えて考える素振りをした。
そして
「本物のバカ」
まったくおっしゃる通り。
「ゾフィーは本物の剣士だと俺は、思うよ」
「……!」
ゾフィーが顔を背けた。何か怒らせるようなことを言ったかな? 俺みたいな本物でない自認があったりして。
「バカ……」
すると、手が差し出された。
「へ」
「屋台とか。見て回ろうよ」
気乗りしないなぁ。
「ねぇ。行こうよ。この祭りは私たちの卒業を祝うものなんだからさ」
「……それも、そうか」
命を預けた仲だからか。俺は、断る気にならず。少しごつごつとした彼女の手を取った。
その中には、確かに女の子らしい柔らかさがあった。
ティガーとゾフィーヤが学園での青春の最後の時間を過ごしている時。
彼らの担任のグリーン・バッシュ女史はある人物と面会していた。
「ほう。ならば貴様は、今いる学園の生徒よりも、あの2人を優先すると?」
「そうです。私、グリーン・バッシュは彼らの旅に同行したいと思います」
「その真意は?」
相手は、学園長のイェルディス・フォン・ゴルドー女史であった。
「彼らはまだ、本来基礎課程にある身の上であること。私は彼らの旅の中で応用や心構えを教える必要があります。それに、まさかでしたから。今回のことは」
「まさか、というのは?」
「私は、ティガーが卒業ダンジョンをクリアするとは思っていませんでした。例えキッペンベルグの助けがあっても、ミノタウロスで詰むと思っていましたから」
「責任を取りたいというわけか」
イェルディスは実年齢50代でありながら、その見かけは20代のそれだ。
紅茶をすすり、カップを置くと、金糸の髪を指に絡めて悩む素振りを見せた。
「世界を救う可能性をティガー・マーシャルに見た?」
「……あれは、バカです。バカであるから、目的に一直線。ですから、他の卒業生。勇者たちにない突破力があると信じています。今回、たった2人でダンジョンを攻略したように」
「突破力か……。確かにそれは、今膠着状態にあるこの世界に必要なものかもしれない」
「その突破力を確かなものにするために、どうか。お願いいたします」
「マーシャルについてはわかった。では、キッペンベルグはどうだろうか?」
グリーンは息を吸って答える。
「キッペンベルグは剣の天才です。そして、彼女はティガーについていく覚悟をしている。本人から直接聞いたわけではありませんが、態度を見れば分かります」
「バカに天才の2人組か。確かに貴様の助言は彼らの大きな力になることだろう。それに、貴様は魔法も剣も1流だ。3人ならば、理想的なパーティーかもしれない」
「で、あるなら」
「よかろう。認めよう」
「ありがとうございます!」
グリーンは深く頭を下げた。
「だが、貴様が教育体制から抜ける穴は大きい。魔王を倒し、帰った暁には、その穴を埋めてもらうぞ?」
「魔王を倒した後の勇者学校ですか……」
「魔王、魔族を倒せば今度は人同士の戦いの時代だよ」
その時、ふとグリーンは思った。もしも、ティガーが魔王を倒してコンフリクトソウルという下らない遊びが流行ったならばと。
「そうはならない可能性をティガーは持っているかもしれませんよ?」
そして、ティガーとゾフィーヤは学園の皆の祝福を受けて、卒業の証を叙勲され、新たな勇者として旅立つのであった。




