卒業ダンジョン!
勇者学校というのは、10年前からの魔王軍の侵攻を受けて設立された教育機関でつまりは俺の通う高校なわけだ。
この大陸パンゲアンの中央に位置している。
つまりは、都会の真ん中なわけで、勇者になるべく田舎町(と言っても、比較的都会だが)から出てきた俺、ティガー・マーシャルは空気に毒されてすっかり落ちぶれてしまった。
授業をサボってパブに入り浸っていた。
未成年なので、昼間から飲むというわけでなく、俺の目的は
「黒の女王ディアナを召喚! 召喚時効果! アンタのソウルズからカウンターをトラッシュへ送るぜ!」
「何ぃ!? 黄金のカードでカウンターシュート!?」
「へへ悪いな! ディアナはダブルライフブレイカーだから、アンタのライフ2つ貰って俺の勝ちだ!」
とカードゲーム、コンフリクトソウルに興じることだ。
「もう1回! もう1回だ!」
とせがむ、おっさんと勝負を繰り広げていた。
「しっかしアンタももの好きだねぇおっさん。CSなんてやってるのおっさんと俺だけだぜ?」
「あぁん? 戦争の話か? つかおっさん呼びやめぇや!」
「はは」
「俺はまだ25だ!」
「いやね。こんなご時世だから、こういうことをするの憚られるじゃん?」
「いいんだよ! 好きなものは好きなんだから!」
このおっさんダメ人間だぁ。
俺もだけど。
「お前さんこそいいのかよ。勇者学校の生徒が昼間っから」
「いいの。いいの。世界の平和とかはもっと才能のある人間が担えば。俺なんかは辺境の警備がお似合いなのさ」
「「いいわけあるかーーー!!!」」
と、姦しい声。
「あ、先生に委員長じゃん」
「まったくお前というやつは!」
「マーシャル!」
ズルズルと往来の中を引きずられていく。
周囲の人々の視線が突き刺さる。
「まぁ、あの制服勇者学校の……」
「高い税金を払ってる先がアレか」
などといった声が聞こえるが上の空だった。
「ディアナのフィニッシュが決まったのもおっさんが耐性の無い深紅デッキ使いだからだよなぁ。新しいパック開けたいなぁ」
そんな最低な毎日を送っていたある日だ。
「おい! やべーぞ!」
街中でおっさんに話しかけられた。
「あん? なんだよ。こっちはこれから補習だよ」
「これを見ろよ!」
俺は、その紙を見てはっとして走り出した!
先生の下へ。
「ぐ、グリーン先生!」
「お、マーシャルじゃないか。遅刻しないとは感心だな!」
「先生! 俺! 今すぐ!」
「は?」
「卒業ダンジョン受けたい!」
ミスグリーンは、俺達の担任の先生である。学園屈指の実力者で屈指の名教師だ。
廊下で、俺は、彼女に土下座していた。
「お願いします! 卒業ダンジョンに挑戦させてください!」
「ダメだ! お前! まともに授業も受けてないじゃないか!」
「まともに授業を受けていたら遅いんです!」
「……。何があった」
「これ……」
俺は、おっさんから受け取った紙を差し出した。
「えーっと」
「読んで!」
「なになに? 材料費高騰を受けてコンフリクトソウル生産終了のお知らせ?」
「今すぐ魔王をぶっ殺して戦争を終わらせるんじゃああああああ!!!」
「お前が? 魔王を?」
「俺には特別な魔法がある!」
「アレか? しかし、アレは、強力だが……」
「俺の魔法が通用することを証明します! だから! 卒業ダンジョンに挑戦させてください!」
「そこまで言うのなら、いいだろう……。しかし、失敗すれば命を散らすかもしれない。生きて帰ったなら」
「授業真面目に受けます!」
そうして、卒業ダンジョン前に
「これがダンジョン!」
「この中には低位から中位のモンスターが潜伏している。ダンジョンの核を持ったボスモンスターを打倒すればクリアだ」
グリーン先生が説明してくれた。
よし!
覚悟を決めて踏み入ろうとした時だった。
「マーシャル! 待って!」
剣を持った委員長が走ってきた。
「あ、アンタが卒業ダンジョンに挑むって聞いて!」
「委員長どうして? 委員長は補習なんか受けないから知りようがないよね。それに、付き合う理由なんか」
「知ったのは! 補習組の友達が教えてくれた! 付いてくのは、アンタみたいな落ちこぼれが! 絶対に生きて帰るわけないから!」
ひっどい!
「俺だって勝ち筋の無いまま挑むわけじゃない!」
「筋でしょう!? 絶対にクリアできる自信があるわけじゃない!」
「くっ!」
その通りだ……。俺の固有魔法は強力な反面不安定なものだ。だから、分の悪い賭けである。
「でも、挑まないと! クリアして魔王を倒しに行かなきゃ! CSがなくなっちゃう!」
「アンタ正気!? カードゲームの為に命賭けるの!?」
「正気じゃない! だって! 戦争を終わらせなきゃ! 生きてる楽しみがなくなっちゃう!」
「いっちゃってるよ。アンタ。でも、そんなアンタだから……」
だから?
「アタシも行く!」
「はぁ?」
「ほっとけないもん! 委員長だから!」
委員長は正統派の剣士で俺は魔法使いだ。だから、実は物凄く助かった。
道中の雑魚は
「はああああああああああ!!!」
委員長の剣技と
「バン!」
俺の雷撃、爆破魔法で簡単に殲滅されていった。
こうも上手く回るのは委員長がヘイトを稼いでくれるからで、巨大な蛇の頭部が転がった。
1人なら、もっと魔力を無駄遣いしていたことだろう。
「サンキューな。委員長」
「マーシャル。その呼び方止めて」
「えぇ?」
「ゾフィーって読んで。命を預けあう仲だから」
「……。ゾフィー」
女の子を愛称で呼ぶの気恥ずかしいな。委員長の名前はゾフィーヤ・キッペンベルグという。
「なら、俺もティガーでいいよ」
「……!」
委員長は何故か顔を赤くした。
「どうした?」
「て、ティガー?」
「うん……」
委員長、いやゾフィーは更に顔を赤くした。
さて、雑魚どもを順調に殲滅してたどり着いた中層だが、
「中ボスがいる」
「マーシャ……ティガー。ここは避けて通りましょう。2人だけであれの相手をするのは、消耗が激しい」
「りょーかい」
目指すべきは深層の大ボス。こんなところで無駄な体力と魔力を使うわけにはいかない。
俺達は気配を殺し、更に俺の迷彩魔法を使って中ボスの横を素通りしようとした。
「マー、ティガー。凄いわ。とても毎日カードゲームばかりしている落ちこぼれとは思えない」
「よいしょはいいよ。それよりももっと声を殺して」
その時、中ボス、ミノタウロスの目がこちらを
「今、こっちを見なかった?」
ゾフィーの言う通りだ。
「あぁ……。走れ!」
「BUMOOOOOOOOO!!!」
ミノタウロスが追ってくる。
「うおおおおおおお!!!」
「ラピッドストリーム!?」
俺は、ゾフィーを抱えて風魔法で加速しながらダンジョンの深層へ向かう。
「ちょっと! こんな高等技術どこで!」
「入学前に大抵のことは勉強したわ! これでも昔は真面目だったの!」
だから、余裕かましていた。雑魚どもをすり抜けると、そいつらがミノタウロスに潰されて挽肉になっていく。
「アレに2人で挑むとかバカじゃん」
「自己紹介は後!」
ミノタウロスから逃げて回って数十分。
「うっぷ。気持ち悪」
「魔力枯渇じゃない!」
「色々サボってたツケが回ってきたかな」
「カッコつけている場合か!」
とゾフィーが背中をさすった。
「いいんだ。これで」
「でも、ティガー! ミノタウロスが!」
「迫ってるねぇ」
「落ち着いてる場合!?」
「はは! まぁ、落ち着けよ。追い詰められている時こそ肝心なんだよ。CSでライフが削られるようにな」
「はぁ!?」
ミノタウロスが突進してくる。
今だ!
俺は、なけなしの魔力を振り絞ってゾフィーを抱えて横に飛んだ。
「この壁の裏は、大ボスの部屋だ。ミノタウロスとメドゥーサの怪獣大決戦ってわけ」
「はぁ! よかったぁ!」
と、ゾフィーが抱きついてきた。
「お、おい!」
「よかったよ! ティガーが無事で!」
「……。ミノタウロスが暴れたお陰で大半の雑魚が死んだ。暫く休憩して魔力と体力を回復しようか」
「了解」
そんなわけで俺達は、岩場の陰で休憩していた。
「委員長いいや、ゾフィーが来てくれて助かったよ」
「へ?」
「ゾフィーが前衛をやってくれてやりやすい」
「そ、そう」
ゾフィー熱でもあるのかな。
「体調不良はやめてくれよ? CSの未来がかかってるんだから」
「アンタってそればっかりだね。大丈夫。体調は万全だよ」
「CSは俺の人生だよ」
「私もやってみたいかも」
へー。
「デッキ! 実は2つあるんだなぁ! これが!」
「アンタまさか!?」
「そ! やろうぜCS!」
「ありがとうございました。いいバトルでした」
なんと俺は、初心者のゾフィーに3連敗するのだった。プライドズタズタである。
「CSって楽しいね」
「そりゃあ3連勝もしたら楽しいでしょうね」
ゾフィーはご満悦のようだった。
轟音がボス部屋の向こう側からしたのはそんな魔力、体力、気力が充実した時だった。
「それじゃあ行きますか。CSを救う冒険の第一歩だ」
「ティガー。私も、CSもっとやってみたいから、一緒に世界を平和にしよう!」
俺達は、この時初めてかけがえのない友達同士になった。
あの轟音は、中ボスのミノタウロスと大ボスのメドゥーサの決着の音だろう。
俺達は、大ボス部屋の入り口の前にいた。
「この先のメドゥーサを倒せば、前線へ行くことが許可される!」
「そこで、魔王軍を蹴散らして戦争を終わらせることで、CSの原材料である紙の高騰を抑える」
「ついでに名声も付けばCSのプレイヤー人口も増えるって寸法よ」
「荒唐無稽な話だね。でも」
「付き合ってくれるんだろ?」
「勿論!」
俺達は、2人で石の扉を開けた。
そこには、巨大な蛇がいた。
「すげぇ! CSのカードのモチーフになるだけあるぜ!」
巨大な蛇の頭部のあたりには、金髪碧眼の美女の上半身がついているのだが。
「ヘイト! 頼んだぞ! ゾフィー!」
「うん!」
俺は、ゾフィーにメドゥーサの相手を暫く任せる。
酷だが、これが俺のいや、俺達の勝ち筋である。
「はああああああああああ!!!」
ゾフィーがメドゥーサの胴を切りつける。
すると、赤い目が、ゾフィーを睨みつけるのだった。
俺は、それを見計らって、魔力の充填を開始した。
俺の、固有魔法。それは、幻獣召喚というものだ。
魔力を編んで、仮初めの生命を顕現させるもの。
しかし、これは想像力というものが必要で、想像力の弱い俺には使いこなせるものではなかった。今までは。
「コンフリクトソウルと出会った俺ならいける!」
励起開始!
「コンフリクトソウル! リアライズ!」
「コンフリクトソウル! リアライズ!」
そのふざけた詠唱を私は耳にした。
「天を割け! 昇竜よ! 龍皇帝! ロード! ナイトドラゴーン!」
ティガーが、カードを掲げる。
すると、カードの絵柄から飛び出してくる。赤い龍が。
「CSのソウルズを実体化しているの!?」
その通り!
俺の貧弱な想像力をカードのイラストと効果が補強してくれる!
「ロードナイトドラゴンの効果! 相手を指定して攻撃できるぜ!」
龍皇帝が咆哮してメドゥーサに突っ込む。
「ゾフィーー!」
余波で吹き飛ばされた彼女をラピッドウィンドで受け止める。
「あ、ありがと」
「どうも!」
「でも、あの龍も石化光線を使われたら!」
「CSで言えば指定されたソウルズは攻撃と防御が出来なくなるみたいなもんだろ? 大丈夫!」
「へ?」
「ロードナイトドラゴンはバトルしている間、相手の効果を受けない!」
ロードナイトドラゴンをメドゥーサの赤い瞳が捉える。
そして、
「きゃ!」
禍々しい光線が発射され、龍皇帝の胸に直撃する。
しかし、
「GUOOOOOOOO!!!!」
彼は、それをものともせず、巨女の首を掴み叩きつけた。
再び咆哮すると、彼は、爆炎をメドゥーサに浴びせるのだった。
こうして、俺とゾフィーは卒業資格をゲット。勇者学校から旅立つことになった。




