7.静かな夕暮れと、ささやかな趣味
おじーちゃんとぺちゃくちゃ雑談しながらの除草作業だったので、周囲が終わる頃には夕方近くになってしまっていた。
《お家に帰る時間だよ》
「もう? まだ明るいけど」
《もう夕方が近い。ちゃんと夕飯は食べないと、大きくなれないからね》
「私、流石にそろそろ、成長止まると思う」
《エルフならまだ大きくなれるよ》
「そうなの?」
生活魔法の水生成を唱えて手を洗っていたのを、思わず立ち上がった。
《エルフはヒューマンよりも、少しだけ成長が遅いんだよ。ハイエルフのシシーは……多分エルフと同じくらいか、それより遅いかもしれないね》
「じゃあ私はまだ背が伸びるかもしれない?」
《そうだよ、だから食事をしっかりして、睡眠もちゃんと取らないといけない》
「分かった。じゃあおじーちゃん、また明日」
《また明日、シシー。……お墓のこと、ありがとう》
笑顔で手を振って、世界樹に背を向ける。
もしかして彼の心残りとは、あの最後の住人のことではないだろうか。それならばこれだけ好意的であるのも……いや止めよう。始めにそう決めたのだから、詮索もなしだ。
それにしても、成長期、終わってなかったんだな。童顔なだけだと思ってたよ。道理で。しかし流してしまったけど、世界樹の言う少しだけってどのくらい? 何十年? ハハ、まさかね。あ、良かった。数年だって。
コテージに戻って、作業台に向かう。さて、解体の続きをやろう。骨を全て外してまとめる。これは牛骨スープを作るときに使うので、綺麗に洗う。
あっ、清掃を使えばよかったんだ。まだ魔法を使うのに慣れない。
落ち込みながらも、骨にクリーンをかける。自分で洗ったよりも綺麗になってしまった。そうだ、皮だってクリーンすればいいじゃないか。
悔しい。歯噛みしながら、剥いだ皮へクリーンをかけた。きれいな革になりました。
しかし骨を外すだけで時間がかかってしまったので、これ以上は夕飯の支度時間を圧迫する。またもや解体途中でバッグに押し込むしかなかった。
これはいつ終わるのだろう。考えていた以上に時間がかかる。そのうち慣れれば数時間で出来るようになるだろうか。
今日の夕飯はと。
もも肉を薄切りにして、長芋のようなものを、スティック状に切る。薄切り肉を芋に巻いて小麦粉をまぶし、フライパンで焼く。
豆腐を適当に切る。キムチも適当に切る。残った薄切り肉も適当に切って、更にニラっぽい匂いの香草も切る。片手間に肉巻きをコロコロ転がしながら、鍋に水と鶏ガラスープの素と醤油、キムチを入れて煮る。
そろそろだとフライパンで醤油・酒・味醂・砂糖で味付けした肉巻きを、皿に盛った。
味付けって結局、醤油・酒・味醂・砂糖の組み合わせが鉄板で美味いんだよな。
鍋が沸騰したので薄切り肉と豆腐を入れてさらに煮込む。香草を入れてかき混ぜ、器に盛った。
後はご飯。やっぱりご飯が恋しくなる。茶わんに盛って配膳。
出来上がっているご飯が入っているマジックバッグ、最強ですね。
それではいただきます!
まずは肉巻きを一口。ホクホクとした芋の食感と旨味のある柔らかい肉が和風の味付けに合う。ピリッとした痺れは薄切りだからか、あまり感じられないのは残念。残りの欠片をご飯とともに食べてみる。美味しいけれど、ステーキほどの感動が無い。この肉は薄切りには向いていないかも。せっかくの味覚が。それとも力量の問題か?
豆腐と薄切り肉のキムチスープを食べてみる。旨味はしっかり溶け出ているがやっぱりピリッと感は薄く、キムチの辛味と酸味に負けそうだ。けれど、豆腐との相性は良いようで、口休めにもなる。香草はわざと生のシャキシャキを残したのは正解だった。キムチの白菜とまた違った食感が出てきて差が面白い。
総評、辛味と痺れの共演はならず。精進あるのみ。
それでも日本食としては美味しいので、ご飯、スープ、ご飯、肉巻き……と交互に食べると、白米がどんどん消えてしまう。
全部食べ終わって、ごちそうさまでした!
さて、今までなら片付けを済ませてお風呂に入って就寝なんだけど、まだちょっと早い時間だ。
ここはそう、趣味の時間である!
採取したままだった薬草、たくさんのヒール草を取り出して、クリーンをかけ仕分けを始める。
良品と最良品だけ採ってきたから、二種類の山ができる。ここで改めて虫食いやら傷やらあるものは弾く。最良品はまだ使うのはもったいないから、バッグにしまい直す。使用するのは良品の山の方。良品で結果が出たら最良品を使う予定。
だいたい葉の大きさごとに仕分ける。これは、若い葉と、ちょっと若い葉、育ちきった葉の区分けになる。三つの山を作って更に半分ずつに、六つの山が出来上がった。これは片方は乾燥させ、片方はそのまま使うようにするためだ。
弾いた葉は傷ついている所を、調合用にしたナイフで切り取る。お風呂上がりにでもハーブティーにして飲もう。
窓辺に長机を設置して、乾燥させる分を一枚一枚丁寧に置いていくが、ふと、魔法で乾燥させたものと自然乾燥のもの、何か違いがあるか気になった。半分を回収して、魔法で乾かす。後は自然乾燥の分を待とう。調合フォルダを作り魔法乾燥ヒール草と名前を付けその中の大・中・小フォルダに入れる。
生のままで使う三つの山を、これまた更に半分にして、未乾燥の大・中・小でフォルダ分けして入れる。
最後に残った三つの小さな山。この葉から茎とそこから伸びた太い葉脈を切り取る事にする。
ナイフだとちょっと切りにくい。メスとか、あったりして。マジックバッグで検索をしてみると、あった。しかも何種類も。
知らなかった、メスの刃って脱着使い捨て方式なんだ。
まさか私に手術の予定があるとでも? 調べれば、鉗子もあった。きっと他にも私の知らない手術器具が入っている。
気を取り直して、メス、種類があってもわからないから適当に、次にピンセット、これはカーブしているものを取り出した。
この茎の部分があるのとないの、違いが出るか知りたいんだよ。問えば分かるけど、これは趣味なので聞かない。
一枚ごとに慎重に、ピンセットで押さえて、メスで切り取る。出来たら未乾燥の茎なし大中小フォルダ行きだ。無心でやっていたら、三つの山がなくなっていた。
はっ、マズイ。ずいぶん時間が経っていた。おじーちゃんに叱られそう。なにせ彼にとって、私はちっちゃい子供みたいなものだから。
あながち間違いではない。異世界に来たばかりで、ピカピカの零歳児と言ってもいい。知らない事ばかりだから、さぞかし幼く感じるだろうし、反発心は起こらない。
しっかり片付けをすると、風呂場へ駆け込む。今日はシャワーだけで済ませよう。慌ただしく髪や体を洗い終え、髪を乾かす。
どうしてもクリーンだけだと落ち着かないんだよね。抗えない日本人の性よ。
化粧水のお陰でいっそうもちもちした頬で遊ぶ。絶対若さのせいだけじゃない。この化粧水も凄い成分が入っている。乳液を手にとって顔へ薄く塗り込む。あまり塗るとベタつきすぎて良くなさそうだ。油分が多いとせっかくのきれいな肌に、ニキビができてしまいそうなので。化粧水だけでも良かったのかも。身体に乳液は止めておこう。
幻惑蚕のシルク製パジャマを着込んで、ヒール草の葉を三枚ほど使って、熱いハーブティーで水分補給。
うん、薬湯って感じ。嫌いじゃないけど、好きでもない、普通。
ハーブティーってそんな感じだよね。
フーフーと冷ましながら全て飲み干す。思いついて、魔道具の冷蔵庫にハーブティーを水出しにしてみる。明日の朝飲んでみよう。
歯を磨いてベッドに潜り込み、明日は何をしようか考えていたのだが、掛け布団のお陰で一瞬で眠りに入った。
結局何も決まらなくて、明日の朝困ること決定ー。
次話12:00予約投稿です。
モンスターの名前考えるのツライです。




