5.森歩きと、はじめての晩ごはん
残酷描写あり。いまいちわからないけど多分そう。
てくてく歩いて、たまにモンスターが出てくるので、魔法を放ってマジックバッグに入れる。森の中を歩くって、なかなかに大変だと知らなかった。ハイエルフのくせに森歩きが下手とか、恥ずかしくて人前に出られないよ。
テントで一泊した後、隠れ里を目指して歩いていると、あちらこちらに薬草や茸、食べられる木の実なんかが見える。野菜まで生えているから、案外この森は豊かだ。採るような人間が来ないからかもしれないのは、少し複雑な心境だった。
少量の採取をして、マジックバッグへ分類して入れる。取りすぎは資源枯渇の要因になるから、エルフとしてはよく注意しなければならない。どうしても足りなければ、私にはアイテムバッグがあるから大量には必要ない。
でもそうしていると、足元の注意がおろそかになって音を立ててしまう。忍び足の失敗だ。音を立てればモンスターに気付かれて、襲われたりする。気配や魔力の察知まで切れていて、慌てて魔法で退治して獲物としてバッグに入れるのだけど、攻撃魔法も目標からズレたり、スカったり、魔力を込めすぎたりする。
これはスキルがあるのに経験が足りない、つまり習熟度が低いから失敗する。何事もやってみないことには、実感がわかない。初めてモンスターと対峙した時は、酷いへっぴり腰だった。けれど回数を重ねるうちに心境だけでなく、採取も忍び足も魔法も察知能力も、少しずつ上手くなっているのが目に見えて分かる。習熟速度上昇のスキルが働いて、普通の人の数倍も速く出来るようになっていくから、地道に努力するのも楽しくなる。
しかしこの調子では、いきなり人里へ行っても失敗ばかりしていただろう。エルフっぽく振る舞えるまで、里で生活した方が疑問を持たれにくいだろうから、本格的に里の整備をしようと決めた。
ようやく着いた隠れ里は、確かに草が生い茂ってはいたが、考えていたよりは荒れていなかった。
ひと通り風魔法で草を刈り取り、一番マシな家を覗き込む。
ああ、この人が最後の住人なのか。
ベッドに横たわる白骨。そっと手を合わせると、墓地を探しに周囲を歩き回った。
あるはずの嫌悪感はなく、ただ哀悼の気持ちだけが心にあるのに、意外に思う。これも精神耐性のせいなのか、それともハイエルフとして心が変化しているのか。心が知らないうちに勝手に変わってしまう恐怖はあるけれど、彼、あるいは彼女をしっかりと弔ってあげられるのは、きっと良いことだろうと判じた。
探し回ること暫し、やはり草が生い茂っていたが、墓地を見つけた。
ここばかりはと、手で直接草を抜いていく。流石の私でも、墓地で風魔法を使って、草をまき散らす気にはなれなかった。
一人分葬れるくらいの除草を何とか終わらせ、土魔法で穴を掘ると家に引き返す。
マジックバッグから植物布をアイテムバッグに入れて何枚か取り出し、簡易合成で大きな布を作り出す。そしてそっと全ての骨を包み込むと、安置すべく静かに墓地へと向かった。
家にあった細々とした持ち物も一緒に穴に入れて、エルフ式の葬儀をたどたどしくも行い、今日からの宿を里の元の広場に定めて結界付きコテージを取り出す。
スキルの訓練をしながらの森歩き、更に草刈りの後に慣れない葬儀と、少々くたびれた。墓地の除草も半端だが、明日頑張ればいいか。今は昨日入れなかった風呂にゆっくり浸かりたい。
その前に今日の成果である、痺れ牛の仔の解体をして食べてみようと思う。
昨晩はバッグに入ったハンバーグセットだったし、朝は卵サンド、レタスサンドをいただいたので、初料理だ。多分出来るはず。スキルだってあるし、記憶はないけど、イケる! と感覚は言っている。
因みにお昼ご飯は里に着いたゴタゴタで忘れてしまったので、結構お腹が空いているから、なるべく早く済ませたい。
コテージ内の作業台に仔牛を取り出すと、水魔法で血を絞り出して解体用ナイフで皮を剥ぎ、内臓を取り出したら風魔法で縦半分に。魔石を取り、空間魔法で低温空間を作り、肉を入れて時魔法で時を進めて熟成させる。片方だけ部位ごとに分割。ここまででずいぶん時間がかかってしまった。慣れない解体は無理があったか? 空腹が辛い。今回は食べる部位だけ磨くか。
初めての狩りの成果だし、ここはやはりリブロースにしよう。まさかの仔牛を狩ることができたのは僥倖だ。鑑定に食用で非常に希少で美味とあったから、異世界の美味に大いに期待している。
更に分割してから筋や脂を取り、肉厚のステーキ状にカットする。大胆に二枚頂こう。
エルフだってお肉食べるよ! 森の狩人だからね!
菜食じゃない事への謎の言い訳をしつつも、解体途中の肉をファイルを作ってバッグへ雑に押し込み、汚れた作業台の始末をすると、いそいそとキッチンに足を運び、肉へ念入りに浄化ピュリファイと清掃クリーンをかけて塩を振って置いておく。
採取したレタスっぽい葉物野菜を洗って適当に千切り、ボウルへ入れる。ムカゴっぽい小ぶりの芋を洗って、皮を剥いてから水の入った鍋にぽいっとして茹で始める。パンは白パン一つでいいか。今回はお肉でお腹を満たしたい。
先ず一枚目は切り落とした脂を引いて、ミディアムレアに焼いて胡椒をかけて少し置いてからバッグに退避。フライパンに残った肉汁と溶けた脂に醤油で調味して、茹でた芋を一口大にして、葉物と一緒にソースで和える。二枚目はレアに。肉に胡椒をかけて同じようにバッグに入れたら、フライパンに更に脂身と塩胡椒、お湯を加え、長ネギっぽいのを刻んで入れて、アツアツスープの完成。
さあ食べよう、すぐ食べよう! お腹が減って鳴ってるよ。テーブルに配膳してすぐさま座り、ミディアムレアからいただきまーす!
おお! 臭みが全く無く、凄くジューシーだ。強い旨味の奥に辛味にも似た微かな痺れが、今までにない新たな味として感じる。肉なのにくどさが全くない。さっぱりとしていて、弾力があってもとても柔らかいから、いくらでも食べられそう。
つまり、やばい。美味い。幸せ〜。あっという間に一枚目をぺろり。脇目も振らず食べていた。
申し訳程度の野菜も食べよう。肉汁も脂もソースとして余さず使ったからきっと美味しい。パリッとした葉物に絡んだソースがうまい〜。肉汁と脂に少し焦げた醤油が深みを与えている。更にレタス擬きの香りが華やかに鼻から抜けて、爽やかな後味になっている。ムカゴ擬きはこれまたよく絡んだソースの塩気と旨味がアクセントになって、甘みが余計に強く感じて美味いぞー。芋特有の少しねっとりとした口触りに、また葉物が欲しくなる。
スープはどうだろう。脂がたっぷりだから熱いんだよね。よし一口。アッツい! けど美味しい。塩胡椒だけのシンプルな味付けだからこそ、肉汁と脂の旨みがハッキリと分かって味わえる。これだけでご馳走だけど、生のままのネギがシャキシャキして、食感まで楽しめるようになっている。熱いから一気に飲めないのが残念だけど、少しずつ楽しむのもまた一興だ。
二枚目のステーキいきましょう。今度はレアだけど、どう違うかな。うん、僅かだった痺れを少し強く感じる。火を通すと痺れが弱くなっていくんだ。流石は異世界食材。私はこれくらいの痺れが一番美味しいと思う。強過ぎても痛いだろうし。次に食べるとしたら、レア一択だね。
あれだけ分厚いステーキを二枚目だというのに、あっという間に食べ終わってしまった。行儀が悪いけど、皿にこぼれた肉汁も全部パンですくって食べちゃおう。
今日の夕飯は大勝利じゃない? ご馳走様でした!
お腹もいっぱいになりすっかり気が緩んだので、このままの気持ちで眠りたい。ぬるめのお湯に浸かってぐっすり寝よう。
着替えを用意してお風呂に向かう。魔道具でお湯を出して、その間に歯を磨く。髪と体を洗ってから、ザブンとお風呂に飛び込んだ。
結局日本人の心を持っていれば、お風呂の誘惑には勝てないんだ。
はふーと満足のため息が出てくる。しっかりと芯まで温まってから、お風呂を出る。
火魔法と風魔法で髪を乾かして、お肌のケアを済ませたら、今日の営業は終了です。高級布団を被ってお休みなさい。
次話12:00予約投稿です。




