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第8話「ある不器用な男の後悔と希望の話」④

「ルーカス様?珍しく、ちょっとぼんやりとお口なんて開けて可愛らしい…ゴホン。いえ、心あらずなご様子ですね。お疲れですか?」


目を刺す太陽の光に、エリザベートの声。


「エリー!」


感極まって思わず、大きな声を出してしまう。


エリーも周りの侍女達も、吃驚した目で俺を見るがそんな視線はどうでもいい。


戻ってきた!


精霊の力で、2週間前の定例のお茶会まで時間が戻っている!


2週間前のお茶会は、フィオレッティ公爵家で行っていた筈だ。正にこの場所だった。


エリザベートのドレスも記憶と同じだ。


胸ポケットに収められた指輪から、力強い魔力を感じる。前回、持ち歩いていた記憶はないが、当然のようにそこにある。


契約は本当だった。


さっきまで、血塗れでぐったりとしたエリザベートか脳裏から離れなかった。


しかし目の前の彼女は、表情も豊かで、忙しなく腕を動かしたり伸ばしたりしている。


エリーは普段と違う俺の様子に慌てているようだ。


(いと)おしい。愛らしい。可愛らしい。冷たくない、君の温かい体温を感じたい。


「ルーカス様、今日は少しご様子がおかしいですわね。本当にお疲れなのかも。甘いお菓子で糖分をどうぞ!うちの自慢のシェフの力作ですわ。一緒に味見したので、味の保証もばっちりですわ!」


俺の面前にクッキーの皿を差し出してくる。


駄目だ、やっぱり可愛すぎる。気を引き締めても顔が緩んでしまう。

さらには涙まで滲んでしまう。


表情管理には自信があった方だったが、今だけは無理だ。


俺は両手で顔を覆い隠し、気付かれない様に涙を流した。


その間、エリーの動揺した様な、オロオロと動き回る気配を感じたが。それでも無理だった。


その日は、彼女に赤くなった目元を見せるのが恥ずかしくて、よく目を合わせられないままにお茶会は終了した。


帰りの馬車の中、指輪から精霊たちが姿を見せた。


「どうどう?私の力がわかったでしょう!これは、()()()()()()()()()()()()()()()けど、全て現実よ。感想はどう?あの子も本物だったでしょ?」


「ああ。確かに本物のエリーだった」


俺が質問に答えると、さらに嬉しそうに声が大きくなった。


「そうなの、彼女も君も全部本物!これがこの魔法の凄い所よね〜。うんうん、もう本当に凄くて難しい魔法。だから、代償は痛くて痛くて辛いかもしれないわよぉ」


クスクスクス。青い精霊の笑い声が馬車の中に広がる。


「わかった。この魔法は本物だ。しかし、お前だけとしか契約していないよな?」


青い精霊に隠れていたヘーゼルの妖精はひょこっと顔を出した。


「う、うん。時間を巻き戻す魔法は青いあの子の物だよ。だから君の契約者はあの子だけなんだ」


精霊は真名を持つから、通称で呼ばれる。


一時的に名前をつけられるのも嫌いだとも聞く。会話が間怠(まだる)っこいが、まぁいい。


「ヘーゼルの妖精、お前とも契約したい。お前も石から解放されたほうがいいだろう?」


「え、え、それはそうだけど。青いあの子より凄い魔法は使えないよ…?」


不安気に下に向けた視線を左右に何度も動かす。


「それでもいい。精霊は契約に対しては嘘をつけない。それは本当なんだよな?聞かれないからと黙っている場合を除いて」


「……う、うん。精霊も軽々しく契約に違反しない。自分が魔に落ちちゃうから…」


「何よ何よ〜私を放って、ヘーゼルの子とお話してるの?その子より、永く生きている私のほうが凄いし強いのよ。別に、君がその子まで解放してあげる為に契約するって言っても止めないけど〜」


ちらりともう一人のヘーゼルの精霊を見る。


「代償に耐えられなかったら魔法が壊れるの。あまり余所見している場合じゃないと思うんだけどなぁ。その壊れた時の魔力で私は解放されるから、どっちにしても、損しないけど。うかうかしてるとあの子もあの時みたいにバーン!よ?」


青い妖精はペロリと指を舐めた。

エリザベートが狙撃された時の話か?毎回こちらを苛立たせてくる奴だな。


「まぁ、君が魔法を完成させて契約が完了しても、その時にも私は解放されるけど。うーん、ヘーゼルの子は契約してもそこまで役に立たないと思うわ。でも、簡単な契約をして、私より()()が早く解放されるのは嫌だな〜」


「それは約束しよう。契約に、君より先にこちらの精霊を解放しないと。ただ、契約はこの精霊と2人で決めて結ぶ。君は少し席を外していてくれ」


青い精霊は、膨れっ面をしながらも目の前から消えてくれた。魔力を探っても強力な存在は近くに居なそうた。


「さっきの精霊には契約内容を聞かれたくない。大丈夫そうか?」


ヘーゼルの精霊は、数秒目を閉じた後答えてくれた。


「た、大丈夫そうだよ?気配を感じないし、聞き耳も立てられない様にしておいた。そ、それで契約?聞かれたくない契約なの…?」


「あの青い精霊。魔に落ちかけているだろう?」


「!」


「だから、俺が代償を支払っている間、もしくは魔法を完成させる時に邪魔をしてくる可能性がある」


「ど、どうしてそう思うの…?あの子は…その。力が、強いけど…魔なんて…」


いつも以上に歯切れが悪くなっている。予想は当たっているのだろう。


「だから、ここでお前と契約したい。契約内容は…」


ヘーゼルの精霊を説得する。


(交渉の基本だ。相手が求めているものを差し出す)

この精霊が望んでいるもの…。それは少し考えればわかる。


「わ、わかった。その時は僕が全力をだすよ。これで契約成立だね、よ、宜しくね」


精霊との握手は俺の人差し指だった。

エリザベートなら、かわいい等と騒ぎそうな光景である。


これで契約は結ばれた。

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