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第7話「ある不器用な男の後悔と希望の話」③

あの後、俺は茫然自失のままに部屋に戻っていたらしい。血だらけの服が新しいものに変わっている。


「ん…なんだ…?」


机の上に置いてあった、例の指輪がチカチカと光っていた。


「ジャーン!あなた、王族でしょ!私と契約した癖に何百年も放置した人間の子孫!っていうかねぇ、人間って酷いよね。私がどんだけ退屈だったか!なんなら、私と契約してバーンと何か叶えて、私を解放してくれない?」


いきなり出てきた手のひらサイズの生き物が、俺の反応を無視して話しかけてくる。アンバーとブルーの色彩の生き物が2匹。


どちらも人型をしている。高位精霊か。


「ね、ねぇ。この人怖そうだし、自由になるのも面倒じゃん。放っておこうよ…」


アンバー色の精霊はビクビクとこちらの顔を伺いながら、もう一方の精霊の裾を引っ張っている。


城の宝物庫から頂いた宝石、それに宿った精霊だろう。かなり珍しいが、王城にあっても不思議では無い。


「あー、あ~。成る程成る程。あの子が死んじゃって悲しいのね?死者蘇生なんて流石の私にも無理だけどぉ。代償によっては2人とも生きていけるチャンスをあげるわ!」


青色の精霊が、俺を指差しながら提案してくる。


やり直すチャンスだと?

それは今の俺に一番必要な言葉だ。


「お前、本当にエリザベートを蘇らせられるのか?」


「だから〜、死者の蘇生は無理なんだってば。でも、ほんの少しだけなら時間を巻き戻してやり直す事は出来るよ」


青色の精霊がクルクルと飛び回りながら説明する。


「結構な代償が必要だけどね。どうする?私の話を聞く?」


かなりの代償を伴う契約らしい。時間を巻き戻すなんて前代未聞だ。そんな事はどんなに貴重な魔道具を使っても不可能だろう。


()()()()()()()


だが、今の俺にとっては唯一の希望だった。


「ああ。詳しい話を聞かせてくれ」


「時間を少しだけ巻き戻してあげる。まぁ、長くて1週間か2週間が限界かな?そうしたら、あの子の死は無かった事になるでしょ?」


「成る程な。なら、時間を巻き戻す代償とやらは?」


「君の死。それも1回じゃ足りない。何回もの君の死が代償だよ」


青色の精霊は、ニンマリと笑う。見た目程、純粋な存在ではなさそうだ。


「俺の死?俺の命は一つしかない。1回死んだら終わりだぞ」


「そこは、時間魔法が勝手に生き返らせると思うよ。魔法で設定した期間を過ぎると、魔法が君の命を回収する。ここで言う期間ってさっき言った1〜2週間ってやつね。でも、代償がまだまだ足りないから2人ともまた生き返る。そしてまた君が死んでって感じ!

代償を支払い終わると魔法が完成だよ。君の死とその苦痛。十分に魔法の対価になるよ」


「毎回、時間を巻き戻すのか?色々と影響がありそうだが」


「で、でも。魔法が完成するまではただの不確定なふわふわ〜っとした時間軸だからね。流石に何度も時間を弄るのは大変だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それが本来の歴史って事になるんだ」


「難しい魔法は代償が物凄いんだ。きっと君は死ぬ度に物凄い苦痛を味わう筈だよ。だから、完成しないで壊れる魔法は多いんだよ〜」


この青い精霊。詳しいことは語らないつもりの様だ。


そして、魔法が壊れたデメリットを教えてくれるもう一方の精霊は信じられるのか…。


精霊の話を全部信じないほうがいいだろうな。


精霊の気まぐれなんて俺には判断が付かない…しかし。


「魔法が完成しなければ、彼女は死んだままで何も変わっていないって事か。なぁ、何回も俺の死が必要なら連続で殺せばいいじゃないか」


俺を殺して、すぐに時を巻き戻して生き返らせる。そしてすぐに殺す。

これが1番効率的だ。


「もう!私たちは精霊だよ。君の命なんて私たちは要求して無いよ!時を戻す魔法を君に使ってあげるだけ。とりあえず、彼女が元気に生きているだろう1週間から2週間前に魔法を設定するだけなんだよ。君の命を何度も必要としているのは、私たちじゃなくて魔法の方!」


「俺が代償を支払っている間の出来事はどうなる?他人に干渉しても問題ないのか?」


「まぁ、流石に悪い事をする様な人間ならこの魔法は途中で壊すよ。そんな人間に協力したくもないしね」


「なら、お前たちへの対価は?ただの親切って訳でも無いんだろう?」


「うんうん、いいねいいね!話が早くて助かるよ。私たち精霊って、物に宿された瞬間から少しずつ劣化してしまうんだ。だから解放してくれる人間をずっと待っていたんだよ」


「解放?それはどうやったら出来るんだ?俺には多少の魔力があるが、精霊なんてものを見たのはお前たちが初めてだ」


「うーん基本的には、契約者が石を割ると解放されるかな。私たちの場合はその指輪。まぁこれは例外的なんだけど、気に入った人間にずーっとくっついていると劣化が止まる。人間の感情もエネルギーになるからね。私たちは楽しい事が大好きなのに、しまい込まれるって本当に苦痛なの!無理やり使われるのも大っきらい」


ずっと俺と青色の精霊の会話を聞いていたアンバー色の精霊が俺の近くまで飛んできた。


「で…でもでも、君が何度も死を繰り返すとね。あの子に影響が出ちゃうかもしれないよ?時の魔法の力が、君の目的であるあの子にも結びついてしまう…。…どんな影響が出るかは僕にも分からないけど…えっと、ごめん」


申し訳なさそうにモジモジと指を擦り合わせている。

青色の精霊よりは正直そうだ。


「エリーに影響が…。だが、死ぬのは俺だけなんだろう?エリー自体に危険は無いんだよな?」


「う、うん。直接的な危険は無いと思うよ…。それでね、でもね、代償を払い終わって魔法が完成した時に、君が無事かわからないよ…。も、もしかしたら壊れちゃって疲れちゃって全部が嫌になっているかも…。それにね、魔法が要求する代償は詳しく教えられないんだ。だから君が何回死ななきゃいけないのかは伝えられない…」


「ああ、大丈夫だ。覚悟は出来た。せっかく希望をくれたのに恨む理由も無い。あぁ、でも1つだけお願いしてもいいだろうか。どうせ俺の死が必要なら、エリーが受ける筈の怪我や死を全部俺に寄越してくれないか」


「う、うん。君が僕たちを身につけて居てくれたら、その位はしてあげられるよ」


チラリと指輪を見る。これでエリーが守れるのか。

肌身はなさずに持っていよう。


「有り難い。お前たちと契約しよう。よろしく頼む」


全てを信じたわけじゃない。


だか、俺にはこれしか選べない。

生きているエリザベートにまた会う事が出来るなら。


これが、悪魔だったとしてもその手を取ってしまっていただろう。


だか、悪魔だろうと精霊だろうと、契約の条件だけは騙せないという。


代償さえ払い終えれば、エリーが生きている時間に巻き戻る。元気で少し抜けた性格の、可愛らしいエリザベートが生きていた時間に。


目を開けていられない程の光を放ち、指輪から魔法陣が何重にも描かれた。


「これから君を、死の苦痛が何度も襲う。君がどれだけ耐えられるのか、それとも耐えられないのか、楽しみだね〜!」


クスクスと笑う精霊の声が聞こえたが、その声も遠くなっていく。

どんどんと、意識が薄れていき…プツリと途絶えた。


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