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第6話「ある不器用な男の後悔と希望の話」②

「ああぁああああああああああぁあああ!」


エリーが。なんで血だらけなんだ。俺のエリーが。………死んでしまう。死んでしまう!このままでは…死んでしまう!


「殿下!早く指輪を!」


ユーティスの声が聞こえる。


早く、早く早く早く早く。間に合わない。早くしないと。間に合わないじゃないか!


震える指でようやく取り出した指輪を握りしめ、エリーの傷口を圧迫する。



「エリー…エリー…エリザベート。君のこんな姿は見たくない。いつも通り元気な君を返してくれ…お願いだ!」


強く強く傷口を圧迫しながら、指輪に魔力を注ぎ込む。


守りの結界のお陰なのか。エリザベートの出血が止まった。だが、血を流しすぎている。首の傷も深い。


早く医者を。神官も呼ばないと。早く。


「ユーティス!早く治療出来る者を!お前、治癒魔法は!?」


だが。


「僕には、そこ迄の傷は無理だ!」


ユーティスも、妹の惨事を目の当たりにしたからか、声を荒らげてこちらに駆け寄ってきた。


「でも、この指輪に全力で魔力を注ぐ。多少の効果はある筈だ。君は他にアーティファクトは持っていないの!?王族だろう!」


普段から自衛の為に付けている装身具を全て外し、ユーティスに渡す。

「これも治療に使える筈だ。頼む、急いでくれ」

俺も魔力を注ぎ、エリザベートに祈る。


(お願いだ。死なないでくれ!)


近衛騎士が敵に対応しているので、この場はこのまま制圧出来そうだ。


しかし、本当の狙いはエリザベートだろう。

彼女は遠くから狙われた。彼女だけが、一番最初に、遠距離から狙われたのだ。


最初から彼女だけが狙いだったんだ。

畜生。俺の落ち度だ。


なんとしても、エリーを狙った人間を見つけてやる。

本宮から少し離れていても、ここは王宮の庭園だぞ?

真っ昼間から狙撃してくるなんて。


侵入経路も、手引きした人間も。さらにコソコソと隠れている黒幕も。全て殺してやる。絶対に許さない。


しかし、今は目の前のエリーを助けないと。


こんなに血が流れてしまっている。傷口はユーティスと魔道具のお陰で塞がったようだが、一刻の猶予も無い。


あまりにも傷を負った場所が悪い。一瞬にして、大量の出血をしてしまった。


「殿下、医者が到着しました。後少しで神官も来る筈です」


騎士に呼ばれて、宮廷医師が駆けつけたらしい。

が…。医者は俺が聞きたくない様な事ばかり伝えてくる。


医者は駄目だ。役にたたない。


「神官はまだか!?この場で他に治療出来る者は!?」


これ以上は聞きたくない。切羽詰まった報告なんて、碌なものじゃない。


傷口は塞がった。だが出血が多すぎる。後はエリーの体力次第。


周りはこんな言葉しか伝えてこない。


エリー、今は君が一番苦しんでいるんだろう。あんなに血が出たんだ。相当に痛かったはずだ。


でも。俺も。


耐えられない。耐えられそうにない。これからどうすればいい?もし君が居なくなったら俺は…。


時間感覚が無くなり、窓の外はいつの間にか夜になっていた。

部屋に運び込まれたエリーの側に座り込んでから何時間経ったのか。


気づけば、慌ただしく治療していた者達が減っていた。

ベッドの側には俺とユーティス。そして彼女の父のフィオレッティ公爵が居た。


この場に残っていた医者がエリーの腕を取って脈をみている。

「殿下…。たった今、」


医者の宣告が、俺には耐えられない。聞き取れている筈なのに、意味がわからない外国の言葉の様だ。


どうすればいいんだ、エリザベート。


あの日みたいにキラキラした瞳で俺にワガママを言って欲しい。今はそれだけでいい。俺は君が居なければ、あの頃のまま、つまらなくて下らない人間なんだ。


ああ、あまりにも辛すぎる。


ずっと握りしめていた指輪を見つめる。

「守護の加護」確かに一時的な効果はあった様だが結局は何にもならなかった。エリーに贈ることも出来なかった。


昼間の君はなんて言っていたっけ…。

少ししか話せなかった。


騎士と王子だっけ?はははは。

君の好みは知っているよ。騎士の方が好きだろう…?だから、俺も鍛えたんだけれどね。


これから、俺は冷たくなった君に触れてお別れをするのか?


医者が、侍従が、「最期のお別れを」なんて言葉で俺を急かす。


「どうして…」

公爵が呟いた。

ユーティスも俺も、きっと同じ気持ちだろう。


君を狙った奴らは全滅させてやる。末端だろうが黒幕だろうが、必ず根絶やしにしてやる。


でも、冷たくなってしまった君に触れて別れる覚悟が出来ない。理解したくない。だって、まだ、君の声が聞こえる気がする。


そこに君が居る気がするんだ。


これから結婚式を挙げて、2人で幸せになる筈だっただろう?


俺が、幸せにする筈だったんだ。


君が、これから出来るかもしれなかった子供達を叱っている場面だって想像できる。それで…。


(エリー。嘘だろう?こんなのあんまりだ。エリー)


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