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閑話「ある不器用な男の子の話」

ルーカス殿下視点のお話です。


あまり関係無いですが、昔は一人称が僕でした。

僕はルーカス=アルデベルト。

この国の王子だ。


そして、目の前のフワフワした金髪の小さな女の子に戸惑っている最中である。


「貴方が私の旦那様になるのね!なかなか素敵じゃない!うーん、でもでも、もっとクールでカッコいい騎士様になってくれないと。やっぱり私のヒーローは逞しい騎士様だわ…キャ!ちょっとお父様…!」


僕の前で腰に手を当て、堂々と語りだした小さな彼女を、男性の大きな腕が抱えた。


「エリー!こら!お願いだから勝手に動き回るな。な?お父様のお仕事を見に来てくれたんだろう?ほらほら」


あれは、フィオレッティ公爵?

王家の遠縁に当たる彼とは面識があった。この国の一翼を担う公爵家の当主だ。


公爵は、僕に頭を下げて娘を連れて行ってしまった。

騒がしい子だが、公爵令嬢ならばこの先、無下には出来ないだろうな。


そして、1時間後。


僕は、またあの女の子と対面していた。エリザベート嬢は、あの後に注意されたのか叱られたのか。

見事な膨れっ面で僕の前に座っている。


(私の旦那様か。朝から急遽スケジュールが空いたり、高位貴族の令息も見かけない訳だ。今日はこの子との顔合わせだったんだな)


成る程ね。僕には黙って進めていたらしいが、この子には先に知らされていたのだ。


自分の事なのに一切関わらせてくれない事への疎外感。きっと決定事項だったのだろう。僕が口を出すべきでは無いのはわかる。これは国に関わる事だ。


でも、僕だって子どもみたいに駄々を捏ねたりはしない。何だか僕の矜持が軽んじられた気分だ。


「エリザベート嬢、これから仲良くなる為に色々とお話をしましょう?」


僕は、おそらく7歳か8歳位だと思われる彼女に話かけた。


こんな子供の相手なんて簡単に上手くやれる。いつもの流れ作業だ。


貴族の子息は、僕が話しかけると、色々と自分の事を話してくれる。少しニコッと微笑んであげれば、大抵の令嬢も頬を赤らめながら会話してくれるのだ。



「イヤよ。無理やり連れてこられて、せっかく未来の旦那様かと思ってあなたに挨拶したのに!あの後、ヒドイ目にあったわ」


ギュッと目を瞑り、ブンブンと頭を振りながらエリザベート嬢は小さな身体で声を張り上げた。


「何であなたに好きな話をしてはいけないの?私は悪い事をしたの?あなたがイヤな話はしちゃダメなんでしょう?あなたが怒るような事もダメなんでしょう?つまらなすぎるわ!」



つまらない?これは僕が周りにいつも感じていたことだ。


「僕ってつまらないかな…?」

何処かでドクドクと心臓の音が聞こえる。


「つまらないわよ!ヘラヘラとよくわからない笑顔で話すし、そのわりに貴方を怒らせちゃ駄目で、喜ばせなきゃいけなくて。ケンカなんてしたら私が怒られるし。私は我慢して、あなたに合わせないといけないなんて!なんてヒドイの!」


僕はつまらなすぎる。


吃驚した。これまで僕は、自分は生まれながらに要領がよく、頭も良いから皆が集まってくるのだと思っていた。


この外見も助けてくれていたのだろう。皆が僕を褒めてくれる世界で生きていた。


でも彼女は、僕をつまらないと評した。

誰も彼もがご機嫌取りをしているだけだったのだろうか。

それを上手くやっていると思い込んでいたのだろうか。

王子、それ以外に僕が誇れるものって何だ?


生まれ持った物だけで、目の前の相手を勝手に自分より下だと判断し、さらには相手を侮り、退屈な人間ばかりだと感じていたのだ。傲慢にも。

こんなに傲慢な子どもなんて相手にしたくないという彼女は正しい。


「ね、ねぇ。君にとって価値がある人ってどんな人かな?えーと、つまらなくない人なら何だっていい。格好良く思える人、君が好きな人、なんでもいいんだ。教えてほしい」


彼女にもわかりやすい言葉で聞いてみた。

きょとんとした目でエリザベート嬢が僕を見る。


「うーんとね、エリーの話をちゃんと聞いてくれる人が一番好きよ!エリーはワガママでお馬鹿って小兄様に言われるんだけどね、でもエリーはカッコいいでしょう?やられたら、キチンとやり返すわ!言いたい事も全部言ってしまうわ。我慢も苦手。でも、そんなエリーをぜんぶ好きになってくれる人がいちばん好き!」


「それにね、さっきはヒドイことをいっぱい言っちゃったけど、あなただって私はつまらなかったでしょ?

でもでも、私の話もちゃんと聞いてくれたし、あなたはやっぱりいい人みたい。

きっと色々とつまらない場所だからだったんだわ!

ここにはケンカ仲間も走り回って遊ぶ場所も無いものね。イタズラ仲間がいれば、大人をビックリさせて遊べるのよ?今度、教えてあげるわ」


キラキラと輝く、その深い青色の瞳に魅了される。


「そっか。エリザベート嬢はカッコいいね。キラキラした宝物みたいだ」


この日、僕は自分を。特別でもなんでも無い、ただの1人の子どもなんだと認識した。


そしてもう一つ。キラキラと輝く鮮やかな人間も居るって気付いたんだ。


夏の月の第10の日。初夏の宮殿の奥、その庭園で、君は僕の不器用な笑顔をからかって笑っていた。


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