第4話
「だだだ駄目です!」
私は両手を離してもらうために力を込め抜け出そうとした。
ぬ、抜けない!
やっぱりこの素敵な筋肉は伊達では無いのね!
「何故…?エリーは俺の事を好きだったよね。いつもキラキラした瞳で気持ちを語っていてくれただろう。気づいていたよ。ずっとずっと嬉しかった。ずっとずっと好きだった。それに君にも記憶があるんだろう?お茶に毒が入っていた事を知らないなら、全部では無いのか?でも、それでもいい。俺は君が…」
ルーカス殿下が熱の籠もった目で話しだした。
普段はこんな性格では無いのに!
いやいやいやいや、もっと淡白でしたよね!
女性をこんな感じで口説くお人では無かったですわよね!?
「待って待って!だって今のルーカス様、おかしいです!何があったんですか?説明して下さい。私も貴方を助けたいんです。毎回、目の前で亡くなってしまう貴方を救いたいんです!」
あまりの状況に上手く話せない。上手く伝えられない。
お願い、わかって。何だかこのまま流されてルーカス殿下を受け入れても、良くない気がするの。
その時、ポンっと派手な音を立て小てさな精霊?が2人、私達の目の前に現れた。
そしてそのままルーカス殿下の頭をポコポコと叩いた。
「こら!これまで頑張ってきてここでやらかすな!ここまで来たら私たちだって君が幸せになる所を見たくなっちゃったんだよ!」
「そ、そう。せっかくもう少しだよ。彼女の為に頑張ってきたんだよね?
なのに、魔法が壊れちゃうよ…」
ルーカス殿下をポコポコと叩いていた精霊たちは今度は私を庇うようにして小さな腕を伸ばしている。
精霊?
お兄様が言っていたわね。時間を巻き戻すなんて神か精霊でもなければ無理って。
「ねぇあなた達、精霊でしょう?私と詳しくお話しましょう?」
「駄目だ!エリーには関係無い!さっきは済まなかった。だが、これは全部俺の問題でエリーには解決出来ない。それに、君が知る必要の無い話だ」
ふふん。殿下が初めて動揺したわ。
これはほぼ確定で、私が関係している大事な秘密ではないの!
エリザベートは、ここで引き下がる女では無くてよ。
私は世間的にキツイ悪女と呼ばれているんですの!
気弱にスゴスゴと引き下がる三下なんかじゃないわ。
三下?四下の方が正解だったかしら。ナンバー3なんて、まだまだ下っ端感はないわね。
でも、本当にずっとずっと殿下を助けようと私なりに足掻いたのだから。
見たところ、精霊さんたちは私に好意的ね。
ならば。
すぐ隣に座っているルーカス殿下。
この距離が致命的な、貴方の失敗で敗因だわ。
ぐいっと殿下の胸元を握りしめ、顔を近づけた。
「殿下。初めてなので、キチンと責任取ってくださいまし。ぜったいに」
そして、そのままルーカス様の驚いている口に口付けした。
驚いて口を開いているから、初めてのキスでも数秒かかってしまったわ。
大人のキスは、話には聞いていたもの。きっと上手く出来たはず。
途中で諦めたのか、他の理由なのか。
殿下の大きな手が私の後頭部に添えられた。
キスってなんて刺激的なのかしら!
周りでグルグルと精霊さん達が飛び回っている。
表情を見る限り、いい見世物になったみたいね。
精霊は気ままで純粋で娯楽が好き。これが通説だ。
(けれど、ちゃんと見物料はいただきますわ)