第3話
殿下に会いに行く。
毎回私の目の前で殿下が亡くなった事を考えると、叫びだしたくなる位に怖い。
「エリー!よく来てくれたな!最近は何をして過ごしていたんだい?皇太子妃教育も無事に終わったんだって?よく頑張ったな」
やっぱりガッチリした身体の殿下は魅力的だわ…。
深みのある赤い髪も神秘的なヘーゼルの瞳もなんて格好良いのかしら。
実家にはモヤシしか存在しないからかしら。
やっぱりルーカス殿下は素敵。だけれども私は公爵令嬢。そして未来の王太子妃。変な顔は出来ませんわ。
「ルーカス様。お会いしたかったです。そんなに褒められてしまうと恥ずかしいですわ。教えてくださる教師の方々が優秀でしたので…。でもでも、やはり頑張った甲斐がありましてよ!この前のお茶会で…」
会話をしながら応接室をさっと見渡す。護衛5人、侍女3人。もしかしたら、私が知らない護衛も居るのかしら。
どうしましょう。2人きりでお話したいのですけれど。ここはアレですか。
2番目のお兄様から教えてもらった方法でしょうか。
席に案内して下さる殿下の袖をキュッと握って胸元に顔を寄せる。
周りの護衛と侍女の仰天した様な空気を感じるが、
気にしない気にしない。
婚約者ですもの!少しくらいアリですわ!
殿下に顔を見せないように胸に額を押しつける。
「ルーカス様、実はお渡ししたい物がありますの。恥ずかしいから誰にも見られたくないんですのよ。2人きりになりたいです…。人払いをお願い出来ますか?」
ぐっ!っと殿下からの口元から音が漏れた。
「エ、エリー…。わかった!わかったから少し離れてくれ。身が持たない」
いつもより早口で私の肩を掴む。
そして、ルーカス殿下は人払いしてくださった。
ふふ、ルーカス殿下の耳が赤いわ。
少しは動揺してくれたのかしら。そうだったら嬉しいのだけれど。
しかしお兄様、嘘をつく時は密着しながら。なかなか効果がありますわね。
全員が退出した応接室で、コホンと軽く咳払いした殿下は向き合った私にお茶を勧めた。
「それでエリー?さっきのはただの言い訳で、本当は違う要件があるんだろう?いつもの君なら、あんなに大胆な行動はしないよな?」
穏やかに微笑んでくれる。
むむむ。さっきのお耳はもう赤くなっていないのかしら。立ち直りが早いですわ。
「ええ、よくおわかりで。私、殿下に聞きたいこととお伝えしたいことが山程ありますの」
一息ついて、お茶のカップを持つ。
仕方ない。
ただの小細工でしたもの。本番はこれから。
さぁ、殿下の反応を見逃さないようにしないと。
「結婚式についてかな?衣装もデザインだけでもそろそろ決めないといけないな。エリーの金髪にはきっと純白が映える。その碧眼と同じアクセサリーも用意しないと」
結婚式!?その話題もあったけれど。え、今は駄目よ。色々と崩れてしまうわ。主に私の決心とか心の鉄壁とか!
何だか最近の殿下は、瞳から私に対しての甘い感情が漏れている気がして、ソワソワしてしまう。
ループ前の殿下だって私に優しかったけれど、ここまで甘い空気を出していなかったわよね。本当に何故かしら。
「ル、ルーカス様。結婚式のお話は王妃様も交えてお話しなくては!」
パンッと手を打って話題を変える。うん、逃げたんじゃない。仕切り直したのよ。
「それにしても、とても美味しいお茶ですわね」
勢いを殺さないように捲し立てる。
「そういえば、あのお茶会から今日で4日目かしら。まだまだ毒味も護衛もいらない時期ですね。いえ、毒で貴方が亡くなった記憶は無いから、毒味は必要ありませんでしたわ」
チラリと殿下の表情を窺う。
ルーカス殿下の表情は相変わらず読みにくいわ。
カマをかけたけれど、やっぱり外れたのかしら。
フッと彼が笑った。息を詰めていた私も少し緊張を緩める。
「そっか、まだ4日なんだね?それでエリー。やっぱり君にも記憶があるのかな?」
「!」
トロリとした甘い声色。その瞳は途轍もなく熱を帯びている。何?私、何か危険な所に踏み込んでしまったかしら。
「なぁエリー。何が聞きたい?君の記憶の事か?勿論ちゃんと答えてあげるよ。
でも、答える前に今すぐに抱きしめてもいいか?俺はね、君が1番大切なんだ。君の存在が、今の俺を支えてくれるんだよ。エリー、エリー。今すぐにでも君に触れたいんだ。ずっとずっと耐えていたんだ」
さっきまでの穏やかな表情が抜け、ギラギラとした視線で見つめてくる。その熱量に逃げたくなる衝動に駆られた。
しかし私は逃げ場を封じられ、彼は流れる様に私の隣に座って手を握った。
え?この展開は予想外すぎますわ!
手を握られたまま、固まってしまう私。
「君が俺から逃げ出した時だって、手を出さなかっただろう?あぁ、でもあの時のエリーも可愛かったな。家に帰れない心細さで俺によく甘えてくれた」
ぎゃーー!自分の恥ずかしい姿を好きな男性から聞かされたくないですわ!甘え!?いいえ私は歴然とした淑女ですもの!そんな姿なんてありえないわ!
でもこれでハッキリした。
(やっぱり、ルーカス様もループした記憶を持っているわ)
「そう、今回はまだ3日以上は残っている。ねぇ、エリーいいよね?」