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第2話

「お兄様!魔法使いを紹介してくださらない!?」


私は、帰宅早々に2番目の兄に突撃した。


「おいエリザベート。勝手に部屋に入るな。後、お前のワガママを聞く必要性を感じない。今すぐ部屋から出ていけ。あ、でもその手に持っているチョコレートの箱は置いていけ。以上だ」


塩対応で全く愛情を感じないが、この人はフィオレッティ公爵家の次男であり、私の兄でもある引きこもり気味の魔法使い(疑惑)なのだ。


「お兄様!真面目に聞いてくださいまし!私だって引きこもって気持ち悪い物を作って悦に入っている兄なんて頼りたくないですわ!前に覗いてしまった時は、鳥肌もので後悔しましたもの」


うん、言っててなんだけれども酷い言い草かしら。


でもこれはうちに仕えるメイドからも苦情が寄せられている案件なのよね。


顔が良くても、お金持ちでも、気持ち悪いって人物が成立する見本なのよ。本当に不思議だわ。


でも、私の発言のせいで余計にへそを曲げたらしい兄は、手で私を追い払ってくる。


ちょっと。私は犬ではなくてよ!


「お兄様、私は10回以上時間を繰り返しているの。それに原因も分かっているわ。ルーカス殿下が亡くなると必ず同じ時と場所に戻される。殿下の死を止めるか、この現象の謎を解きたいの」


少しでも会話をしてくれる様に分かりやすく端的に説明した。


「はぁ?そんな嘘をついて僕を騙せると思ってるのか、エリザベート。可愛い妹にわかりやすく説明してあげるけどね、お前に魔力は無いから最初からそんな芸当は無理。仮に出来たとしても、そんな事は人間には不可能だ。神や精霊、その他の力を借りて、さらに物凄い代償を払っても実現するかわからんね」


無理無理と手を振る。


馬鹿にしている割に、丁寧に教えてくれたわねお兄様。


うーん、私には無理。それは最初から分かっているわ。私の意思では無いし、時間が巻き戻る鍵は「殿下の死」なのだもの。


ここは、お兄様を味方に付ける為に未来の情報で興味を引いてみようかしら?


「お兄様は、今日の朝に骨董市で魔法のアーティファクトを買ったでしょう?そして、それを上のお兄様に仕掛けた筈よ。場所は執務机の引き出し。明日の朝に上の兄様がここに突入してくる騒動が起きるわ。何故か私には詳細を知らせてくれなかったのよね。うーんちょっと気になるからここで何を仕込んだのか教えてくださる?」


あらあら、お兄様。そのお顔は初めて見たかもしれないわ。うふふ、きっと女の子には刺激が強いアレやコレなのかしら?

ワクワクしてしまうわ!


私の話を真実だと認めたのか、お兄様は私に椅子を勧めてくれた。


これからが本格的な「ルーカス殿下の生存戦略」会議だわ。ん?微妙に名前が変わってしまったかしら。


「だから、ルーカス殿下が死んだら巻き戻ると言ったでしょう?最長で2週間、最短で1週間よ。それを10回繰り返しているの!また直ぐに同じ事になるわ」


「うーん。10回以上、殿下が亡くなるっていうのか?あの、文武両道を地でいってる人が?」


兄なりに、真剣に話を聞いてくれるみたいだ。有り難いわ。ハグはしたくないけれど。


「日時と場所は多少変わるのだけれど、必ず私の目の前で血塗れになって死んでしまうの。どんなに護衛を付けても、誰も気付かないうちに殿下が斬られて倒れていた事もあったわ」


「…なんだって?護衛は殿下が斬られた瞬間をなんて言っていた?」


兄の声のトーンが少し低くなる。真面目にしている事自体珍しいが、これでも頼りになる兄だ。ハグは(以下省略)だけれども。


「いきなり、斬られた様な傷が出来たって。最初は素早すぎて見えなかったからそんな言葉が出たのかと思ったわ。でも、今は魔法を疑っている」


「まぁ、だとしてもだ。いくら魔法使いが希少だとしても、殿下を殺せるとは思えないな。魔法攻撃に対するアイテムも武器も、王家にはゴロゴロあるだろ。うーん…あの殿下が一瞬にしてねぇ。しかも、エリザベートと同じ場所に居ることが条件?」


お兄様は顎に手を当てて黙り込んでしまったわ。


うーん、あの前髪が鬱陶しい。あの長い前髪をリボンで可愛らしく結んであげたらどうかしら。

我が兄ながら、顔の作りはいいのよね。もしかしたら可愛らくなるかもしれないわ。


「お前、何か失礼なこと考えてない?まぁいいや。お前のループはまず置いておくとして、殿下の死から考えてみよう。魔法に対しても、王家の守りは完璧に近い。その殿下が10回以上殺されるっていうのは普通に考えたら不可能だ」


うんうん。そうなのよね。

毎回、極端な程に護衛も守護石も用意したもの!


そして、そんな私の行動がルーカス殿下の心配を煽ったのか。私の護衛もマシマシなのよね。少しだけ邪魔だわ。


見目麗しい近衛騎士を貸してくだされば、お友だちのご令嬢方に自慢しにお茶会に参加しまくりますのに。


熊さんと心の中で呼んでいる護衛には申し訳ないけれど、ルーカス殿下ってちょっとだけ気が利きませんわ。

何度も、騎士団の訓練場を案内して欲しいって頼んでるのに、毎回はぐらかされてしまうのよ。


そんな事はさておき。

先程のお兄様の発言が私の心にチクリと棘をさす。

『エリザベートと一緒に居ることが条件』

そうなのよね。

これが、殿下が死んでしまう条件なんだわ。


私だってそこ迄の馬鹿じゃないから、3回目以降はルーカス殿下から離れようとしたわ。


でも、何故か王都を離れる瞬間に気を失ってしまう。

そして目覚めると、毎回、王宮にある私専用の部屋に居るのよ。


それからは宮殿を出ようとしても周りに止められ、殿下に止められ。私は何も出来ず、彼の死を目にする事になる。


あぁ、どうしたらこの繰り返しから抜け出せるのかしら。

もう貴方の血塗れな姿なんて見たくないわ…。


「エリザベートが魔法のトリガーなんだろうな。でも、殿下を殺す魔法にエリザベートが関わっている?こいつ自体にそんな魔力の痕跡は感じないし、殿下を呪う媒体にはなり得ない。うーん、なんというか。1番可能性があるとしたら、アレに近いのかなぁ」


ブツブツと独り言を呟きながら、椅子から立ったり座ったりを繰り返すお兄様。


「呪い?魔法?もうお兄様!殿下の死が私のせいでも宜しいですわ!いえ、良くはないけれど!でも、これ以上は耐えられませんの。とりあえず何でもいいのよ。今、貴方の中の仮説を話して下さいまし!」


私は、ヨレヨレのシャツに掴みかかり首元を締め上げ…いえ、詰め寄りました。

「1番高い可能性は、精霊が絡んだ魔法じゃないかな。魔法によっては代償を支払わなければならないんだ」


――なるほど。魔法の代償?

でも、何の魔法か想像もつかないわ。


「僕の考えが正しいとは限らないけれどね。多分、殿下に聞いたら全ての答えがわかるよ。でもエリザベート。僕は一応は君のお兄ちゃんなんだよね。君が危ない目に遭わないか心配だよ」


まぁ、お兄様。普段顔も合わせないし、なんなら前回顔を合わせたのも春だったから2ヶ月は経っているわ。図々しくてよ?


「もう、魔法使いを紹介して欲しいってお願いすら叶えてくださらないお兄様に心配される必要はありませんわよ。

もし、どうしようもなくなったら、上のお兄様とお父様を頼ります。仕方ないのでユーティスお兄様にも頼ってやりますわ。役に立たなければ八つ当たりだってしてしまいますからね?でも、少しだけ答えに近づきましたわ。ありがとうございます」


久しぶりに名前を呼んだ2番目の兄は、こちらが恥ずかしくなるくらいニヤニヤとした顔をしていたので。

(やっぱり気持ち悪いですわ…)

名前呼びは再び封印する事にしました。


こんな可愛げが無い妹だけれど、なんだかんだと相手をしてくれるのよね。


2番目のお兄様と話してわかった事は。

――精霊。そして魔法の代償の可能性、か。


(でも、殿下はループの事を知っているのかしら…)


でもそうね。知っている気がするわ。

毎回、ループした後の殿下に違和感を感じるのだ。


なんというか、私に対しての行動が他の人々と違う。


有り体に言えば、人間は性格や自分の行動基準に合わせて物事を選択する。


気まぐれを起こす場合もあるが、それだって予想を大きく逸脱しない。


だから大抵の人間は、私の行動によっての違いがあれど、毎回似たような動きをしてきたのだ。お父様もお兄様も護衛も。


前回はお父様と上のお兄様を頼り、殿下の守りを固めた。

私の予想通り、2人は快く手を貸してくれた。

今回も私を助けてくれるだろう。


でも殿下は行動が毎回変わる。

だから私が殿下から離れようと逃げ出した時の事。これが1番の違和感かしら。


そう、()()()()()()()殿()()()()逃げ出したとしても、私を王宮に軟禁なんてしないわ。


そして、彼は時間が巻き戻った後も私を王宮に閉じ込めた。()()()()()()()()

()()()()()()()()()()


(お兄様の言うとおり、殿下に聞いたら答えてくださるのかしら…)


私は彼が好きだ。今回こそ守りたい。だが、嘘をつかれて遠くに追いやられる可能性もある。


(きちんと知りたいのよ。貴方の事だもの)


今、答えてほしい彼は何をしているだろう。まだループしていないから大丈夫なんだろうか。


(それでも、不安なんですのよ。ルーカス様)

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