最終話
「殿下ーーー!」
周りの護衛が大慌てで彼に駆け寄っていく。
あぁ、もう。彼は今回も死んでしまう。
血だらけの中、私に満足そうな笑顔を向けて。瀕死状態になっている。
私に全部覚えていて欲しいから、私の前で死にたいのですって。
何それ、どういう感情なの?
これって執着心って事でいいの?
貴方が死んでしまう場面って私は結構辛いのよ?
ヘーゼルの精霊が言うには、後1〜2回で時間魔法の代償が終わるらしい。
だからって、血塗れで笑顔…。
本当にルーカス様には悪いけれど、私は笑顔を返せないわ…。
ヘーゼルの精霊は、 青い精霊が閉じ込められた指輪を小さくして、自分の指に嵌めるようになった。
時々、封印を緩めてあげて会話もしているらしい。
「え、えへへへ。これからもずっと一緒だよね…」
なんて指輪を撫でながら呟いている場面を見た時は、全力で見なかった事にしましたわ。
これって純愛って事で合ってるのよね?判断が難しいわ。
結局、今回の騒動は、
やたらと引きのいい殿下が指輪用に選んだ石に2体も精霊が封印されていた。
私が死んで、その絶望から漏れ出した魔力が精霊の封印を解いてしまい、お互いの目的の為に契約したと。
うーーん。結局は私が元凶だったのかしら。
でも、次の瞬間にはまたお茶会の場面でルーカス様に会えるわ。
後1回。
もう少しで本来の時間が進む。
そうしたら、本当の意味での未来が始まるのよね。
ルーカス様といっぱいお話しなくては。
まずは結婚式の準備。それに、それに。
少しくらいは大人のキスの回数も増やしたいって伝えないと。毎回、拒否されるのが悔しいの。
だってあんなにも、私を諦めないで愛してくれるルーカス様に、少しでも感謝を伝えたいのだもの。
侍女が言っていた大人の寝間着でお願いすればいいかしら?
――あぁ、時間が巻き戻る感覚が来た。
「次は、大人の寝間着を手に入れますわ!」
「!?」
強く心を固めていた時には、公爵家の庭での定例のお茶会。そこに戻っていた。
「エリー…。ちょっとこっちにおいで?」
表情が読めない殿下に手招きされて膝に乗せられた。
「エリー。そんな誘い方をされたら、流石に俺も拒めないんだよ?エリーはこんなに可愛いんだから」
両腕で抱き込まれ、耳元で囁かれた。
これはOKって事よね?
ここは押す場面ね!そう判断した私は、背筋を伸ばし、そのルーカス様の整った口にキスをした。
周りが騒がしいけれど、どうでもいいの。
「ねぇ、ルーカス様。うちの公爵家自慢のスイーツをもっとじっくり味わってみます…?」