第10話
闇落ちルーカスの片鱗が見えます
さっきのキスのお陰か、ルーカス殿下は私を拒絶しなくなった。
「私が死んで、生き返らせる為にルーカス様が何度も繰り返し死んでいる?」
彼が私の前で死んだ時にだけ、私にループの記憶が残っていたらしい。
それ以外にも、沢山の死を経験してきたと殿下は語った。
「君を狙った人間はね、繰り返しの中で何度も制裁してきたから安心して。人物については把握しているし、それ以外の背景についても、ね。
これが終わっても大丈夫だ。陥れる証拠も揃えられたから、絶対に手を出させないよ」
うん、笑顔が怖い。でも、目に一切の光がない笑顔も素敵ですわ。
「いえいえ、それは有り難いのですがちょっと待ってください!まだ代償は残っているのでしょう?その魔法の代償については残り少ないというのは本当なのですか?」
精霊たちはお互いに顔を向け合い、その後に教えてくれた。
「本当は教えたらまずいんだけど、私たちのミスだしね。ルーカスと一緒に行動して、人間の面白さを久しぶりに感じちゃったから、特別に教えてあげる。時間魔法の代償については、後少しで終わるわ」
歌うよう軽やかに話す青い精霊。
ルーカス殿下が背負った代償の話もこんな感じに軽く教えてくれた。
「私にも色々とやりたい事が出来たのよね〜!だからこれは本当よ」
「う、うん。僕もそう。ルーカスの側で君のことも見ていたけど、面白くてかわいいし…。死んでほしくない」
ヘーゼル色の精霊も答えてくれる。
彼の話を聞いている時に、青色の精霊はルーカス殿下の胸元から指輪を取り出して私に放り投げた。
「え!あわわわわわ!」
私は、いきなり投げられた指輪を慌てて掴んだ。
無事に落とさずに済んだ事にホッとして息をつく。
手のひらを開いて見てみると、青い宝石とヘーゼルの宝石の2つが綺麗に並び、土台が少し螺旋になった指輪だった。
「ルーカス様、この指輪ってもしかして…。私たちの色ですよね?ふふふ。そして、コレが精霊さん達の器?」
突然な形で指輪の存在をバラされた殿下は少し慌てていたけれど、私から無理に取り上げようとはしなかった。
ヘーゼルの精霊が教えてくれる。
「こ、これね。元々は君にあげるつもりでルーカスが用意したんだって…。僕たちの宝石が使われているでしょ?普通はね、数ある宝石の中から、精霊が宿った石なんて選べないんだよ?ルーカスは引きが強い。王族らしいってうのかな…」
指輪についてもそれ以外の事についても説明してくれているわ。ルーカス様の凄さをアピールしているのかしら?
うぅ…、かわいい。さっきからこの子、私から離れないでずっと側にいるわ。私のことも好きになってくれたの?
この精霊さんのお名前を聞いてもいいのかしら。ヘーゼル色の精霊は、彼の瞳の色だからかとても親近感が湧いてしまう。
「でも、まだ何度も死なせてしまうのね。私にあるのは10回くらいの記憶だけれど、それでも辛いわ。殿下はまた…」
「あぁ。代償については大丈夫かもしれないわ。エリーだっけ?君が強力してくれるならあっという間に終わっちゃうかも。君の最初の死の記憶とループした時の記憶を一緒に代償として捧げれば、それ以上のエネルギーが集まる筈」
「私の最初の死?それは記憶に無いの」
「大丈夫、本来の時間で起きた事だから、忘れているだけ。今回の時間魔法で、ルーカスは50回以上死んで命を捧げている。まぁ、大抵はこんなに執着心の強いヤバい人間は居ないんだけれど。そこに、エリーの死の記憶とループ中の君の絶望を捧げれば一気に届きそう」
青い精霊が、私の周りをクルクル回りながら歌うように説明してくれる。
え、本当?いきなり希望が見えてきて、私は浮き足立ってしまう。
これ以上ループしなくてもいい。目の前で殿下が死ななくてもいい。殿下もこれ以上死ななくてもいい。本当?こんなにあっさりと幸せが目の前に現れていいの?
「ルーカス様!」
喜びを抑えきれずに彼の顔を見ようとした。
その瞬間、ルーカス殿下の胸に袈裟斬りの傷が広がり…。
私は、私は
首から大量の血が噴き出していた。
息が出来なくて、目の前の殿下に手を伸ばした。
が、途中で力尽きて腕が床に落ちる。
なにが…?起きた全てのことに理解が及ばない。
「だから、君の存在って魔法の代償以上の価値があるわ〜。魔力がいっぱい集まる。それに、ここらで時間魔法を壊したいと思っていたのよ。ルーカスの心を壊すには君が適任でしょ?これで時間魔法を壊すわ!」
でも、それもすぐに意識が飛んでしまった…。
また何もわからないままに。
(ルーカス様…あんな傷…大丈夫かしら…)
視界は真っ暗で、私はまた何も知らないまま、またルーカス様に迷惑を……