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第1話

ゆるふわっとした設定です。

温かい目で読んで下さると嬉しいです。

(また失敗したわ!また時間が巻き戻ってしまった!)


綺麗に整えられた金髪を、ガシガシとかきむしりたい衝動に駆られるが、私はそれを必死に抑える。


だって今はそんな事が出来ない場所だもの。

現在私は王宮でお茶をしている。

しかも王子様と。


イライラした気持ちを宥めてお茶を傾けながら、目の前の端正な顔立ちの男性に話しかけた。


「ルーカス様。私、むしゃくしゃしているんですの。もっとお菓子を追加してもいいかしら?」


私は、エリザベート=フィオレッティ公爵令嬢。

目の前のルーカス王太子の婚約者であり、未来の国母。1年後の結婚式とともに正式に王太子妃になる予定である。


「いや、エリーの好きにするといいが…。何かあったのか?いつもより目が怖いぞ。こんなに吊り上がっている」

そう言って、私の目元をグイッと押し上げた。

私の顔に勝手に触れないでくださるかしら、全く。


深紅の髪にヘーゼルの瞳。男性らしい骨格で、貴公子というよりは騎士の様にも見えるお方。この国の王太子、ルーカス殿下だ。


私の目が怖い?それって禁句でしてよ。えぇ、私は昔からキツめの顔立ちだから、「怖そう」「性格がキツそう」「悪女みたい」と陰で言われている。


私がそれを嫌っているのを知っている筈なのに、たまにこうやってわざと苛立たせるのだ。


(まぁ、いいわ!こんなに嫌味たらしく冗談を言っても、やっぱりさっきの傷は痛そうでしたもの。あまりに酷くて、彼の最期の言葉すらちゃんと聞いてあげられなかったわ。私の苦労も知らずに、毎回毎回勝手に死んで…)


そう。私のループの原因はこの男。殿下が死んでしまうと、時間が巻き戻されてしまうのだ。


1回目は、私の目の前で殿下が斬り殺された。

殿下に縋りつき必死に呼びかけていた私は、次の瞬間にこのお茶会の場面に戻っていた。


そりゃあ、あの時はパニックでしたわ。目の前で(おびただ)しい血に染まっていたルーカス殿下が、次の瞬間には優雅にお茶をしていたのだもの。


2回目も3回目も殿下は死んだ。日時と場所は違えど毎回私の目の前で。


別に四六時中一緒に居るわけじゃないのに毎回私の前で襲われるのよ。

もう!どうしたらいいのかしら。

どんなに警戒して、護衛を増やしても何故か敵が入り込んで殿下を殺してしまう。


なんなら、敵の姿さえ見えなくても。いつの間にか殿下が血溜まりに倒れていたなんて事もあったわ。


どういう事かしら、本当に。


「ごめんごめん、エリーは可愛いよ。お菓子も追加するから、その膨れっ面は止めてくれ」


早々に切り上げて帰ろうと思っていたのに、不意打ちで甘い言葉をかけられた。何これ。


ルーカス殿下ってこんな感じでしたっけ?10回位ループすると、記憶が曖昧になってしまうのかしら。

私の脳のせい?

えぇ、賢くないのは自覚しているから全然平気だわ。


しかし、やっぱり巻き戻るタイミングは毎回このお茶会。

それも謎なのよね。


「殿下、誰かから恨みを買ってません?身に覚えとかありませんか?」


冗談を装いつつ、殿下の顔を覗き見る。流石に物騒な話題すぎたかしら。怪しまれるかも。


でも腹芸なんて出来ないし、もっと上手(うわて)のルーカス殿下には通用しないわ。こんな感じでいいのよ、きっと私は。多分。


「いや?すでに立太子したからか、前よりは落ち着いているかな。弟を推す派閥がまだ残ってはいるが、直接的に手を出すほどの勢いは無いはずだ」


やはり、私の認識と同じだ。ここで言う「弟」とは側妃殿下の息子の第2王子ユリアス様の事だ。その派閥の筆頭は後ろ盾であるアクイド侯爵。第2王子の叔父に当たる。

この辺りが1番疑わしくはある。


でもルーカス殿下は王妃殿下の息子であり、さらにはもう1人同腹の弟王子がいらっしゃる。


(ルーカス殿下を排除したとしても、第2王子の即位は難しいと思うのよね)


ならば、私が狙われているのだろうか?


うーん、でも毎回死んでいるのはルーカス殿下だし。

私を狙うなら、もっと簡単だわ。


色々と謎が多いし、物理的に殿下を助けるのも難しい。いつの間にか斬られてるって何?魔法なのかしら。


「ほら、エリーの大好きなマカロンとケーキが追加で来たよ?」


クスクスと笑いながら、綺麗な笑顔で私の前にデザートを置いてくれる。


「…っありがとうございます…」


少し照れくさくて小声になってしまう。

フォークで一口大にしてから、食べようとして顔を上げると、ルーカス殿下が顔を緩めて私を見ていた。


「ルーカス様!そんなにジロジロと観察しないでくださいまし!食べにくいですわ。淑女に恥をかかせるなんて最悪です!」


顔が赤くなっているかもしれない。ループする前から、殿下はこんなお顔で私と一緒にいてくれてたかしら。


もっとクールで、あまり笑顔を見せてくれなかった気がする。


どこか居心地が悪い空間から早く逃げ出したくて、

追加されたお菓子を無理やりかつ速やかに口に入れる。


(全く味がわからないわ!それより、何でこんなに私を見るのよ!?)


視線が気まずい。そして、恥ずかしいわ。

「素敵な時間をありがとうございました。私はそろそろお暇させて頂きます」


最後にお茶で流し込み、ルーカス殿下に丁寧な挨拶を

して、その場から逃げる為に立ち上がる。


「ああ、また次回のお茶会で。いや、そろそろ結婚式の相談も始めよう。日時が決まったら公爵家に手紙を送るよ。おっとエリー、ちょっといいかな?」


殿下はスッと立ち上がり、私の手を取る。挨拶の為だ。


手の甲に口付ける真似をしてから、小声で囁いた。


「ねぇエリー。今日はなんでこの庭園でお茶をしたのかわかる?君は、今日が何の日だったか忘れてしまった?」


「え?」


殿下の質問に咄嗟(とっさ)に答えられない。今日が何の日か?

何の日でしたっけ?誰かの誕生日でも無いはず。


私にとっては、ループする始まりの日。

それ以上の意味なんてあったかしら…。


考え込む私に手を振って、ルーカス殿下が歩き去っていった。


まぁいいわ。私には考えなきゃいけないこと、やらなきゃいけない事が山積みなんだもの。


前回の「殿下救出作戦」は失敗に終わった。


家に帰って、またプランを練らなくては。

あぁ、でも近衛騎士も護衛も役に立たなかったではないの。


一体どうすればいいのかしら。もうループは御免だわ。



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