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6話 墓参り

俺と理沙は秋江さんの問題が解決した後で花屋に花を買いに行っていた。


「どれになさいますか?」


「白と黄色とピンク色の菊をそれぞれ3本づつお願いします。」


「花はこれで良かったか?」


「うんそれで大丈夫だよ。」


俺は店員さんにお金を支払った。


そして買った花を花束にしてもらって、それを店員さんから受け取ったのだった。


俺達は花屋をあとにして別の場所に向けて歩き始めた。


すると理沙がこう話しかけてきた。


「そういえばお兄ちゃん、今度担当する事件は難しいそうなの?」


「そうだな、十分に難しい事件と言えるだろうな。なにせ動機が全く掴めていないからな。捜査本部のメンバーもみんな頭を抱えている。」


「お兄ちゃんが難しい事件って言うなら相当な事件なんだね。」


「ああ、難しい事件であるし、気味が悪い事件だからなおさらだろうな。正直今までそれなりの数の事件を担当してきた俺でも、ここまで意味不明な事件は初めてだ。」


「それじゃあしばらくはこっちにいられるの?」


「ああたぶんそれなりの期間は実家に滞在する事になるとは思う。現状進展はあまりない状況だからな。一刻も早く解決したいとは思っているんだが。」


「でも焦ってもいい事は何もないんじゃない。」


「そうだな、真実を見極めるためにもじっくり捜査は進めるべきだな。」


そして俺達は目的の場所へとやってきたのだった。


「さてと、それじゃあお父さんとお母さんに挨拶してこようか。」


理沙はそう言うと中に入っていったが、だが俺は歩みを止めてしまった。


理沙は歩みを止めた俺にこう尋ねてきた。


「どうしたの?おにいちゃん?」


「俺は行かない方がいいんじゃないか?理沙はともかく、父さんや母さんは俺には会いたくないだろう。」


理沙は首を横に振って言ってくれた。


「そんな事ないよ、お父さんやお母さんだってお兄ちゃんが来てくれたら嬉しいに決まっているよ。そんな事言わずに、ねっ。一緒に行こう!!」


理沙は俺の近くまでやって来るとそして俺の手を引いてくれた。


俺は理沙の後押しに負けて歩み出す事にした。


いつまでも逃げていてはダメだな、今の俺なら父さんや母さんにも顔向けできるはずだ。


「そうだな。分かった。二人で挨拶に行こう。」


そして俺はその場所に理沙と共に入っていった。


この場所は墓地であった。


そして俺達は父さんと母さんの墓の前までやってきた。


俺と理沙は父さんと母さんの墓の前で仏花を供えて目を瞑って手を合わせた。


そして俺は口を開いた。


「父さん母さん、今まで来れなくて本当に悪かったよ。父さんと母さんに合わせる顔がないと思っていままで避けてしまっていた。でもこれからはちゃんと顔を見せるよ。父さん母さん今は笠歌に戻って来てるんだ。笠歌公園の事件の捜査本部に参加しているんだよ。」


「お父さんお母さん聞いて、またお兄ちゃんのおかげで依頼を解決できたんだよ。お兄ちゃんはもう名警部さんなんだから。」


「俺はなにもしてないさ。」


「お兄ちゃんは前の事件でも解決に導いたんだよ。」


「あれは他の捜査員達がよく動いてくれたからだ。俺だけの手柄じゃない。」


「うふふ。」


すると理沙が笑みをこぼした。


「どうした、理沙?」


「やっとお兄ちゃんと一緒にお父さんとお母さんに挨拶できるようになってきたなって思ってさ。」


「そうだなやっと父さんと母さんへの顔向けぐらいはできるようになった。父さんと母さんへの罪滅ぼしとまではいかないがな。」


「もうあれから5年も経つんだね。」


「はやいものだな。あれからもうそれだけの月日が流れているなんてな。ガムシャラに進んできたからな。」


「きっとお父さんもお母さんも今のお兄ちゃんの姿を見て喜んでると思うよ。今のお兄ちゃんは名警部さんなんだから。」


「名警部か、本当にそうだったらいいんだけどな。」


「それじゃあお兄ちゃん、そろそろ戻ろうか。」


「そうだな。」


理沙は二人の墓に向かって挨拶をした。


「じゃあね、お父さんお母さん。」


俺も二人の墓に向かって言った。


「父さん母さん、また来るよ。」


そして俺達は墓地を後にした。



今でこそ妹の理沙とはとても仲がいいのだが、昔はその逆だった。


子供の頃の俺と理沙は正直仲がいいとは言えなかった。


理沙は子供の頃から幽霊を見る事も祓う事もできたし、なくし物がどこにあるかや相手が何を言いたいかもピシャリと当てる事がよくあった。


うちの神社は代々氏神様であるヒスキ様を奉る神社であり、理沙はその氏神様であるヒスキ様に愛されていた。


理沙は高い霊能力を持った本物だった。一方の俺は何の力も持っていなかった。


だから本物の力を持った理沙を昔の俺はよく気味悪がっていた。


ある時こんな事があった。


母に理沙を呼んでくるように言われて、俺は神社の中を探し回っていた。


「お~い、理沙。理沙!!」


「理沙~理沙~、どこだ?」


理沙の部屋に行ったが、どこにもおらず次に俺は神社の拝殿を探しに行った。


参拝客のいない時の拝殿はあまり明るくはなく、明かりもついていないため少々不気味な場所でもあった。


御幣や太鼓も神具であり神聖なものであったが、子供の頃の俺にはそれに少くない恐怖を感じていた。


「理沙、理沙!!ここにもいないのか。理沙の奴、本当にどこにいったんだよ。」


俺は拝殿の横にある客間へとやってきた。


俺は理沙への呼び掛けを続けていた。


「お~い、理沙!!いないのか!!」


客間には来客者用の布団が何段にも積み重ねられていた。


なぜか客間の畳の上に積まれていた布団の中から理沙の声が聞こえてきた。


そして突然理沙の頭が布団の中から現れたのだった。


「な~に~、お兄ちゃん?」


理沙は不思議そうな顔で俺を覗き込んだ。


「うああああ・・!!」


積まれた布団の中から理沙の顔が突然出てきたので、俺は腰を抜かしてしまった。


すると理沙が布団の中をかき分けて外に出てきた。


「どうしたの?お兄ちゃん?」


俺は落ち着きを取り戻して理沙に尋ねた。


「どうしたの、お兄ちゃん?じゃないだろう。もうー、理沙あんな場所でなにやってるんだよ。」


「ちょっとかくれんぼしてたんだ。それでお兄ちゃん、何か用事?」


「ああ、そうだった。理沙、母さんが呼んでるぞ。」


「えっ、本当?」


「本当だよ、さっきからずーっと理沙を探してたんだぞ。こんなところで一人で遊んでたのか?」


「一人じゃないよ、多恵(たえ)ちゃんがかくれんぼして遊びたいっていうから一緒に遊んでたんだ。」


「多恵ちゃん、いつの間に友達が来てたんだ?まあいいや、とにかく母さんが呼んでるから行ってきてくれ。母さんは台所にいるから。」


すると理沙はこう言いだしたのだった。


「ごめんね。多恵ちゃん、ちょっと待っててね。」


「えっ?」


俺は不思議に思って部屋の中をキョロキョロと見渡してみた。


布団が積まれている客間には俺と理沙以外の人間は誰一人として見当たらなかった。


俺は理沙に問い質す。


「おい何を言ってるんだ理沙、誰もいないだろう。俺をからかうな。」


「からかってないよ。」


「からかってるだろう!!」


「だって多恵ちゃん、お兄ちゃんのすぐ横にいるじゃん。」


理沙はそう言うと俺の横を指指したのだった。


「えっ??」


俺は驚いてすぐに自分のすぐ横を確認したが当然ながら誰の姿もなかった。


「おい、理沙さっきから何言ってるんだよ。からかうのはやめろ!!」


「だから多恵ちゃんはお兄ちゃんの横にいるってば。」


そして理沙は誰もいない方を向きながらこう言った。


「ごめんね多恵ちゃん。お母さんの所に行ってくるから、お兄ちゃんとちょっと待っててくれる。」


すると客間に母さんの声が聞こえてきた。


「理沙!!理沙!!ちょっと来てくれない!!」


「はーい、お母さん。」


理沙は大きな声でそう答えると客間から出て行ってしまった。


俺はとても怖くなって慌てて客間から逃げ出したのだった。


こういう事がよくあった。


誰もいないはずの部屋の中で、理沙はよく誰かと遊んだり話たりをしていた。


理沙といるとこんな事が日常茶飯事だったので、幼少期の俺は理沙を避けるようになっていた。

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