3話 理解できない
次の日、俺と新川刑事は笠歌の捜査本部へと戻って、海江田警視正に報告を始めていた。
「どうだった?」
「それが被害者の野々宮当夜さんの地元である愛知の尾琴間市で色々と聞き込みをしてきましたが、野々宮当夜さんが自殺するような動機が全然出てきませんでした。みんな野々宮当夜さんが焼死体で発見されたと聞いて驚いていました。」
「しかも奇妙な事がありまして、事件が起こった5月20日の朝に野々宮当夜さんが通っている御琴間大学に行って聞き込みをしてきたんですけど、当夜さんは亡くなった日の5月20日の午前8時23分に普通に御琴間大学の入退場ゲートを通過しているんですよ。」
「どういう事だ?確か野々宮当夜さんが藤歌公園に現れたのが午後0時12分だろう。御琴間市から藤歌市までは車なら軽く3時間。電車でも2時間半はかかるはずだ。藤歌公園で死のうと思っている人間が悠長に御琴間大学の講義に出席していたというのか?」
「ええしかも入場の記録はあったんですが、退場の記録はなかったんです。」
「すまないが、言っている意味が分からないんだが。」
「5月20日の当日の入場の時間記録は残っているんですが、退場の記録は残っていないんです。」
「野々宮当夜さんはその日御琴間大学から出てきていないと言いたいのか。」
「あいえ、関係者の話では講義棟の男子トイレの窓から外に脱出した可能性があるとは言っていました。男子トイレの窓からだったら、大人一人がギリギリ通れる大きさがあるそうです。」
「意味が分からないんだが、なんで野々宮当夜さんが男子トイレの窓からわざわざ脱出しなければならないんだ。普通に入退場ゲートを通って退場すればいいだけの話だろう。」
「ええそこが本当に分からないですよ。監視カメラの映像では野々宮当夜さんが笠歌公園で午前0時12分に現れています。もし当夜さんが死のうと考えていたのなら、こんなキツキツの予定を立てるはずがありません。もっと時間的余裕を持たせるはずです。なのに当夜さんの当日の行動は真逆と言わざるおえません。普通なら大学に顔を出す時間的な余裕はほとんどないと考えるはずなんですが。」
「野々宮当夜さんの行動が意味不明だな。」
「全くです。」
「それ当夜さんだけじゃありませんよ。」
「おお、藤田刑事、堀刑事、戻ったか。」
「今戻りました。」
「藤田刑事、当夜さんだけじゃないってどういう事だ?」
「藤田刑事と堀刑事でそれぞれ二人目に焼死した北口優香さんと三人目に焼死した増田祐樹さんを岡山と岩手まで飛んで調べてきたんですが、どちらも同じなんですよ。」
「というと?」
「まず北口優香さんについてなんですが、北宮優香さんは岡山県の阿具名町の弁当店に勤めているんですが、北口優香さんは5月20日の日も午前6時19分にいつものように出勤してきているんです。」
「出勤しているってどういう事だ?北口さんは午後0時25分には静岡の笠歌公園に来ているんだぞ。岡山からだったら5時間はかかるはずだ。」
「はい、自分も何かの間違いじゃないかと思って弁当店のタイムカードと監視カメラを確認させてもらったんですが、タイムカードにはちゃんとその時間で打刻されていましたし、監視カメラにもその時間に出勤してくる北口さんが映像から確認できました。」
「どういう事だ?」
「それで三人目に焼死した増田祐樹さんについてなんですが。増田さんは岩手県の古木場村の清掃会社で清掃員をしているんですが、午前5時42分に増田さんも清掃現場に出勤してるそうです。タイムカードも確認しましたし、職場の同僚達からの証言も得られましたので間違いないかと。」
「岩手から静岡の笠歌公園だと移動に6時間前後はかかるはずだ。」
「それで北口さんも増田さんも知らない間に職場からいなくなっていたようです。北口さんも増田さんもタイムカードは打刻されていませんでした。」
「うーん、三人の性格や人柄はどうだった?」
俺は海江田警視正に答えた。
「野々宮当夜さんに関しては性格は真面目そのだったようです。遅刻もせずに提出物もちゃんと期限通りに提出する人物だったと。」
「北口さんも真面目な性格だったようです。今まで遅刻や欠席は一度もなかったとの事です。」
「増田さんもですね、几帳面で真面目な性格だったようです。」
海江田警視正は考え込んでしまった。
「うーん、意味不明すぎる。」
「仮に3人が自殺だと仮定してもなんでわざわざ苦しい死に方である焼死自殺なんてやり方で死のうとしたのかが分からない。」
「そうですよね。普通なら首を括って死んだり、睡眠薬なんかでの自殺が多いですもんね。」
「焼身自殺自体が全くないという訳ではないが、焼身自殺で死んだ時は抗議の意思表明である場合が多い。でも今回はそういう訳でもなさそうだし本当に意味が分からない。」
海江田警視正が捜査員に尋ねた。
「三人が火をつけるのに利用した携行缶やガソリンの出どころは判明してるか?」
別の刑事が報告を始めた。
「それについても調査が終わりました。三人とも笠歌市内のホームセンターで携行缶を購入しています。またガソリンの方は笠歌市内のガソリンスタンドでガソリンを購入しています。ガソリンも携行缶も買った場所は三人とも違う場所ですが。」
「SNSの調査の方はどうなっている?3人は住んでいる場所がとても離れているから繋がりがあるとするとネットやSNSでの繋がりである可能性が高いはずだが?」
「それに関してもすでに調査は終わっているんですが。」
すると刑事たちが顔を見合わせたのだった。
「どうした早く報告してくれ。」
言いにくそうに一人の刑事が報告を始めた。
「結論から申しあげますが、SNS上でも通話記録の方でも3人のやり取りを見つける事はできませんでした。」
「見つける事ができなかっただと。つまり。」
「この3人は協力して動いていた可能性がなくなったという事です。別々に動いていた可能性が高いかと。」
「馬鹿を言うな!!三人が同じ日に同じ場所で同じ方法で死んでいるんだぞ!!たまたまこの三人が5月20日に笠歌公園で焼身自殺をしたとでも言うつもりか!!そんなもの確率的にほぼゼロに等しいんだぞ!!そんな事ありえるわけないだろう!!」
「本当にちゃんと捜査したのか?」
「はいSNSの方も通話記録の方も入念に調べたんですが、この3人の間でのやり取りらしいものは見つけられませんでした。」
「スマホの通話履歴は?」
「はいそちらも通信会社に確認して全ての履歴を当たりましたが3人の間での履歴は確認できませんでした。通話履歴はすべて友人や家族や職場の人間でした。」
「それじゃあなにか、5月20日に野々宮当夜さんはいつも通りに大学に通学したがなぜか途中で大学を抜け出しわざわざ静岡の笠歌公園まで移動して死ぬ理由もないのにわざわざ苦しい焼身自殺を選んで死んだ。」
「北宮さんも朝はいつも通りに弁当店に出勤してなぜか途中で職場を抜け出してわざわざ岡山県から静岡県の笠歌公園まで移動して途中で携行缶とガソリンを買って、死ぬ理由もないのにわざわざとても苦しい焼身自殺を選んで死んだ。」
「増田さんも朝はいつも通り会社に出勤したがなぜか途中で抜け出して岩手から静岡の笠歌公園まで移動してきて途中で携行缶とガソリンを買った。そして特に死ぬ理由もないのにわざわざとても苦しい焼身自殺を選んで死んだ。」
「そしてたまたまその3人が同じ日にたまたま笠歌公園に集まって10分おきに焼身自殺してしまった。とでも言いたいのか!!確率的にそんな事絶対にありえんぞ!!!!」
みんな海江田警視正の言う事は分かっていた。
この意味不明な3人の行動に恐怖すら感じていたのだった。
「確かにこれは想像以上の難事件だな。」
俺はそう呟いた。