18話 話したい事
俺と理沙はあの後実家へと帰ってきていた。
そして台所で理沙が用意してくれた夕食を理沙と食べていたのだった。
すると理沙が申し訳なさそうにこう言ってきた。
「お兄ちゃん、今日はごめんね。あんまり役に立てなくて。」
「何を言ってるんだ。理沙のおかげで新しい新事実が判明したんだから。」
「でも捜査が進展するどころか、余計に謎が深まっただけみたいだし。」
「いや捜査が進展しないのは捜査員である俺が不甲斐ないだけだ。理沙が気にするような事じゃない。理沙はちゃんと捜査に協力してくれて、その上新事実まで掴む事ができたんだから、むしろいい仕事をしてくれたと思っているよ。ありがとうな理沙。」
「それは全然いいよ。」
「それに、やり方はあの方がいい気がするんだ。」
「どういう事?」
「今日理沙に来てもらって感じたんだが、事件へのアプローチの仕方自体はあれで間違ってないように感じたんだよな。まあ俺の勘でしかないんだが。」
すると理沙は何か考え込んでいるようだった。
「・・・。」
そして俺にこう切り出してきた。
「ねえ、お兄ちゃん。実はこの前言いそびれた事が一つあるんだけど。」
「なんだ?」
「実はさあの青い自然霊、雄太君や笠歌線無差別殺傷事件以外でも見てるんだよね。」
「そうなのか、それでどこで見たんだ?」
「春香が警備室に押し入った時の映像だよ。栗林刑事に見せてもらったでしょ?私が見た感じだと、春香にあの時取り憑いてたように見えたんだ。」
「あの時にか?」
「うん。」
「だったらなんであの時に言ってくれなかったんだ?」
「あの時はまだ青い自然霊にそこまで注目してなかったから言う必要性を感じなかったんだよね。」
「ふーん、そうか。」
しかし雄太君や笠歌線の被害者達や更には春香さんにまで青い自然霊が取り憑いていたというのはどういう事だ。
意味不明な状況がさらに訳が分からない状況になりつつあった。
だが解決の糸口を見つけたのかもしれない。
すると理沙がこう尋ねてきた。
「ねえお兄ちゃんはどう?」
「すごく気にはなるな。春香さんは俺達に何かを話したかったみたいだし、理沙があの時の映像で青い自然霊がついてると言えば尚更な。」
「あの時、春香は私に何を伝えようとしていたんだろう?」
そうまさにその点だった。
春香さんは俺達に何かを話そうとしていた。
だがそれを俺達に話す前に春香さんは亡くなってしまった。
「そうだな理沙、俺もそこは気になって仕方ない。理沙もう一度だけ確認したいんだが春香さんは約束をすっぽかしたり、平気で遅刻をしたりする人間ではないんだな?」
理沙は力強くこう答えた。
「うん、そこはちゃんと断言できるよ。春香は約束をすっぽかしたり、平気で遅刻をする人間では決してないから。春香はそんな事を絶対にしないよ。」
「そして理沙は栗林刑事に見せてもらった映像の中で春香さんは青い自然霊に取り憑かれていたんだな?」
「うん、そう。」
「あと理沙にもう一つ聞いておきたい事があるだが。」
「なに?」
「春香さんの言っていた話したい事に何か心当たりはないのか?」
「うーんあれからずっと私も考えてたんだけど、やっぱり心当たりはないんだよね。」
「そうか。」
「これは春香さんが話そうとしていた事を突き止めた方が良さそうだな。それが事件解決の糸口にもなりそうな気がする。」
「そうだね、私もずっと気になってるからお兄ちゃん明日一緒に調べに行かない?明日はお兄ちゃん休みでしょ?」
「ああ構わないが、理沙どうやって調べるつもりだ?」
「春香の家に行ってみようかと思ってるんだ。」
「春香さんの家にか。」
「だったら栗林刑事にも話を通しておいた方がいいな。栗林刑事に事件の捜査の進捗も聞いておかなければならないし。」
「うん分かった。」
俺はすぐに栗林刑事に連絡を取った。
「はい栗林です。どうされましたか春山警部?」
「すまないが明日、春香さんの自宅に行こうと思っているんだが一緒に来てくれないか?」
「もちろんです。喜んでお供しますとも。それではまた明日。」
そう言うと電話は切れた。
翌朝、俺と理沙が玄関を出ると神社の前に栗林刑事の車が止まっていたのだった。
「春山警部、理沙さんお待ちしてました。どうぞお乗りください!!」
「栗林刑事、出迎えくれなんて言ってないんだが。」
「いえいえ憧れの春山警部と仕事ができるなんてこんなに喜ばしい事はありません。送迎するぐらいは当然じゃないですか。」
「まあいいんだが、それで栗林刑事、あれから何か捜査に進展はあったのか?」
「ダメですね、あれから私の方で調べているんですが捜査はまだ情報の洗い出しをしている状態です。」
「まああれから10日かしか経ってないからな。そうなると春香さんの通話記録やSNSでのコメントなどはまだ調べられてないのか?」
「スマホの方は一通り確認しましたが、春香さんの部屋の方はまだ調べができていません。来週中には取り掛かりたいと考えていた所です。だから春山警部からの連絡は渡りに船だったんですよ。しかしなんで春香さんの家を調べようとなさってるんですか?」
「あの日春香さんが俺達に話があると言ってた事は伝えただろう。俺達は春香さんの話したかった事がとても重要なんじゃないかと考えているんだ。」
「つまり春香さんが春山警部に伝えようとしていた事が事件解決の鍵になるとお考えなんですね。分かりました、この栗林全力で春山警部をサポートさせて頂きます。」
「ああ、ありがとう。」
それから俺達は栗林刑事の車で春香さんの実家へと向かったのだった。
春香さんの実家は笠歌市にあった。
春香さんの実家はどこにでもありそうな2階建ての一軒家だった。
道路わきに車を止めて、玄関前のチャイムを鳴らした。
「すいません、理沙です。葉名さんいますか?」
少ししてインターホンから女性の声が聞こえてきた。
「ああ理沙ちゃん、わざわざ来てくれたのね、ありがとう。ちょっと待ってね。今開けるわ。」
そして玄関の扉が開いた。
「理沙ちゃん、葬式に出てくれてありがとね。きっと春香も理沙ちゃんが来てくれて喜んでいると思うわ。春香もなんでこんなに早く逝ってしまったのかしらね。もっと生きていて欲しかったのに。」
葉名さんはそう言うと泣き出してしまった。
「はあ・・・理沙ちゃん、ごめんね。葬式の時にあれだけ泣いたのに、また泣いちゃって。」
理沙は首を横に振った。
「いえ、全然いいです。」
葉名さんはハンカチで涙をぬぐったのだった。
そして俺と栗林刑事に気がついた。
「あら他のお客様もいらしてたんですね?すいません気がつかなくて、今日は何かご用事でしたでしょうか?」
栗林刑事と一緒に俺も頭を下げる。
栗林刑事と俺が警察手帳を葉名さんに見せた。
「ああ、刑事さんなんですね。何をお話すればいいんでしょうか?」
すると栗林刑事が葉名さんに尋ねた。
「では早速で申し訳ないのですが、春香さんが飛び降り自殺をするような動機に心当たりはありますか?」
葉名さんは横に首を振った。
「それが全然分からいんです。春香は九是山市に行ってくるってメールを送ってくれたんですけど、何か悩んでる様子はなかったと思います。それなのにその日の夕方にスエダビルの屋上から飛び降りをしたって聞いて、もうショックでショックでうううううあああ。」
そう言うと葉名さんはまた泣き出してしまった。
そしてなんとか葉名さんを落ち着かせたのだった。
葉名さんがすまなそうに頭を下げた。
「なんども取り乱してしまってごめんなさい。」
「いえ。」
「あと申し訳ないんですが、春香さんの部屋を調べさせて頂きたいと思っておりまして、春香さんの部屋を見せて頂く事は可能でしょうか?」
すると葉名さんは快く応じてくれた。
「ええもちろんです。必要なだけ見て行ってください。2階は全部春香の部屋です。2階は全て春香が使っていましたから。」
「理沙ちゃん、本当にありがとうね。葬式だけじゃなくて、春香の捜査にまで協力してくれて。」
「いえ春香の為ならこのぐらいは当然です。」
俺達は春香さんの仏壇の前でお焼香をさせてもらった後で、春香さんが使っていた2階へと上がったのだった。
理沙は春香さんの実家の造りをよく把握しているようで、理沙に2階を案内してもらった。
「こっちの部屋は春香の私室で、あっちの部屋が春香のスタジオだよ。」
「どっちに行けばいいんだ。」
「あるとすると春香のスタジオの方だと思うんだよね。」
俺達は春香さんのスタジオの方に移動した。
「2重ドアになってるな。」
「なんでも音漏れがしないように2重ドアに変えたんだって、配信は音漏れがしないように防音の部屋の中でやるのが基本らしいよ。音漏れは配信者にとっては大きな問題らしいから。」
「そういうものなのか。」
「うん。」
俺達は2重ドアを開けてスタジオに入った。
部屋は6畳前後の広さで壁には白い壁紙が張られており、大きめの椅子と二つの机その上にパソコンが4台設置されていてそこで作業ができるようになっていた。
部屋の中にはそれ以外の物はなかった。
「さてと春香さんのスタジオに来たのはいいが、ここからどうするかだな。」
「お兄ちゃん、どうもここじゃないみたい。」
「ここじゃないって、どういう事だ?」
「この先の部屋に行った方がいいと思う。理由は分からないけど、なんとなくそうした方がいいと感じたの。」
こういう時の理沙の直感はかなり当たる。
俺は理沙の直感に従う事にした。
俺達はスタジオの奥の部屋へと入っていった。
「この部屋はなんだ?」
「資料部屋かな。」
部屋の中にはたくさんの本棚が置かれていた。
「へえ~、ホラー関係の本で埋め尽くされてるね。資料として春香が集めてたやつだね。」
「理沙この本を一づつ見ていけばいいのか?」
理沙は首を横に振った。
「ううん、たぶん本じゃないと思う。」
すると理沙は部屋の端に置いてある収納ボックスを指さした。
「あの収納ボックスを取ってくれる。」
「ああ。」
俺は理沙が指さした収納ボックスを理沙に手渡した。
「その収納ボックスには何が入っているんだ?」
「この中にはメモリとかが入ってる。」
「このメモリには3月第一週撮影分と紙が貼ってある。」
「隣のメモリは2月第二週撮影分と紙が貼ってあるな。」
「お兄ちゃん、栗林刑事お願いがあるんですけど?」
「なんだ?」
「このメモリに入ってる映像をどんどん流していってくれない。スタジオに4台のパソコンがあるからあそこで再生していってほしいな。」
「分かった。」
俺は理沙の言う通りに前の部屋まで移動して、スタジオのPCを使って、メモリの映像を順々に再生していった。
理沙は神経を研ぎ澄ませながらPCの画面を見つめていた。
「この映像は違うと思う。次のをお願い。」
俺は理沙の指示通りに、映像の再生を止めて次の映像の再生を始めた。
少し見た後で理沙が俺に言った。
「この映像も違うと思う、次のをお願い。」
理沙は俺と栗林刑事が流す映像をどんどん見ては、次の映像を再生してを何度も繰り返していった。
そしておよそ百本分の映像が流し終わった頃に理沙がこう言った。
「これだ!!」
「これなのか?」
メモリには5月第一週撮影分と要追加調査と紙に書かれていた。
その映像には九是山市内を巡る春香さんが収められていた。
「映像を見た感じは九是山市内みたいだな。だが要追加調査というのはどういう事だ?」
「もしかしてあの日、春香は何かを九是山市まで調べに行ってたんじゃないかな。」
「春香さんが何かの調査の為に九是山に来ていたというのはあり得るな。」
「春香はそれを調査した上で私達に相談しようとしていた。」
「なるほどな。」
「そうなると九是山市内を調べに行った方がいいな。」
「九是山市内の心霊スポット巡りか。」
俺達は九是山市内の心霊スポットを巡ってみる事にした。




