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16話 静かな虐殺

翌日からは慌ただしくなっていた。


二つの事件の捜査をしなければならなくなったのだ。


俺はすぐに笠歌線無差別殺傷事件の捜査を始めたのだった。


俺はあの映像を撮影した配信者を呼んで聴取を行っていた。


「それじゃあ君はあの電車の前面展望を撮影するために、6月6日の日にあの電車に乗ったんだね?」


「ああ、あの電車はKー200系の新型車両だから。車内からの運転風景を撮影すれば視聴数が稼げると思ったからな。」


「乗ったのは九是山駅からか?」


「ああ。午前9時15分の笠歌行の列車に乗って撮影を始めたら、あの惨劇に出くわしたって訳。」


「乗客達は逃げたり犯人を取り押さえたりしていなかったんだね?」


「あの映像の通りだよ。誰も逃げたり抵抗しようとしていなかったんだ。」


「君も抵抗したり逃げようとはしなかったのか?」


「1号車の先頭にいた俺に、どこに逃げろって言うんだ。それにあんな怖い状況で動けるわけないだろう。あの場でカメラを回すだけで精一杯だったんだよ。」


「もういいだろう、刑事さん。もう帰らせてくれないか。あの映像は捜査資料として渡すからさ。」


「やけに帰りたがるんだね?」


「帰りたいんじゃなくてもうあの事件を思い出したくないんだよ。怖すぎるから。」


確かにあんな状況に恐怖を感じずにはいられないだろうな。


「聴取はこれで終わりです。」


「じゃあこれで帰らせてもらう。」


配信者の男性はそう言うと部屋を去っていった。


次に3号車の目撃者の女性の聴取をしていた。


「それじゃあすぐには犯行が行われている事に気がつかなかったのかい?」


「はい、とっても静かだったんで気がつきませんでした。」


「悲鳴とかは聞かなかったのかい?」


「はい、もう電車の音以外は静寂そのものでした。犯人が首を斬りつけている間も、本当に静かでした。私以外は悲鳴をあげてないと思います。最初、全然そんな凶行が起こってるって気が付きませんた。だってものすごく静かだったんで。それでなんか静かだなっておもって車内を見渡したら、犯人が乗客の人達を斬りつけていってるじゃないですか。ぼうビックリしちゃって声をあげたんですよ。」


「犯人は3号車の車内を動き回っていたのかい?」


「いや動いてなかったと思います。同じ場所にずっと立ってたと思います。」


「それじゃあ乗客達が。」


「はい、一人づつ一人づつ犯人の近くに移動していました。」


そう言うと目撃者の女性は顔を青くした。


「警部さん、もういいですか。怖くなってきちゃってもう思い出したくないんですけど。」


「ええ、すいません。これで結構ですので、貴重な情報ありがとうございました。」


そして目撃者の女性は部屋から出ていった。


これで1号車から4号車の目撃者の聴取が終わったな。


そう考えていると新川刑事が部屋に入ってきた。


「新川刑事、5号車から8号車の聴取はどうだった?」


「大体あの映像と同じ事が起こったとどの目撃者も言っていました。被害者達が凶器を持った犯人の前まで移動して殺してくださいと言わんばかりに首元を晒したうえで次々に犯人によって斬りつけられていったようです。」


「車内はパニックにはならなかったのか?」


「それがパニックどころか、どの号車もとても静かだったようです。目撃者もすぐにはあんな虐殺が起こっているとは気がつかなかったようです。目撃者が悲鳴をあげた以外は誰も悲鳴をあげなかったと言っていました。」


「誰も騒いでいないというのが、まるで理解できないな。」


「そうですね。」


「静かに殺戮が進んでいくというのはどういう事だ?」


「春山警部、そちらはどうでしたか?」


「こっちも一緒だな。1号車から4号車の目撃者から話を聞いたが、口を揃えてあの映像と同じ事が起こったと言っていたよ。」


「どうやら1号車から8号車まで全部の車両で、あの映像とほぼ同じ事がほぼ同時に起きていたようだな。」


「そうだ、運転手からも聴取をしたいんだが。」


「春山警部、それは無理です。」


「無理とはどういう事だ?」


「あの車両を運転していた運転手はもう死亡していますから。」


「死んでいる、犯人に殺されてしまった、いやそれはないか。あの映像を撮影していたのは1号車の先頭からだ。犯人が運転席に行ったのから、あの撮影者もタダでは済まないはずだ。」


「そもそも運転席は乗客が乗る側からはロックされては入れないはずですよ。」


「それじゃあ運転手はなぜ死んだんだ?」


「運転手は運転席で死んでいるのが、発見されています。首からの出血多量が原因で死亡したと見られています。血痕のついた凶器のナイフも運転席内に落ちていましたし、犯人達が入る事はできないと考えられますので、恐らく自殺したものと思われます。」


「ふーん、そうか。」


「そういえば、あの電車はどのあたりで緊急停車したんだ?」


「えっとあの列車は854号と扱われています。あの列車は九是山駅を午前9時18分に出発して出発してから3分後の午前9時21分に急減速を始めており、9時23分に完全停止しています。それから午後1時15分に機動隊が突入して車両を動かすまで動いていません。」


「その854号が急減速してから機動隊が突入するまでの間、鉄道本部からは854号に問合せはしてないのか?」


「いえ当然、鉄道本部から854号に対して何度も呼びかけが行われていますが、全く返答はなかったようです。」


「なぜ運転手は本部からの呼びかけに何も返答しなかったのか。」


「全然分かりませんね。」


「さてと少しこの事件の状況を整理してみたいんだが、この笠歌線大量殺傷事件の疑問点はいくつもあるが、一番意味が分からないのはやはり乗客の行動だな。」


「そうですね、なんで乗客達は逃げたり犯人を取り押さえようとしなかったでしょうか。」


「1号車だけ見ても犯人1人に対して乗客は30人近くはいたんだ。いくら犯人がナイフを持っていたといっても、30人もいれば十分取り押さえる事は可能なはずだ。ましてや乗客達はパニックを起こしたり悲鳴すら出してない。ただ事件を黙って見ていただけだ。そして一番分からないのが自分の首元を犯人の前に差し出しているんだ。これが本当に意味が分からない。乗客達は何を考えてそんな行動を取ったんだ。」


「そうですよね、訳が分からないですよね。」


すると堀刑事が俺の元にやってきた。


「春山警部、1号車の犯人と思われる被疑者についての身元が判明しました。」


「すまない、さっそくだが聞かせてくれるか。」


「1号車の犯人と思われる人物についてですが、名前を秋山務(あきやまつとむ)といって香川県の座井田原(ざいだはら)町に在住のようです。」


「香川の座井田原(ざいだはら)か、となると秋山はすごい距離を移動してきている事になるな。秋山はこの事件を起こす為にわざわざ笠歌まで来ていたという事か。」


「いえそれがどうもそうではないようでして。」


「秋山は小さな商社に務めていまして、その会社の都合で東京で商談をするために出張に来ていたようなのです。九是山で一泊して東京に向かうつもりだったようです。秋山の勤めている会社と商談相手の方の会社にも確認してきましたので、間違いないと思われます。」


「それじゃあ秋山は会社の都合で商談をするために東京に向かっていたにも関わらず、途中でそれをほっぽり出して、笠歌線の車内で突然と凶行に及んだとそいう事か。」


「そうなりますね。」


「凶器についてはどうなってるんだ?」


「はいそれも判明しています。恐らく九是山駅の近くにある雑貨屋で6月3日の午前8時台に立て続けに9本売れていました。恐らく犯人達がこの雑貨屋で買ったものと思われます。」


「まさか凶器は一緒の物だったのか?」


「はい、犯人達の持っていたナイフは全て一緒のタイプだったのか?」


「はい全ての犯人が同じ凶器を使っていたようです。」


「そうか。それで凶器はサバイバルナイフのようなものだったのか?」


「それが犯人達が使っていたのは果物ナイフだったようで。」


「果物ナイフだと、果物ナイフ程度の切れ味で人を殺そうとしていたのか?」


「みたいですね。」


「この事件、凶器や犯人の素性についてはすぐに分かるのに、犯人も被害者も訳の分からない行動ばかりで意味不明すぎる。」


「なんか調べれば調べるほど意味不明さが際立ってきますね。」


「こちらも厄介な事件だな。」


「そうですね。事件の詳細が分かっており、犯人までちゃんと分かっているのに、ここまで頭を抱えるなんて普通ありえませんからね。」


「この事件の解決にも骨を折りそうだな。」





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