10話 解決?
俺達は実家へと戻ってきたのだった。
「どうする気なんだ、理沙?」
「こうなったら御神体の前で祝詞奏上をしようと思って。」
「なるほど、確かにヒスキ様の御神体の前で祝詞奏上をすれば威力を大きくする事ができるな。」
「うん、ここなら御神体の御鏡もあるしね。」
「だけど理沙、さっき千代さんから雄太君が祟られる理由に心当たりがないか聞いておいた方が良かったんじゃないか?」
「聞いておこうかなとも思ったんだけど、なんか聞いちゃいけないような気がしたんだよね。」
「聞いちゃいけないっていうのは?」
「いやなんかそう感じただけなんだけどね。」
「そういう時の理沙は大体合ってる事が多いからな。理沙がそう言うならそれは聞かなくていい事なんだろう。」
「もちろん断言はできないけどね。」
「とりあえず今はその事は置いておくか。それよりも雄太君をここまで移動してきてもらうのは厳しいんじゃないか?あんな状態ではおちおち車も乗せられないと思うんだが。」
「そこが問題なんだよね。どうやって雄太君にここまで来てもらおうかと思ってさ。」
「雄太君が眠ってる間に車に乗せて連れてくるってのはどう?」
「まあそれなら雄太君を連れてくる事は可能だろうが、それ普通にやったら誘拐だからな。ちゃんと千代さんに話をして許可をもらってからじゃないと俺は協力できないぞ。」
「当たり前でしょ、お兄ちゃん。この後また千代さんの家に行くから、その時に話をしてみる。」
「そうしてくれ。人助けの協力しかさすがにできないからな。」
すると理沙が申し訳なさそうに言ってきた。
「お兄ちゃんごめんね、せっかくの連休を潰す流れになっちゃって。」
「なーに、気にするな。雄太君には元気になって欲しいからな。」
すると突然にスマホが鳴り出したのだった。
俺のスマホの着信音ではなかったので、恐らく理沙のスマホの着信だろうと思った。
やはり理沙のスマホが鳴っていたようで、理沙がそのアラーム音に気がついてすぐに電話に出たのだった。
「ああちょうど良かったです千代さん。この後でお話しようと思ってたんですが。・・・はい・・・・はい・・・。」
「はい・・・・はい・・・・えっ??ええっ?雄太君が!!そうなんですか?すぐに戻ります。」
理沙は電話の会話によってかなり驚いているように感じた。
何か驚くような内容だったのだろうか?
俺はすぐに理沙に尋ねた。
「おい、理沙どうかしたのか?」
「それがさ雄太君が動かなくなったんだって。」
「動かなくなった、どういう事だ?」
「うん、さっきの電話は千代さんからだったんだけど、雄太君が全く動かなくなっちゃったんだって、それで千代さんは心配だから救急車を呼んだんだって。それで雄太君はそのまま入院になったんだって。」
「そうなのか、それで雄太君が入院した病院はどこなんだ?」
「九是山総合病院だって言っていたよ。」
「なら俺達もすぐに九是山総合病院に向かおう。」
「うん。」
俺は理沙と共に雄太君が運ばれた九是山総合病院へと車で向かった。
雄太君が運ばれた九是山総合病院はとても大きな綜合病院で、俺達は病院の1階にある受付へとやってきた。
そこには千代さんがすでにおり、俺達を出迎えてくれたのだった。
「春山さん、わざわざ来てくださってありがとうございます。」
「いえそれは全然構わないんですが、雄太君、どうされたんですか?」
「それが春山さん達が帰られた後で、急に何も話さなくなってそのまま動かなくなってしまったんです。」
「前から話さないのは一緒じゃないですか?」
「ええ雄太が会話ができないのは前と一緒だったんですが、雄太は雄たけびをあげたりうめき声をあげなくなってしまったんです。その場で床に倒れ込んだと思ったら、そのまま動かくなってしまったんです。」
「動かなくなった?」
「あれだけ暴れ回っていた雄太君がですか。」
「はいそうなんです。それで救急車を呼んだんです。」
「そうだったんですね。」
「それで肝心の雄太君の様態は?」
「それについてはまだ先生から話を聞いてないんです。後で病院の先生から話があるとは言われたんですが。」
するとそこに白衣の医者らしき人物が俺達の所にやってきたのだった。
壮年の細身の男性が千代さんの前に立っていた。
「雄太君のお母さんですか?」
「はい、そうですが。」
「私は九是山綜合病院の勤務医の矢場修平と申します。今回雄太君の担当をする事になりました。雄太君の事でお話があります。」
「では我々は外で待っていますよ。」
すると千代さんは心配そうな顔をして俺達にこう頼んできたのだった。
「あのう、すいませんが先生の話を一緒に聞いて頂けないでしょうか?」
「それは構いんですけど、いいんですか私は部外者ですよ?」
「ええお願いします。一人で聞くのは不安なんで。」
千代さんは不安そうな顔で俺達に頼んできた。
「お兄ちゃん、聞いてあげようよ。千代さんは一人で聞くのは不安なんだよきっと。」
「そういう事なら分かりました。」
俺達は千代さんと一緒に話を聞く事にした。
「矢場先生、すいませんが我々も同席させてもらってよいですか?」
すると矢場先生は訝しげに俺達の顔を見てきた。
「えっと、すいませんが、あなた方は雄太君の親族の方ですか?」
「あいえ雄太君の親族というわけではないんですよ。」
「申し訳ありませんが、病院のルールとしてご家族の方以外に患者の情報をお教えする事はできません。部外者の方は遠慮してもらえませんか。」
まあそりゃそうだろうな。患者の個人情報になるからな。
すると千代さんが頭を下げて頼み込んできた。
「すいません、私がお願いしたいです。一人では不安なので。」
「うーん、そう言われてもですね。」
矢場先生は困った様子で考え込んでしまった。
うーん、こういう事の為に警部になったんじゃないが、まあ仕方ないか。
「ああ矢場先生、私は怪しい者ではありません。」
俺は懐から警察手帳を取り出すと、矢場先生に見せた。
「警部さんでしたか。」
「ええ特殊事件刑事応援室所属の春山です。」
「まあそれならばいいでしょう。」
矢場先生は納得してくれたようで、雄太君の病状を教えてくれた。
「それで雄太君はどこが悪いんですか?」
「いえそれが雄太君の体を詳しく精密検査をしましたが、異常は一つも発見できませんでした。雄太君の体に異常はなく至って健康状態と言えます。」
「ええっ。そうなんですか?」
「私もどこかに異常が出ていると思っていたんで、正直驚いています。」
すると理沙が矢場先生に質問をした。
「でも矢場先生、雄太君は動かなくなったってどこかに異常があるって事なんじゃないんですか?」
「ええそこが私にも分からなくて、ただ精密検査の結果だけを見れば健康そのものと言わざるおえません。ただ精神疾患の可能性はまだ残されていますので、大事を取って入院の判断をさせてもらいました。」
「そうだったんですね。」
「それじゃあ雄太君は精神疾患の可能性が高いんですか?」
「なんとも言えません。精神科は私の専門外なので判断できないんです。今日は精神科医がいないので、明日精神科医の意見も聞いた上で判断したいと考えています。」
「雄太の意識はいつ戻るんでしょうか?」
「ちょっとそれもまだ判断できません。」
「そうですか。」
「雄太君に会う事はできますか?」
「ええ問題ありませんよ、ただまだ意識が戻っていませんので雄太君との会話はできませんが。」
俺達は矢場先生に案内してもらって4階にある雄太君の406病室までやってきた。
この前まで派手に暴れていたのが嘘のように、雄太君は病室のベッドで静かに寝ていた。
「ただ寝ているだけのようにしか見えませんね。」
「本当に。」
「矢場先生、雄太君はいつごろ退院できそうなんですか?」
「いつ退院できるかは意識が戻ってからの判断になりますね。」
「そうですか、分かりました。」
それから十分ほどして俺達は病院を後にした。
「なあ理沙、雄太君に取り憑いていた霊はどうなったんだ?」
「さっき見たら雄太君にはあの青い自然霊は取り憑いていなかったんだ。」
「そうなのか?」
「うん。」
「他の雄太君に取り憑いていた幽霊達も全部雄太君から離れたみたい。」
「理沙は雄太君がおかしくなってしまったのは、その青い自然霊のせいだと考えているのか?」
「うん、そこは間違いないと思う。」
「ふーん、そうか。」
「それでその原因が雄太君にあるわけでもないと理沙は考えているんだよな。」
「うん、たぶん雄太君は巻き添えになっただけだと思う。」
「だったら雄太君からあの青い自然霊が離れたのはいい事だな。」
「うんたぶん雄太君側に非はないと思うから、あの青い自然霊が離れたのはいい事のはずだとは思うんだけど。」
なぜだかは分からないが一抹の不安を俺はこの時に感じていた。
この漠然とした不安感はなんなのだろうか。
悪い霊が雄太君から離れた事はいい事のはずだ。
俺は頭ではそう考えていたのだが、同時に大きな不安感を持っていた。
俺はそんな不安感を振り払おうと理沙に言った。
「青い自然霊が離れたのならじきに雄太君の意識も戻って雄太君の元気になるさ。なあ理沙?」
だが理沙は俺の言葉に何も答えてはくれなかった。
「・・・・・・」
「理沙?」
理沙を見ると理沙も不安そうな顔を浮かべているのだった。
「・・・・・・」
俺は理沙に声を掛けた。
「理沙、どうかしたのか?」
すると理沙は俺に気づいて返事をしてくれた。
「ごめん、なんでもない。そうだよね、きっと雄太君の意識も戻って元気になってくれるよね。」
いつも明るく振る舞う理沙がとても不安そうな顔を浮かべていた。
あんなに不安そうな理沙の顔を見るのは初めてだった。
どうやら理沙もまた大きな不安を感じていたようだった。
そしてその日はそのまま神社へと帰ったのだった。
何も起こらない事を祈っていたが、だが俺達の不安は見事に的中してしまうのだった。
それから3日後、雄太君が死んだとの知らせが俺達の元に届いたのだ。




