今夜のステージはマイ布団(ふとん)
「相変わらず、ゲームの腕は大したものよね。言うなれば天下無双だわ」
私は引きこもりの独り暮らしで、今日も布団に籠って対戦格闘ゲームをプレイしている。親からも見捨てられていて、そんな私を〝天下無双〟などと評価してくれるのは、何かと世話を焼いてくれる友だちの彼女くらいだ。
「褒めてもらえて嬉しいけど、私に未来はないわよ。どうせ就職もできない。……もう放っておいて」
彼女が世話をしてくれなかったら、あっという間に私は餓死するだろう。それでも、これ以上、彼女に負担を掛けたくなかった。
「まあまあ。貴女がゲームで使ってるキャラクターみたいに、明るく行こうよ。見てて楽しいよね、このキャラ。踊りながら敵を倒すスタイルが爽快だわ」
あっさり彼女に受け流される。私の使用キャラクターはダンスミュージシャンで、葉っぱでもキメてるんじゃないかというくらいのハイテンションだ。陰キャの私も、ゲームでの対戦中は気分が上がって、憂鬱な現実を忘れられた。
「……どうして私に構うの? 貴女に返せるものなんか、何もないわよ」
「そんなことないわ。私、貴女の才能を買っているの。お金を稼ぎましょう。手配は私がするわ。それで分け前をもらえれば満足よ」
「スーパーアーツ・コンボが炸裂ぅ! ダンス、ダンス、ダンス! 正に天下無双の強さ! 優勝賞金、一億五千万円は彼女が獲得しましたぁ!」
会場は両国国技館で、国内最大級のゲーム大会を私は制した。実況席の解説も、どこか他人事のように感じられる。私が喜びを分かち合いたいのは、ただ一人だけだった。インタビュアーから優勝コメントを私は求められる。
「おめでとうございます。素晴らしい強さでしたが勝因は何でしょう?」
「それは……他の大会もそうですけど、私が布団に包まってプレイすることを許してもらえたからだと思います。ありがたいです」
私が布団の中でこそゲームの才能を発揮することを、マネージャーとなった彼女は見抜いていた。布団で寝ながらプレイするスタイルで、プロのゲームプレイヤーになれたのは、彼女の交渉のお陰である。
車輪付きの台の上で、布団に包まった私はマネージャーの彼女に運ばれて去る。今夜の布団は彼女と一緒だ。