真実の愛を知った第二王子は、真実の愛より既得権益の方が良いと気付いた
「オデの婚約者、公爵令嬢近鉄バ・ファローズ!そひて、そして卒業パーティに集まった全員聞けっ!オデは真実のあひ、ンガッ、愛に気付いちゃん!その相手がこの男爵令嬢だ!」
卒業パーティに遅刻して現れた第二王子は、泥酔状態で愛人と噂されていたピを連れて現れ、大声で騒ぎ出した。
ピは私を見ると、勝ち誇った様な笑みを向けてきた。
「オデはこのピを抱いた!ゴム付けて先週抱いた!そんで、思ったんだ!真実の愛ってこんな程度?ってなあ!」
ストレートに婚約破棄の流れかと思ったのだが、何か雲行きが怪しくなってきた。
「これが真実の愛なら、娼館の女抱くのとあんま変わらねえ、そう思った。ステータスオープンするなら、近鉄が0、娼館の女が12、このピが13か14ぐらいだ。なら、娼館の女抱きまくった方がお得だよなぁ!だから、お前いらねー!」
「え、何言って」
ガシャーン!
ピは等速直線運動をして、窓から消えていった。
「そんな訳で、オデは真実の愛を知り、今の地位と天秤に掛ける程じゃねえと理解した。親の金と権力を何の努力も無しに継げる政略結婚!これこそが一番大事!愛だのなんだのは金と地位が安定してこそだよなぁ!政略結婚サイコーだぜー!さあ、皆さんご一緒に!政略結婚サイコー!」
誰も、ご一緒しなかった。
「真実の愛より政略結婚の方が良いっ人は拍手ー!」
誰も、拍手しなかった。
「何だよー!おめえらノリわりーなー!今日はパーティだどー!ほーれ、今日は祝だぁ!楽しもーぜー!」
そう言って、第二王子は近くにあった酒瓶を手にして、近くで微動だにしてない顔面ビキビキな参加者の頭に、順番にドクドクと酒瓶の中身を浴びせていった。近くに居た人々の頭に酒を注ぎ終わった彼は、スキップしながら私の眼の前まで来た。
「近鉄ぅ〜、おめえも執事とデキてたんだろ?でも、あいつじゃなくてオデとの政略結婚を選んだのは、何が大事かを知ってたからだ。だ・い・じょ・うぶ!オデも昨日気付いたから!オデがあの男爵令嬢に抱いていた思いが皆から鼻で笑われるよーなのだったみてーに、おめえが執事への思いも鼻で笑えるもんだったんだ。だから、過去誰が好きだったとかは忘れて、お互いなあなあで後五十年ぐらい仲良くやってこーぜ、なっ!」
そう言い、彼は私の頭に酒を注ぐと、今度は国王夫妻の方へムーンウォークで近付いて行った。
「親父い、おふくろー、今日がオデにとってのラストチャンスだったんだろ?もし、今日婚約破棄したら見捨てるって算段だったんだろ?オデ、二人の期待に応えたから、これからもよーろーしーくーねー。うぷっ、オロロロロロ!」
第二王子は両親の前で盛大にリバースし、ゲロが陛下の靴や王妃のドレスにシミを作った。でも、彼らは怒りに震えるばかりで、第二王子に文句を言う事も殴り掛かる事も出来なかった。国王夫妻だけでは無い。私も、参加者の皆様も誰もこのクズを止められなかった。何故なら、このクズが婚約破棄する前提で準備していたからだ。
『こいつアホだから、卒業パーティで婚約破棄絶対するよ。だったら、そのタイミングで全員でざまぁしてやりましょう』という意見で満場一致した結果、卒業パーティまでは誰も手を出さないという暗黙の了解が生まれ、首尾よく婚約破棄が為された後は『あーあ、婚約破棄しなければ贅沢な暮らし続けられたのにバカだなー』って皆で笑い者にする予定だったのだ。
なのにこのアホは!
最後の最後で正解選びやがった!
誰もコイツを殴れねえ!
殴ったら、その瞬間アホのアホさを見誤って野放しにしていたアホとして歴史に名を残してしまうからだ!
クソう、衛兵なんとかしろよ!私はオナラで衛兵に合図を送るが、衛兵は手をブンブンと横に振るばかり。いーから行けよ!たかが衛兵なら失う地位とか大して無いんだから!
と、その時だった!
「この裏切り者がー!」
ガシャーン!
等速直線運動で窓から出て行ったピが世界一周して反対側の窓から帰ってきた。
「アタシを王妃にしてやるって言ってただろ!ここまで一緒にやってきて、梯子外すなんて、王族とか貴族とか以前に、人として駄目だろおおおお!!」
「ひ、ひいっ!」
ピが第二王子に飛び掛かり、恐怖で尻餅をついた第二王子に馬乗りになり殴り始めた。
おっしゃ、よくやったピ!王妃になるとかとんでも発言していたけど、スルーしてやるから、そのままそいつ殺してくれ!
「近鉄、未来の夫が死ぬピンチだ!助けてくれー!」
「…え、えーと。殿下、これはアレです」
「ドレだよ!?」
「これは、殿下が愚かだった過去を乗り越える試練だと私は思っています。殿下の過ちの象徴たるピを自らの手で罰してこそです。ですよね、国王陛下」
「あー、うむ。ワシも今それ言おうと思っとった。皆のもの、これは第二王子が我々と同じ心意気を持つ者が見極める最後の試練じゃ。手を出さず見守れ」
陛下ナイスぅー!国王陛下の言葉を聞き、パーティ参加者達は第二王子とピを囲む様に集まった。第二王子はマウントから抜け出し、逃げようとしたり反撃をしようとしたりするが、『第二王子から貰った酒でふらついたゲスト達』に阻まれ続け、次第に追い詰められて行った。
「そろそろトドメですわね。殿下、直接手助けは出来ませんが、このナイフをお使い下さい」
私はピの手にナイフを握らせる。
「近鉄ぅー!そっちは男爵令嬢!オデはこっちだ!」
「えー?殿下から貰ったお酒が回って良く分かりませんわー、さあ行けピ!第二王子にトドメを!」
「今間違いなく言った!オデを殺すって言った!」
「キエーッ!」
グサッ。
第二王子の喉にナイフが刺さり、その死が確定した。それを見るや我が国の優秀な衛兵達はピの首をはね落とした。
「陛下申し訳ありません!突然窓から飛び込み、瞬く間に持ち込んだナイフで第二王子を瞬殺した刺客に対応が遅れました!」
「いや、良い。お前たちは最善を尽くした。悪いのは、この何者かも分からぬ刺客じゃい!この性欲の権化めが!」
陛下が文句と共にピの頭を蹴る。それを皮切りにパーティ参加者達は次々とピの頭を蹴りながら溜まっていた不満をぶちまけた。
「ここまでやらかしといて、許される訳ねーだろ!」
「ゴム付けても、やっちゃアカンわ!」
「つーか、パーティ会場で騒いた時点でギルティ!」
「てめーの浮気と公爵令嬢様の忍び愛を同列にするな!」
「お前は元々、生活態度とかが王族として足らなかっただろがい!」
第二王子に対して言いたかった事を、ピに向かって放ちながらサッカーする事でパーティ参加者達は何とか溜飲を下げ、卒業パーティは無事(?)お開きとなった。
その後、私はちゃんとした婚約者を見つけて貰い、無事結婚。執事との間に生まれた子供をその夫との子として育て、その子が成人した頃、『クズが卒業パーティで婚約破棄するの前提でクズを泳がすの禁止法』が制定されたのだった。