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『最強』を目指したかった

 

「DE OPPRESSO LIBER」

  抑圧からの解放

 

11月4日

0600

自宅


「ふぁ。」

 おはようございます。土曜日ならもう少しだけ寝ていたいのが本音ですが、でも今日はあの人を迎えに行かないといけません。

 外で待っていますが、寒い。ホットコーヒーが欲しい。昨日はアイスコーヒー飲んでいたけど。

 しばらくしていると、一台のワンボックスカーが停車した。

 助手席に座ると同時に、運転席に座っていた男性が缶コーヒーを渡してきた。

「ありがとうございます、千崎竜介さん。」

「いいや、待たせてすまなかった。」

 昨日メールを送ってきた、千崎さん。

 仕事では上司に当たり、副社長だ。それに、恩人である。元陸上自衛隊特殊作戦群という経歴を持つ。

 高速道路に入り、羽田空港に向かう。

「社長は1000(ヒトマルマルマル)に到着するみたいだ。それと、榛名に伝言があった。」

「?」

「アメリカの食事が飽きた。榛名達が作る飯が食べたい、だと。」

「あはは......。」

 社長はアメリカ人だ。しかし、日本に来日してすぐに日本食にハマったそうだ。いつしか、日本食や日本のお菓子を食べ過ぎて少し太ったとか......。

 会社の社長はアメリカに行き、色々と勉強や友人に会いに行った。だいたい一週間くらいである。

 今日はその社長を向かいに行き、私が社員さん数人と共に料理を作り、俗に言う慰労会をやる予定だ。やっぱり疲れた時には美味しいご飯で補給しないと、ということだろう。

「中澤は社長が食べたいものにしようと考えているようだ。」   

「了解。」

 羽田に着くまで千崎さんと会社の業務について話をした。

「今度、特戦群が訓練に来るそうだ。」

「ほへぇ。私も参加?」

「当たり前だろ。迷惑をかけるが、お前さんの力が必要だ。」

「了解しました。」

 守秘義務が多いから、大変なんだよね。


1000

東京国際空港


「あ。いた。」

「ジャック!」

 迷彩柄のリュックを背負い、ゴツい体型。黒の帽子。間違いない、社長だ。

 すると社長も私達も気がついたのか、こちらに近づいてくる。

「おかえり、社長。」

「おう、ただいま。千崎もご苦労さん。」 

「あぁ。それじゃ、行こうか。「

 さて、私がほとんどの友人、知り合いらに秘密にしていること。

 株式会社桜。

 ()()()は、CQBやCQC、TCCC(戦術的第一線救護)などの訓練や講習。サバイバルゲームなどを提供する会社。主に、自衛隊や警察といった官公省庁に対するものだ。サバイバルゲーム、俗に言うサバゲーは基本的に民間用ではある。埼玉県と東京都の県境に会社を構え、射撃訓練やCQB、CQCだけでなく、車両を使った訓練、ロープを使用した降下訓練といった訓練を行える施設がある。勿論、社員用の建物、小さいが来客用の寮のような施設、食堂もある。

 ......ある意味、自衛隊の小さな駐屯地とか訓練場みたいだ。

 表向きということは()()()もある?

 さぁ???


1100

首都高速都心環状線


「アメリカはどうだった?」

「楽しかったな。会社に着いたら話すが、米軍のシールズにいる友人と会ったんだがな。部下とも会わせてもらったんだが。まぁ、愉快な連中だったよ。」

 この社長の名前は、ジャック・マーティー。「ジャック」か「社長」と呼ばれている。

 元アメリカ陸軍出身であり、グリーンベレーにもいた凄い方だ。

 どうやら日本に陸上自衛隊特殊作戦群との演習の際に来日して、日本の食べ物にどハマリ。文化も好きになり、日本に永住したいと決めた。そして、アメリカ軍を除隊。日本に移住、永住権を獲得。永住権取得後すぐにこの会社を創設。そして、今に至る。

 先程コンビニで買ったおにぎりを美味しそうに食べてる。

 社長は本当に日本の食べ物が好きで、だいたい何かしらおにぎりやお菓子を持っている。

「なんのおにぎり買ったの?」

「梅とツナマヨ。」

「ほんと、好きだな。」

 運転席で運転する千崎さん。顔は見えないが苦笑いしているのがなんとなく伝わる。

 因みに社長と千崎さんの出会いは、先程にもあったグリーンベレーと特殊作戦群が演習する時だ。グリーンベレーの社長と、当時特殊作戦群だった千崎さんは仲良くなり、日本を教えたのは千崎さんだ。良き友人であり、相棒であるそうで、会社を創設した時に真っ先に声をかけた相手は千崎さんだという。

「梅の酸っぱさとツナマヨがいいんだよ、これがいいんだよ。」

「......分からなくはないけど。」

 実際、ツナマヨは美味しい。よね? ね?  

 (圧)


1200

スーパーマーケット


「それで、ジャックは何が食べたいんだ?」

「榛名達が作るのなら何でも。できれば日本の食べ物系統。」

「おまかせが一番困るんだけど? 白米と沢庵だけにするよ?」  

「それでも構わないぞ。」

「「......。」」

 私と千崎さんは言葉が出なかった。

 え? いいの? 逆に!? 

 そう言えば。学校の社会科の先生が言ってたけど、沢庵の由来は江戸時代に臨済宗の僧侶である沢庵和尚が徳川家光に大根の漬物を出した際に感銘を受けた徳川家光が「沢庵漬け」と命名した、という説が有力だと言うけど......。それを知ってて言ったの?

「はぁ......。」

 千崎さんは呆れか、諦めかは分からないがため息をした。

 ......はぁ。

 結局、安売りしていた魚介類を使った料理になった。


1500

株式会社桜 


 買い物を終え、会社に到着した。

 社長が社員さん達に挨拶をしていった。

 私達は軽くパンやカップラーメンで昼食を済ませて、少し休憩をした後に夕食の準備に入る。

「中澤さん。」

「おう、榛名! にしても、こりゃ魚あったな!」

 声が少し大きいこの人は、中澤光一さん。 

 元海上自衛官。経歴としては、社長や千崎さんとは異なり、特殊部隊にいた経歴はない。しかし、海上自衛隊横須賀地方隊横須賀警備隊所属のはしだて型特務艇 はしだての調理員長である経歴を持つ。

 ところで、特務艇はしだてとは。

 特務艇「はしだて」の任務は国内外の賓客を招いての式典や、海上自衛隊を訪問した諸外国の将校団との会議・会食、マスコミやメディア関係者との懇親会などの『迎賓』。また迎賓以外の機能も備え、災害派遣にも出動する多機能艦艇となっている。言わば、『海の迎賓館』。

 中澤さんは多くの人から絶賛されており、取材も少なからず受けているそうだ。

 「料理においては右に並ぶ者はいない。」といったのが社長である。

 あれ、私は??? 私の作った料理を食べたいって言ったんだよね? あれ?

 中澤さんは、戦闘という面より、料理という面においては、この会社ではなくてはならない存在である。         

 社員だけでなく、ここに来る人々にご飯という後方支援がいるのだ。

「お腹が空いては戦ができぬ。」

 そう言いながら包丁を手に取り、ブリを捌いていく。

 私は、要望があった鮭西京焼きを作ることになった。

 まず、鮭を三枚におろし、一口大(約40g)に切り揃え、軽く塩をふり、30分程度置く。

 その後、キッチンペーパーで水分を取り除く。白みそ、酒、みりん、砂糖で、鮭を一晩漬けこみ、焼く前に味噌をキッチンペーパーで取り除く。 これを中火で焼き上げる。 ここでは焦げに注意すること。おまけで、しめじ、かぶ(1/4に切り、面取りをする)、出汁、みりん、塩、薄口醤油、酒で軽く煮て、冷ます。

「ふんふん〜。」

 私と中澤さん。そしてもう二人と共に作っていく。

 最終的には、海老や貝、野菜が入った鍋。刺し身。焼き魚。唐揚げなどの揚げ物。豪華な夕食となる。

「榛名ちゃん。」 

 私達と共に作っていた根本結衣さん。元海上保安庁のヘリコプターパイロット。長らく関西空港海上保安航空基地にて働いていたという。どうやら海上保安庁特殊警備隊を乗せたことがあるそうで、彼らとも顔見知りだと言う。

 結衣さんはジュースのペットボトルを渡してきた。

 結衣さんは、言うならば母性が溢れている。見た目や行動がより引き出されている。

 結衣さんに対しては、敬語を使わなくていいという許可を結衣さんから受けている。しかし、訓練の時の表情や言動が怖い。どんな感じなのかはいつか分かるかもね。

「お疲れ様。」

「結衣さんこそ、お疲れ様です。」 

「どう? ここ最近の学校は。」

「楽しいよ。つい最近も友人とご飯食べに行ったり、話をしたりして。色々満喫してるよ。」

「そう? なら良いのだけど......無理はしないで。まだ私は心配しているのよ。」

 ......。


1800

社屋 


 社長の慰労会が始まった。

 社員の多くはお酒を飲んでいるけど、勿論私は未成年者なのでジュースとかです。

 社長は日本酒を楽しみつつ、料理を食べています。逆に千崎さんはウイスキーで、傍から見ると飲んでいるお酒、逆ではないかと思ってしまう。

「それで、どうだったんだよ、ジャック。あっちは。」

「あぁ......。やっぱり思ったのが、フォート・ブラッグはキモい。」 

 アメリカ合衆国ノースカロライナ州に所在するフォート・ブラッグ。面積は251平方マイル (650 km2)と東京都区部より広い。アメリカ陸軍特殊作戦コマンドの司令部などの重要施設がある。また、デルタフォースやグリーンベレーなどの精鋭部隊がいる。また、基地内には小学校や中学校、銀行、ショッピングセンター、レストラン、映画館などがあるという一つの基地であるが、一つの町のようである。

 そんな基地で任務につき、生活していたのが、社長だ。

「基地にある施設、訓練場、飛行場があって仕事をする上では文句はほぼなし。そのに娯楽もある。基地から出なくても幸せだった。」

 すると千崎さんは、ウイスキーの入ったグラスを置き、社長に対して聞いた。

「グリーンベレーも辞めて、アメリカから日本に移り住んで。同僚とかから何か言われなかったのか?」


【ジャック・マーティーニ】

「グリーンベレーも辞めて、アメリカから日本に移り住んで。同僚とかから何か言われなかったのか?」

「......。」

 千崎や榛名達に話している、俺がグリーンベレーを辞め、アメリカから日本に移住した本当の理由。

 千崎が日本の食べ物や文化を紹介されて、確かに感銘を受けた。これは事実だ。

 だが、それよりも。 

 疲れてしまったんだよ。グリーンベレーの任務上、様々な国や地域に向かう。命令によっては、これまた変わる。実際、アフガニスタンに派遣され、帰国した後の俺の生活は変わった。派遣中に愛する妻が事故で亡くなったと聞かされた。

 絶望。

 それでも、ただ任務、任務、任務任務任務任務任務任務......。

 ......グリーンベレーのベレー帽の記章は「交差した2本の矢の上に短剣、下にリボン」。

 そのリボンにはラテン語で、DE OPPRESSO LIBER。抑圧からの解放という意味だ。

 この言葉は、入隊から除隊までずっと考えてきた。

 「俺は除隊の時にこう思った。除隊で、解放された。軍隊という抑圧から解放されたんだ」、と。

「上司も同僚も何も言わなかったよ。ただ、ご苦労さんってな。ちょいと吸ってくる。」

「はい。」

「うぃ。」

 千崎と榛名は、何かを察したのかこれ以上何も言わなかった。いや、言ってほしくない。

 俺は榛名の頭を撫でてから、テラスに出る。

 タバコを吸おうとしたら、まずタバコを切らしていた。

「......はぁ。」

 椅子に座り、星空を眺める。まだ、この地域は田舎っぽくて好きだ。静かで、少しだが星も見える。

 すると、ドアが開く音がして一人の社員が隣りに座る。

「どうした、結衣。」

「はい、帰国祝い。」

 小さな箱を渡してきた。おや、これは。

 俺の好きな、ホヤデニカラグアという葉巻だ。元々、現役時代での訓練。それこそ、派遣された時の気晴らしにも吸っていた。このタバコを選んだのは、上司から高いがオススメされたこと。好きな戦術諜報アクションゲームのキャラが吸っていたメーカーでもあったからだ。

「すまん。」

「はいはい。」

 ......うん、美味い。

 結衣は隣りに座った。

「どうしたの?」

「ん? あぁ......ちょっと昔を思い出してな。」

「それは、グリーンベレーでの話?」

「......否定はしない。」

 結衣に対しては、秘密が通じない。流石、マザー。

 葉巻の火を消した。

 一泡吹かされたな。それとも、結衣だからか、気が緩んだかな。

「すまない、結衣はタバコを吸ってないのに......。」

「やっと気づいた? やっぱり隠してるかもだけど、疲れてるわね。私には話してほしいかな。」

 俺は基本的に喫煙者でない人の前では吸わないことにしているが、吸ってしまった。

 結衣という人間の安心感があるが......マインドコントロールがなってなかったかもな。いや、トラウマとなったからか?

 正直に打ち明けることにしよう。

「俺がグリーンベレーに入り、実際に色んな国や地域の軍隊や部隊などに訓練を施してきた。その後、アフガニスタンに派遣されて、教育だけでなく戦闘もした。そこで何人か友人や仲間を失った。その時の俺はPTSDにはならなかったが、帰国後。派遣中に妻が交通事故で亡くなったというのを聞かされた。基地内の家にはただ一人。あの孤独は辛かった。 」

「......知らなかった。その後は?」

「グリーンベレーにはいたが、少しだけ休暇が与えられた。妻、友人、仲間の死の気持ちの整理や俺の療養の意味だそうだ。だが、正直、無理だった。任務ばかりで食事も、まるで海兵隊の訓練生のような流し込むだけだった。そして、しばらくしてから日本に特戦群との演習で来日した。まぁ、後は知っての通りだな。」

 それからも、結衣は黙って聞いてくれた。だいたい、5分くらい話していたが、目を見て、頷いてくれた。本当に、お母さんのようだ。とても嬉しいことだった。

「聞いてて思ったけどね、ジャック。あなたは軍に入隊したこと。グリーンベレーを目指して、なったこと。奥様と結婚したことは、後悔しているの?」

「......いいや、後悔していない。入隊したこと、グリーンベレーを目指したこと、結婚したことは俺の人生にとって、とても楽しかった。幸せだった。」 

「やっといつものジャックになったわね。.....ジャック。たまには私にも相談してほしいわね。」

「ハハハ。あぁ、その時は頼むよ。」

 結衣は部屋に戻っていった。

 俺は再度、葉巻を吸うことにする。

「......。」 

 なんで、グリーンベレーを目指すようになったの?

 妻に言われたことだったな。

「『最強』を目指したかったからだよ、ハニー。」

 部屋から榛名が声をかけてきた。

「社長ー! 締めのラーメンにしますよー!」

「はいよ。」

 榛名だって、俺よりも大変な思いをしているのだから。

 ドアを開けるとラーメンにいい匂いと、温かさが肌に感じた。

  


2話目です

ここまでお読みになってくださり、誠にありがとうございます。

視点を榛名から桜の社長、ジャック・マーティーになりましたが、今後も主人公榛名から変わることがあります。各キャラの思いや行動を楽しんでくれれば幸いです。

また、お会いしましょう。

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