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EP.9‐猫吸い‐

挿絵(By みてみん)


 話を終えて一息ついた猫人族のアクティはユリの【浄化】のスキルで森で付いた汚れを落とした後、ユリのベッドに寝転がっていた。


「ベッドなんて初めてだにゃ~!ふかふかのぽかぽかで眠くなってくるにゃ~…」


「ミーロが来るまで寝ててもいいよ、僕はそれまでに持っていく薬を選んでおくから」


 アクティにはすでに話しているがミーロの母親の足を治せる薬を持っていくつもりだった。ゲームと同じようなら足が悪い状態は鈍化などの状態異常か足の部位を攻撃されて負傷するとなる。

 どちらも治す薬もスキルもあるが、問題は足が悪い状態をそのまま放置していると言う事だ。治すすべはあるが金銭的な問題で治せないか、この世界では治す薬やスキルが存在しないのかのどちらかで、どちらの理由にせよ気軽に治して良いものでは無いのかもしれない。


「さっき言ってたミーロのお母さんの足に使う薬かにゃ?それだったらユリのスキルで治せるんじゃないのかにゃ?」


「そうかも知れないけど、今まで治してなかったって事は負傷や状態異常を治すスキルは存在しないか、使える人が少なくて治療費が高額って可能性があるから、そんなスキルを使えるってなると面倒な事になりそうだし、手に入れた薬って事にして渡した方が良いと思ってね」


 薬を渡した所でこの世界では高価な物には違いないがスキルを使うよりは誤魔化せるだろう。


「確かにプリズンオーガが強いモンスター扱いされてるぐらいだからにゃ~」


 アクティにはこの村で起きた事も話したが、やはりゴブリンと同じようにプリズンオーガの事も知っており、強さの認識もユリと同じだった。


「薬はエイドポーションで良いかな、自作の効果が低いポーションだけど思った通りに治ってくれるかな」


 エイドポーションとは体力が回復しなくなったり、身体の部位ごとの負傷を治すポーションだ。あえて効果が低いポーションなのは効果が高すぎて不自然に回復しないようにするためだ。


「切断されてるとかじゃにゃいならそれで大体治ると思うけどにゃ~ふあぁ…それじゃ少しだけお昼寝させてもらうにゃ…」


 アクティは陽の当たるベッドで体を丸めるとすぅすぅと寝息をたてはじめた。


「よし、薬も用意したし、僕も少し休むか…」


 ミーロが迎えに来るにはまだ少し早いと思われたためユリも横になって休もうかと思ったが、ひとつしか無いベッドをアクティが使っているので横になれる場所が無かった。


「仕方ない、もうひとつベッドを出すか…」


 ユリはインベントリの中の家具のカテゴリの中からシングルベッドを選んで取り出した。この宿のベッドでも寝るには十分だったが、アプル村は一日を通して気温は低めで夜はだいぶ冷えたので少し寒かった。


「よし、ゲームと同じように毛布に羽毛布団も付いてる」


 ユリは部屋の開いているスペースにベッドを設置すると掛け布団をめくり潜り込んだ。ユリは目を閉じると毛布の肌触りと羽毛布団の暖かさに一瞬にして眠りに落ちてしまった。


 どれだけ時間がたったのか、ユリは部屋をノックする音で目を覚ました。陽はすっかり傾き部屋の中をオレンジ色に染めていた。


「ふぁ…暖かくてガッツリ寝ちゃった…よいしょ」


 ユリは恐らくミーロであろうノックの主を迎えるために布団を捲り起き上がろうとする。


「に”ゃ~…寒いにゃ…」


 ユリが掛け布団を捲るとそこにはアクティが体を丸めて寝ており、捲った事で入り込んだ冷気に体を震わせていた。


「な、なんでアクティが僕の布団に!?」


「寒くて目が覚めたらユリがあったかそうなベッドで寝てたからおじゃましたのにゃ~この布団凄いのにゃ!全然寒さを感じないのにゃ!」


 アクティは体を起こして両手で布団を掴むと無邪気にバタバタとさせる。すると布団の中にこもったアクティの匂いが広がる。


「この匂いどこかで…はっ!?」


 その時ユリの頭の中に入り込んできたのは失われたはずの記憶から飼っていたのであろうペットの猫と猫吸いという行為が思い出された。


「にゃ…?ユリどうしたにゃ?なんか顔が怖いにゃ~…」


 ユリは両手を上げて無防備になっているアクティのもふもふのお腹にロックオンをして近づき顔を埋める。


「ど、どうしたのにゃ急に…」


「すぅ…はっ!?ご、ごめん!えっと昔飼ってた猫の事を急に思い出したら懐かしくなっちゃって!」


 我に返ったユリは慌ててアクティから顔を離すがアクティはユリの肩を掴むと、再度自分のお腹にユリの顔を突っ込んだ。


「あたしは猫じゃにゃいけど、そういう事なら好きなだけこうしてるといいにゃ~」


 アクティはそのままユリの頭をゆっくりと撫でた。ユリは記憶に無いはずの愛猫の事と、アクティの性格には似つかわしくない母性を感じてアクティのされるがままになってしまった。


「あれ…?鍵開いてる。失礼しまーす?居ないんです…か!?」


 その時ノックをしても反応が無かったため、不在なのかと思ったミーロが様子を伺うために部屋の中を覗き込む。


「ちょっ…!ふたりともなにしてるんですか!?」


 ミーロが部屋の中を覗くとベッドの上でアクティのお腹に顔を埋め頭を撫でなれているユリの姿が目に入り声をあげる。


「あ、ミーロ!おはようにゃ~」


「あ、おはようございます。じゃなくてふたりともベッドの上で何してるんですか!?」


 ミーロの声で我に返ったユリがアクティお腹から顔を離した。


「こ、これは違くて!アクティが寝ぼけて僕のベッドに入ってきて…!」


「それでユリはあたしの匂いが気に入ってしまったのにゃ~」


 そこまで聞いたミーロはツカツカとふたりの居るベッドまで迫って来た。


「…なぁんだ!そうだったんですね!」


「へっ…?」


 予想外のミーロの言葉にユリは間抜けな声が出た。


「猫人族と言えば人間を魅了する不思議な香りがするって言う噂は本当なんですね!ずるいですユリ!私もアクティさんを吸ってみたいです!」


 まさかミーロの口からアクティを吸うなどと言うパワーワードが聞けるとは思ってもいなかった。


「ならミーロもこっちに来るにゃ!ふたりで思う存分あたしを堪能するといいにゃ~」


 アクティはミーロの腕を掴むと自分の方へ引き寄せ、一度顔を離したユリもろともお腹に押し付けた。するとユリとミーロのふたりはほっぺ同士がむにっと密着しながらアクティのお腹に顔面ダイブした。


「すぅ…ワァ…本当に良い匂いがします…」


 ミーロはユリと密着している事など気にもとめずにアクティ吸いに夢中になっている。ユリの方は気が気ではなかったが次第にアクティの匂いに意識が再度持っていかれ、ベッドの上でユリをミーロがアクティのお腹に顔を突っ込みながらアクティに頭を撫でられている異様な光景となった。しばらく時が過ぎると先にミーロが正気を取り戻した。


「…はっ!?あまりの心地よさに寝かけちゃいました!起きてくださいユリ!晩ご飯の用意が出来たから呼びに来たんです!」


 ミーロに声をかけられてユリは体を起こした。


「…まさか猫人族の猫吸いがここまで中毒性があるとは」


「良く分からにゃいけど気に入ってくれたなら良かったにゃ~またしたくなったらいつでも吸うと良いにゃ!」


 アクティはボンと色気なく自分のお腹を叩いた。その後出かける準備を整えるとユリとアクティはミーロに連れ垂れて宿を出たのだった。


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