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EP.8‐情報共有‐

挿絵(By みてみん)


 アプル村の北にある泉までゲートの影響で魔物が生息していないかの調査に向かったユリとミーロはゴブリンの生息を確認し、その際に出会った猫人族のアクティと共にギルドに戻ってきた。そしてアクティと出会った経緯とゴブリンの存在、討伐はアクティがした事を受付嬢のフラウに伝えた。


「確かにゴブリンの耳ね、全部右耳で合計で7匹か…ゴブリンなら王都から来てくれる兵士でも問題は無さそうだけど、それまでユリは引き続き村の護衛よろしくね」


 受付嬢のフラウはゴブリンの耳をしまうと半銀貨を数枚取り出した。


「それにしてもこんな時に森で迷うなんてアクティさんもついてなかったわね、でもさすが猫人族ね、ゴブリンとは言え7匹も一瞬で倒しちゃうなんてね」


 猫人族とは亜人種のひとつで様々な種族が存在しており、亜人種に共通しているのは一部を除いて魔法系のスキルを使えない代わりに物理攻撃力が高い特徴がある。その中でも猫人族は身体能力が非常に高く、回避力も高い種族だ。ゴブリンなどでは相手にもならないだろう。


「それほどでも無いにゃ~!…それでこれは何にゃ?」


「何ってゴブリンの耳の分の報酬よ?…ってアクティさん冒険者登録はしていないのかしら?それだと報酬は渡せないわね…」


 ギルドは安全確保を目的に魔物の討伐部位と引き換えに報酬を冒険者に支払うが、その際に不正を極力防ぐために討伐者と討伐した魔物の種類と討伐数を記録するので冒険者登録が無いと報酬を受け取れないようになっている。


「よく分からないけど、冒険者になればその報酬は貰えるのかにゃ?」


「もちろん大丈夫よ、それなら今から登録しちゃいましょうか」


 フラウはユリの冒険者登録した時と同様に書類を取り出した。


「にゃ…なんて書いてあるか分からないにゃ…」


 ユリはスキルのおかげでこの世界の文字は理解出来たが、スキルを持っておらず、恐らくタイソレのゲーム内から来たアクティにはこの世界の文字は理解出来ないようだった。


「あら、文字が読めないのね。ならここににアクティの名前を書くから同じように書いてもらえるかしら?」


 アクティはフラウが手元のボードに書いた文字を何度も見ながらモフモフの手で必死にペンを握って何とか登録を済ませた。


「それじゃ登録料を引かせて貰って…はい、ゴブリンの討伐の報酬ね」


 アクティは今度こそ報酬をフラウから受け取った。


「ユリとミーロの調査依頼の完了報酬はもう少し情報がまとまったらになるけど、ゴブリンを発見した分の報酬は今渡しちゃうわね。それでアクティさんはこれからどうするのかしら?旅の途中で迷ったって事だったけど」


「それだったら僕の滞在してる宿でひとまず休んでもらおうと思います」


 アクティとはプレイヤーとNPCと言う違いこそあるが、同じゲームの世界からやってきた可能性が高いため一度話を合わせておきたかった。


「それなら私はお金も入ったので一度買い物をして家に帰りますね、…あの、宿屋の食事には敵いませんけど、良かったら今日の晩御飯はうちに食べに来ませんか?勿論アクティさんも一緒にどうぞ!」


「それは嬉しいけど、食材のお金は僕が出すよ」


 いくらお金が入ったとはいえミーロは足の悪い母親の代わりに冒険者になり生活費を稼いで暮らしているのでご馳走になるのは少し気が引けた。


「いえ!お母さんもユリには直接お礼を言いたいと言っていますのでご馳走させて下さい!」


 この手の押し問答は素直に好意を受け取った方が良いパターンだ。その代わりに何かお土産を持っていこう。


「それなら遠慮無くご馳走になるよ」


「はい!準備が出来たら宿まで迎えに行くのでそれまではお部屋で休んでいてください」


 そしてミーロはユリとアクティの二人に一度別れを告げて帰って行った。


「フラウさん、それでは僕たちも宿に帰りますね」


「えぇ、お疲れ様。アクティさんもゆっくり体を休めてね」


 その後ギルドを後にしたユリとアクティの二人はユリが滞在している宿屋に向かい、宿屋の女将にアクティの事を話した。


「猫人族のお嬢さんもこんな時に森で迷うなんて災難だったねぇ、そう言う事ならユリと同室なら部屋の料金は無しで構わないよ」


「それは助かるにゃ~!女将さんありがとうにゃ」


 アクティには宿屋に向かう間にとりあえずユリが知っているギルドの事と、報酬で貰った半銀貨がこの世界の通貨であることは伝えておいた。タイソレでのゲーム内通貨は金貨で統一されていた。案の定アクティは金貨の事しか知らなかったが、通貨の意味は理解しているようでユリの説明も問題無く理解出来ているようだった。


「女将さんありがとうございます。後今日の食事はミーロの家に呼ばれているので無しでお願いします」


「分かったよ、それじゃ仕事に戻るけど、何かあったら遠慮なく言うんだよ」


 宿屋の女将に挨拶を済ましたユリとアクティはユリの宿泊している部屋へと向かった。


「宿って聞いたことはあったけど初めてだからワクワクするにゃ~!」


「じゃあちょっと話をしたいからそこの椅子に座ってもらっていい?」


 まずは同じ世界から来た事を伝えて、出来る限り一緒に行動をしたい事をアクティに話すつもりでユリはインベントリの中から鎮静効果のあるハーブティーと猫人族の里で入手が出来るマタタビクッキーを用意して、ユリに言われた通り椅子に腰かけているアクティの目の前に置いた。


「これはご丁寧にどうもにゃ~…ってこれ猫人族の里で作ってるマタタビクッキーじゃにゃいか!?にゃんでこれをユリが持ってるにゃ!?」


「さっきは言えなかったんだけど、おそらく僕もアクティと同じ世界からここに来たんだと思う。僕の知っている世界にも猫人族の里って言う場所があってそこでしか買えないアイテムがこのマタタビクッキーだったんだ」


「…このマタタビクッキーはあたしの知ってるクッキーと全く同じだからユリの言ってる猫人族の里はあたしの居た所だと思うにゃ、それに同じ世界からってここは別世界なのかにゃ?」


 そもそもユリは地球からタイスレのゲームキャラになった上でこの世界に来ているので別世界なのは確実だが、アクティから見たこの世界が別世界なのかは不明だ、ゲートを通じてユリも知らないタイソレのフィールドへと移動しただけの可能性もある。


「本当の事は分からないけど今はその可能性が一番高いと思ってる。何にせよこの世界でゲートは魔物、僕らの言う所のモンスターが魔界から来る通り道みたいな認識っぽいからね。僕もアクティもゲートから来たって事がばれたら魔界の住人扱いをされるかもしれない。だからこの事は二人の秘密にして行動も一緒にしたいと思うんだけど、それでいいかな?」


 話が一区切りついたタイミングでアクティの顔を見るとアクティはユリが出したマタタビクッキーに釘付けになっており、口からは涎が垂れていた。


「にゃ!?あぁ!それでいいにゃ!」


「アクティ…今の話ちゃんと聞いてた?」


 アクティに同じ世界から来た事を証明するためにマタタビクッキーを出したが予想した通り凄い食いつきだ。マタタビクッキーは猫人族を含めたネコ科に分類されるキャラクターに使用すると興奮状態になりステータスを一時的に上げるアイテムで、そのままだと制御が出来なくなるので興奮状態を治すアイテムも必要だった。


「も、もちろん聞いてたにゃん!フゴフゴ…ユリとあたしの事は内緒で一緒に居ようってコトだにゃあ?…ユリ~このマタタビクッキー食べてもいいかにゃ~?匂いで気がおかしくなりそうにゃ~…」


「いいけど食べたらすぐにハーブティーを飲みなよ?」


 猫にマタタビを目の前にお預けなどと言う残酷な事は出来ないため、予め用意しておいた興奮状態を解除出来るハーブティーを飲みながら食べる事で許可を出した。


「分かったのにゃ!!あーん…モグモグ…ぐへへ…この香り、たまらねぇにゃ~!!おっと…ゴグゴグ…ふぅ…」


 一瞬ヤバイ物を取り込んだような状態になったアクティだったが、ハーブティーを飲むと急に落ち着いた。


「初めてマタタビクッキーを食べたけどこれはヤバイにゃ~!食べたら飛ぶにゃ」


「アクティはマタタビクッキーを知ってたのに食べた事なかったの?」


 確かに猫人族の里に居るNPCがマタタビクッキーを食べるような描写は無い、ただ里のショップで店売りをしているだけの物だったからだ。


「う~ん…多分初めてにゃ、何だか記憶がごちゃごちゃしててよく分からないんだよにゃ~」


 何故だかは分からないがゲームのNPCが急に人と同じように感情を持ったのだ、仕方が無いだろう。ただユリはタイソレのゲーム内NPCとの会話は一部最近のAI技術が使われていると聞いたことがあった。そこまでNPCと何度も会話する事は無かったため気にした事も無かったが、もしかしたらそのAIが何か関係しているのかも知れない。


「それでユリの言った事は分かったけど、これからどうするのにゃ?」


 ゲートを通して中立NPCである猫人族のアクティがこの世界に来たように、他の中立NPCもこちらに来ている可能性はある。そうであるなら出来る限り接触して手助けをしたい。言葉が通じたとしても本当の事をこの世界の人に話せば魔界からやって来た者として扱われてしまうかも知れない。


「今はこの村の護衛任務を受けてるから村を離れる訳にはいかないけど、それが終わったらこの世界の各地にあるゲートの場所に行ってみようと思う」


「分かったにゃ、あたしもユリに付いて行くにゃ」


 こうして情報を共有したユリとアクティは再度椅子に腰かけてハーブティーとクッキーをお茶請けに優雅なティータイムを始めた。


「モグモグ…やっぱたまらねぇに”ゃ”ー!ゴクゴク…ふぅ…とても美味しいハーブティーですにゃわね…」


 ユリは【消音】スキルを予め使っておいて良かったと胸をなでおろしたのだった。



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