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EP.6‐初依頼‐

挿絵(By みてみん)


 ユリは部屋をノックする音で目を覚ました。


「ユリ、起きてますかー?迎えに来ましたよー」


 昨日の約束通りミーロが迎えに来たようだ。


「うーん…夢じゃなかったか…」


 ユリはベッドから降りて、すぐに体に『浄化』を使った後に扉を開けた。


「おはようございます!あ、女将にユリの部屋を聞いたらついでに朝食を持って行ってって私の分のいただいちゃいました。もうギルドは開く時間ですけど朝食を食べてから行きましょうか」


「おはようミーロ、机の上を片付けるから少しまってて」


 ユリは寝る直前に机の上に出していたアイテム類をカバンの中に押し込んだ。


「おまたせ、この机の上に置いてもらえるかな?」


 ミーロが机の上に二人分の朝食を置き、ユリは椅子を並べて座った。


「それじゃあ食べよっか、いただきます」


 ミーロもユリに続いて椅子に座り、手を合わせた。朝食のメニューはパンに肉、そして林檎だった。


「十分美味しいけど、ちょっと味気ないかも…そうだミーロ、ちょっとまってて」


 ユリの言葉にミーロはパンを食べようと口を開けたまま一時停止してしまったが、その間にユリがカバンに手を入れて瓶に入った黄金に輝く液体を取り出した。


「パンと林檎にこれをかけて食べてみようか、アーミービーの蜂蜜だけど合うかも」


 昨日ギルドマスターのグラシーがアーミービーの蜂蜜を合わせた魔力ポーションを美味いと言っていたので味は良いのだろう。何よりパンと林檎に蜂蜜が合わない訳がない。


「ア、アーミービーの蜂蜜ですか!?そんな高級品ダメですよ!」


 アーミービーとはゲームでは大群でスポーンするモンスターで、単体ではかなり弱いモンスターだが複数体を相手にしないといけない関係上、範囲攻撃スキルを所有していないと脅威になるモンスターだ。とはいえ範囲攻撃があれば一掃できるし、一体ごとドロップするのでアーミービーの蜂蜜はユリにとっては貴重品などでは無い。しかし今取り出した蜂蜜は瓶に入った状態でドロップする物でこの世界では入手する方法も違うはずだ。


「気にしなくても良いよ、蜂蜜だから腐る事は無いと思うけど取っておいても仕方ないしね」


「ユリがそう言うのなら…」


 ユリは蜂蜜をパンと林檎にかけて、ミーロに渡した後パンを口に運んだ。蜂蜜を受け取ったミーロは恐る恐るユリに習い同じようにパンに蜂蜜を付けて食べた。


「美味しい!こんなに甘くて美味しい物を食べたの初めてです!」


「そうなんだ、ミーロはお菓子とかは食べないの?」


 この国の地理などは分からないが周囲の森と言い、建物の雰囲気と言い生活水準が異世界の中でも高い方では無いだろうし、この村の住人はどのような食生活をしているのだろうか。


「この村にもお菓子はありますけど、こんなに甘い物じゃないですし贅沢品なので滅多に食べませんね」


 そういえば受付嬢のフラウがミーロは元冒険者だった母親が怪我によって引退した代わりに自らが冒険者となって稼いでいると言っていた。ギルドでの薬草の採取依頼ではそこまでの報酬にならないだろうし生活費を稼ぐだけで精一杯なのだろう。


「なら今度僕がお菓子を作ってあげるよ、お菓子に使えそうな素材も余ってるしね」


「ユリは料理も出来るんですか!?…やっぱりユリは凄いですね」


 料理はゲーム内ではその名の通り『料理』スキルと言う物がある。『料理』スキルはランクが上昇する程レシピが開放される。材料が合っていればランクが低くてもレシピ開放されていなくても料理は作れるが品質が落ちると言った物だ。


「まあそれなりにね、それじゃあ食べ終わったら行こうか」


 そして二人は食事を終えた後、食器を女将に返却して宿屋を出た。


「それではギルドへ向かいましょうか、多分もうギルドの掲示板に調査依頼が出てると思います」


「よし、じゃあ冒険者としての初仕事だ」


 宿屋を出た二人は冒険者ギルドへ向かい、ギルドへ到着すると入り口の横にプリズンオーガの素材が綺麗に解体されて置かれていて、その横には受付嬢のフラウが居た。


「ユリ!ミーロもおはよう!夜通し解体してやっと終わったのよ。今から素材の換金をするからカウンターに来てもらえる?」


 フラウに手を引っ張られてユリとミーロはギルドのカウンターまで連れて来られ、ドカッと目の前に硬貨が入った袋が置かれた。


「これが今回プリズンオーガを解体した素材の換金分よ、それで素材ごとの査定額を確認してもらえるかしら?」


「ならその間に私は依頼を確認してきますね」


 そう言うとミーロは掲示板へ向かって行った。


 そしてフラウがユリに一枚の書類を渡した。そこには素材ごとの換金額が書かれており、その額にユリは驚いた。まだ貨幣価値を把握出来てはいないが村の護衛料が銀貨30枚である事を考えるとかなりの額だった。その中でもプリズンオーガを拘束している鎖はかなりの高額になった。


「これは…結構な額になりましたね…」


「それはそうよ!皮も肉も内蔵だって無駄な素材なんて無いし、鎖なんて異常な硬さの金属で作られてて常に需要が高いのよ?」


 ゲームでは足しにもならない硬貨と素材をドロップするだけだったフィールドモンスターがえらい出世だ。


「それじゃ問題が無かったらここにサインを貰えるかしら?」


 この査定額が高いのか安いのか分からないが、どのみちこれだけの硬貨があればしばらくは問題無いだろう。


「はい、サインをしました」


「…確かに!本当に助かったわ~!これでギルドの資金もしばらく安定するわ!」


 かなりの額で買い取って貰ったが、これらの素材はそれ以上の額で卸すことが出来ると言う事だ。それにしても肉に内蔵も素材となっているが、もしかして食糧として使うのだろうか。


「あのフラウさん、プリズンオーガの肉とか内臓って食べられるんですか?」


「それは勿論よ!肉は貴重品だし、内臓は薬の材料になるわ!まああの見た目だからね、受け付けない人も多いけど味はとても良いらしいわよ?」


 この世界ではモンスターも食べられているようだ。動物に似たモンスターならまだしも二足歩行の人型モンスターまで食べているとは思わなかったが、食文化と言うのは世界が違えば大きく変わっても不思議では無い、ならば食してみるのも悪くないかもしれない。そんな事を考えているとミーロが戻って来た。


「換金は終わりましたか?思ったとおり森の探索依頼が出てましたよ!」


「え!?ミーロ探索依頼を受けるつもりなの!?危険よ!森に魔物がいるかの調査なのよ!?」


 フラウはミーロが森の探索依頼を受けると思っていなかったのかかなり焦っていた。


「私は探索スキルと潜伏スキルがあるし魔物が出ても大丈夫だよ、それにユリがパーティーを組んでくれる事になったから…駄目かな?」


 フラウは少し考えた後、首を縦に振った。


「昨日の今日で随分と打ち解けたみたいね。ユリが同行してくれるのなら問題無いわ、正直ゲートが発生した時の決まりで依頼は出しているけど、今調査依頼を受けられる冒険者は村に居ないし二人が受けてくれるのなら大助かりよ。でもユリは村の護衛もしてもらわないといけないから村の鐘が聴こえる範囲でお願いするわ」


 元々スキルを使用して万が一村が調査中に襲われても気がつけるようにするつもりだったが、物理的に村を離れすぎるのも護衛任務を受けている以上良くないだろう。


「それじゃ調査依頼の説明をするわね。今回の調査はアプル村の北の森で発生したと思われるゲートの影響で森に魔物が生息しているのかどうか、していた場合は魔物の種類を報告、不明な場合は出来る限り特徴を報告。またその他で気になる事があれば些細な事でも報告して貰うわ。あと今回の調査は村の鐘が聴こえる範囲に限定するから北の森にある泉までの調査をお願いするわね。緊急時には鐘を雑に何度も鳴らすからそれが聴こえたら調査は引き上げてね」


 一通り説明を終えるとフラウは依頼書と思われる書類に二人の名前を書いた。


「はい、これで依頼の受注は完了よ。ユリ、ミーロの事をお願いね。この子魔物との戦闘経験は無いから…」


「その時は必ず僕が守りますし、それにミーロのレンジャーのスキルは土地勘の無い僕にとっても心強いですから」


 そしてフラウはカウンターを出てこちら側へやってくるとポンと肩を軽く叩いた。


「ミーロにとって森は庭みたいな物だものね、道案内しっかりするのよ?ユリもいるから大丈夫だと思うけど無茶はしないようにね」


「心配し過ぎですよフラウさん、それではユリそろそろ行きましょうか…っよいしょ」


 ミーロは話の間床に置いていた斜めがけのカバンを持ち上げて肩にかけたが少し重そうに見えた。


「ミーロのカバン重そうだね、変わりに持とうか?」


「だ、大丈夫ですよ!自分の荷物ですから、でも確かに少し重たいしこのぐらいの量が入る小容量のマジックカバンぐらいは欲しいんですよね…それでも私じゃ買えないぐらい高い物ですけど…」


 マジックカバンとは恐らくカバンの見た目以上の容量が入るアイテムだろう。ゲーム内にも追加カバンと言うアイテムがあり、所持しているとインベントリの容量が増えるアイテムだった。重要度から大容量の物は課金アイテムだったが、今ユリが肩からかけているカバンが正にそのアイテムだった。そんなアイテムが存在している世界なのであればユリのカバンやインベントリも不審に思われる事は無いだろう。


「それだったら僕のカバンがマジックカバンだから遠慮しなくても良いよ、代わりに持ってあげる」


「そ、そのカバンマジックカバンだったんですか!?…でも咄嗟に取り出せないと困る物もありますしやっぱり自分で持ちますね」


 確かにそうだがレンジャーにとって機動力が下がるのは致命的だ。平和だった時は良かったかも知れないが今の森は敵がいつ襲いかかって来てもおかしくは無い。


「だったらこのカバンを使って、容量は少ないけどミーロの荷物ぐらいなら入ると思うから」


 ユリは自分のカバンの中から可愛らしいデザインの小さなカバンを取り出しミーロに差し出した。


「可愛い…じゃなくて!そんな高価な物借りられません!」


「いや、コレからパーティーを組んで森に入るんだし、ミーロの動きが荷物のせいで鈍ってると危ないからね。お互いの安全のためにも使って」


 すると横からフラウが興味津々と言った顔でカバンを見つめながら口を開いた。


「ユリの言う通りよ、レンジャーにとっては速さが一番の武器になるわ。安全に依頼を進めるためにお言葉に甘えておきなさい。それにしても見たこともないデザインね、装飾も凝ってて素敵だわ…マジックカバンじゃ無かったとしても相当な値段になるわね…」


「そんな事言われたら余計に借りづらいじゃ無いですか!うぅ…壊したりしたらどうしよう…」


 今取り出したカバンはゲーム内ではイベント等で手に入る所持数制限が無い代わりに容量がかなり少ないアイテムだ。限定デザインであるためとってあったが正直実用性は無い上にむしろインベントリを圧迫する困ったアイテムだった。そんな事など知らないミーロは半べそになりながらカバンを受け取り中身を移し替えた。


「お待たせしました、それでは森へ向かいましょうか」


 ユリとミーロは今度そこ調査依頼のため森へ向かったのだった。

 



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