EP.3‐アプル村襲撃後‐
プリズンオーガによる負傷者の治療が一段落したユリとロウの元にアプル村の村長が会いに来ていた。
「お久しぶりですロウ殿、この度は村の危機を救っていただき感謝いたします…」
「ペアー村長、救援が遅れて申し訳ありませんでした。それと今回村を救ったのは私では無くこの者なのです。情けない話ですが私一人ではプリズンオーガは倒せなかったでしょう」
ロウから紹介されてユリは頭を下げた。
「おぉ!村の者が話していたロウ殿と共に負傷者の治療をしてくれたという…そうでしたか、君があのプリズンオーガを…」
「初めましてペアー村長、僕はユリと言います」
するとペアー村長はユリとの距離を詰めて手を握り再度感謝を告げた。
「ユリ殿、このアプル村を救って頂き感謝します…!村の周辺ではゲートの出現は今までほとんど無く平和な村だったのですが、今回はその平和があだとなってしまいました。自衛を疎かにしていた結果ユリ殿が居なければ一方的に村は壊滅していたでしょう…」
「僕は元々行き倒れていた所をロウさんに助けて頂いて、僕をアプル村まで案内してくださったんです。だからお礼ならロウさんに言ってあげてください…」
ユリはペアー村長の最大限の感謝を受けて恥ずかしくなり赤くなった顔を横に少しそらした。
「そうだユリ、君はこれからどうするんだい?行くあてはないのだろう?」
ロウの言う通りなぜ自分がこの姿で異世界に目覚めたのかも分からないユリに目的などあるはずが無かった。
「そう言う事ならひとまず村の宿を手配するので今後の事は村に滞在されながら考えてはどでしょうか?もちろん今回の謝礼も兼ねて宿代も食事もこちらが用意させていただきますので」
今後どうするかを考えるのもそうだが今はとりあえず落ち着ける場所が欲しかったのでユリはペアー村長の申し出を受ける事にした。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「決まったね、それでは私は今回の件を報告しなければならないので一度王都に戻るが、そこでユリにお願いがある。王都から新たな兵士が派遣されてくるまでの間この村の護衛をお願い出来ないだろうか?もちろん依頼料は支払わせて貰うよ」
もちろんこの村で生活をする以上敵が現れた時は戦うつもりでいたが、この世界での通貨を持っておらず当面の資金は手に入れておきたかったため貰えると言うのであれば貰っておくことにした。
「分かりました、ロウさんが王都から戻るまでの間、村の護衛は任せてください」
「期間は恐らく半月以上はかかると思うから銀貨で30枚ほど支払おう。あんな大物が出た後だからしばらくはゲートも安定するだろうが万が一がある。本当に助かるよ」
ロウは袋から銀貨を取り出して10枚ずつ並べてユリに差し出した。まだユリは貨幣価値は分からないがロウが安い額を提示してくるとも思えないので出された額を素直に受け取った。
「申し訳ないロウ殿、村の護衛であれば私がお願いするのが筋であるのに…」
「いえ、これは国の務めです。それに緊急時に護衛を雇うのは国から支給されている予算から支払う事になっているのでお気になさらず」
そしてロウはユリの方に向き直り握手を交わした。
「ではユリ、そろそろ私は行くよ。本当に君が居なければどうなっていたか分からなかった、本当に感謝しているよ」
「いえ、ロウさんが居なければ行く場所も無く行き倒れていました。こちらこそありがとうございました」
そして一通りの話を終えロウを見送った後、ユリはペアー村長の案内でアプル村の宿屋に向かっていた。
「ところでユリ殿は行く当てが無いと言っておりましたが、どこかのギルドに所属してはいないのですか?」
そういえばロウがアプル村にもギルドがあると言っていた、アプル村は平和であったため駆け出しの冒険者が集っているらしい。
「ギルドには所属していませんが収入源も無いので仕事が出来ればとは思っています。そういえば、アプル村のギルドにもギルドマスターは居るんですよね?それらしい方を見かけなかったのですが…」
冒険者ギルドと言えばファンタジーではギルドマスターがギルドごとに存在して、実力者と言うのが相場だ。しかしプリズンオーガが村を襲撃していた時、そして討伐後のけが人の治療をしている時もそれらしい人物は見当たらなかった。
「あぁそれは、村のギルドマスターはポーション調合師なんですよ、村の周辺では良質なポーションの素材が手に入るので王都にある中央ギルドからの要請でポーションの製造を任されているのです。見かけなかったのは回復ポーションの調合を急いでいたからでしょうね」
ポーション調合とは薬草などの素材を用いてポーションを制作するスキルの一種で、タイソレのゲーム内のスキルでもちろんユリも取得しているスキルである。しかしポーション調合スキルは低ランクでは回復ポーションを制作するだけだが、ランクを上げる事で攻撃用のポーションを用いて戦闘をするスキルだ、攻撃ポーションを制作出来るランクであれば高ランクでなくともプリズンオーガ程度は討伐出来るはずなので回復ポーションを作るよりも討伐に出向いた方が良いと思うのだがそれをしないと言う事は低ランクなのだろうか。
「ユリ殿にはこの村のギルドでは不足でしょうが冒険者登録するのであれば宿屋に行く前に冒険者ギルドに案内しましょう」
ユリはペアー村長に連れられて宿屋に向かう前にアプル村の冒険者ギルドへ向かったのだった。