EP.10‐ミーロの母親‐
案内でミーロの自宅へと向かったユリとアクティの二人は家に招き入れられミーロの母親と顔を合わせていた。
「娘から話は聞いておりました。ミリアと申します。この度は私たち母娘を助けて頂いただけでは無くミーロとパーティを組んでいただいているとか…」
ミーロの母親のミリアは束ねた長い髪をひとまとめにした穏やかな雰囲気のある優しそうな女性だ。
「気にしないでください。それにミーロは森に詳しいですから心強かったです」
ミリアは娘のミーロを一目見てから話を続けた。
「この娘は物心が付く頃には私が足を悪くしてこの村に居たので魔物との戦い方を知らないまま私の代わりに冒険者になったんです。なのでゴブリン相手でもお二人が居なかったらどうなっていたか分かりませんでしたから…」
「それこそ気にしなくてもいいにゃ!アタシは森で迷っててゴブリンに絡まれたから全部倒したってだけにゃ!むしろ村まで案内してくれたミーロの方がアタシの恩人にゃ~」
ミリアは再度二人に頭を下げた。
「お二人ともおまたせしました!口に合えば良いんですけど…」
ミリアと話している間にミーロが料理を完成させて机に並べる。
「森で採れる食材で作ったスープとサラダです!フラウさんに分けていただいたお肉も今焼きますから先に食べていてください!」
そう言って台所に戻ったミーロが取り出したのは美味しそうな肉の塊だった。森で獲れる動物の肉だろうか…?
「美味しそうにゃー!いただきますにゃ!」
我慢出来ずにアクティはミーロの料理を食べ始めた。
「ユリさんもどうぞ、あの娘の料理はどれも美味しくて食べると力が湧いてくるんですよ!」
「はい、いただきます」
ユリはスープを一口すすると身体の中から癒されて疲労が抜けていくのを感じた。そこでユリは料理の効果で微量ではあるが体力(HP)が回復しストレス値も下がっている事に気付いた。
「…ミーロは料理が上手なんですね」
「私がこんな足ですから昔から代わりに料理もしてくれていましたから」
薄々感づいてはいたが料理が『スキル』だと言う認識は無いようだ。しかし考えてみれば当たり前でただ必要な材料を集めるだけで料理が完成するゲームとは違い現実であるこの世界では手間と愛情を込めて料理をしているため当人に『スキル』などと言う意識は無いのだろう。しかし当人にその意識が無くても出来上がった料理にはしっかりと『料理』スキルの効果が出ていた。
「お肉が焼き上がりましたよ!どうぞ、オーガ肉の薬草焼きです!」
「オーガ肉!?」
受付嬢が話していたプリズンオーガの素材の使い道から何となく予想はしていたが出てきた肉はプリズンオーガの肉のようだ。
「はい!こんな高級なお肉食べた事無いですけどオーガ肉は少し臭みがあるらしいので森の香辛料と薬草を使って焼いてみました!」
「お肉だにゃ~!いただきますにゃ~!!もぐもぐ…う~ん!少し癖があるけど味付けのおかげでむしろ病みつきになるのにゃ~!ミーロは料理の天才にゃ!」
アクティがミーロの料理を褒めるとミーロは顔を赤くして持っているお盆で顔を隠した。
「そ、そんな事ないですよ!私なんかより宿屋の女将さんとか上手な人はいっぱいいますし…!」
ミーロがアクティに料理の腕を褒められて宿屋の女将を引き合いに出したのを聞いたユリは確かに味と言う面では女将の方が良いかもしれないが、女将の料理にはミーロと違い食事バフや回復効果が無かった事に気付いた。
『料理』スキルとは最初から効果付きの料理を作れる訳では無く、最初は普通の空腹を回復するだけの料理しか作れず、ある程度修練を続けてスキルランクを上げたのちに追加効果のある食材を使う事でバフや回復効果のある料理が作れるようになり、さらに修練をする事でランクを上げる事で効果量や種類が増えていくと言った物だ。
「普通は料理に薬草は使いませんし使っている香辛料も私が森で見つけた名前も無い物ですけど、毒は無いですから安心してください!」
ユリが少し考え込んでいるのが食材に不安を感じていると思ったのかミーロが料理に使った物の事を軽く説明した。植物に詳しいレンジャー職であるミーロが出した料理に毒の心配など微塵もしていなかったが、ミーロの『料理』スキルにバフ効果が付いている理由は何となく分かった。
「確かに使っている香辛料も薬草もアプル村周辺の森でしか見かけない市場には出ない物ですけれど、ずっとミーロの手料理を食べていますが凄く元気になるんですよ」
ミリアの言うようにこの土地特有の物で食材として一般的でないため宿屋などでは使われず節約の為に森で自生している物を採取して使ってきたためミーロの『料理』スキルは修練されていたのだろう。
実際強力なバフ効果を付与するために必要な材料は見た目には料理に入れて良い素材で無い事がほとんどで、現実として食事をするこの世界の人々が『料理』スキルのランクがバフ料理を作る事の出来る前段階で頭打ちになっていても不思議では無い。
「失礼ですが、思ってた以上の料理で驚いただけです。いただきますね」
その後食事を終えテーブルを囲んで話を始め、そこで先ほど用意したミリアの足を治すためのポーションの事を話て取り出した。
「このポーションを飲めばミリアさんの足は今よりは良くなると思います。ミーロにはお世話になりましたし、これからも頼る事があると思うので遠慮なく使ってください」
ミーロとミリアは困惑した顔で机に置かれたポーションの瓶を見た。
「そ、そんな高価なポーションを頂く訳には…」
やはり低レベルのポーションでもこの世界では高価なようだ。
「お金で買った物でも無いですし、薬は必要な人に使うためにあるんですから気にしないで下さい」
「お母さん!ユリのお言葉に甘えようよ!ただで貰って良いようなポーションじゃない事ぐらい分かるけど…恩は少しづつ返していこう!そうじゃなきゃ次こんな機会があるか分からないよ!」
ミリアはミーロの言葉を聞くと少し躊躇しながら机のポーションを手に取った。
「分かりました…いただきます」
ミリアはポーションの蓋を外すと一気に飲み干した。その後ミリアは足を気にしている様子だったが足で床をトントンと鳴らした。
「足の具合はどうですか?」
ユリが聞くとミリアはゆっくりと椅子から立ち上がった。
「動きます…足に力が入ります!」
「お母さん!!…よかった…!」
ミーロが自分の力で立ち上がったミリアに涙目で抱き着いた。ミーロの物心が付く頃から悪かった母親の足が良くなったのだから無理もない。
「ひとまず効いてよかったです。ただ完治させる程の効果は無いと思いますが…どうですか?」
ミリアはユリの言葉を聞くと立ち上がり部屋の中を少しの間歩き回った。
「…確かに冒険者だった頃のようにはいきませんけど、日常生活に問題は無さそうですし、ミーロに頼ってばかりだった冒険者の依頼も少しなら受けられそうです」
ここまではユリの想定通りだったが、ミーロの『料理』スキルの才能なら材料とスキルの知識さえあればミリアの足を完治させる事も出来るだろう。
「…ミーロ、ちょっと話は変わるんだけど『料理』スキルって聞いた事ある?」
突然のユリの質問にミーロはきょとんとした顔をした。
「え…料理のスキルですか…?聞いた事が無いですね…」
「私も料理がスキルだなんて話は聞いた事は無いです」
アプル村でずっと生活していたミーロだけならまだしも、元冒険者であるミリアも知らないとなると少なくともこの国で『料理』スキルはやはり知られていないようだ。
「実は僕がこの国に来る前に居た場所では『料理』は食事を作る事とは別に、料理にポーションのような効果を付けられる『スキル』でもあるんだ」
「…確かにミーロが作ってくれる料理はやけに気分が落ち着いたり、体力が付く気がしてましたけど…ユリさんの言うスキルが関係しているのですか?」
察しの良いミリアはユリが急に『料理』スキルの話をしだしだ事とミーロの料理に関係がある事に気が付いたようだ。
「はい、ミーロの料理は恐らくスキルによる効果が付いていると思います。けど僕の知るそう言った効果のある料理は食材に使わないような素材を使ったゲテモノだったので美味しく食べられるものでは無いんですけどね」
「でもミーロのご飯は美味しかったにゃ~?」
ユリ記憶の中にある回復効果のある料理やバフ効果のある『料理』はアイテムのアイコンが到底食べられるものでは無い見た目をしていたが、アクティの言うようにミーロの『料理』は美味しく食べられた上に効果量は少ないが美味しく食べる事が出来た。
「多分だけどミーロは森の特殊な植生の食材を使って料理をしていたからスキルの修練になっていたんじゃないかな?」
アプル村の周辺の森はミリアも言っていたように他の地域よりも薬草が採れて、ユリも知らないこの世界固有の植物が多数存在しているらしい。その特殊な植生はゲートの発生とも関係があるかも知れない。なんにせよこの事がミーロの『料理』に関係しているのは間違いないだろう。
そしてそこまでユリの話を聞いていた当事者のミーロは立ち上がると少し強張った顔で口を開いた。
「私にそんなスキルがあったなんて信じられませんけど…ユリの言う事なら信じます…!あの…その『料理』スキルはさっきお母さんに使ったポーションのような効果も付けられるんですか…?」
ユリの思った通りミーロはミリアの足を完全に治す事が出来る『料理』が作れるのかが気になったようだ。
「勿論作れるけどミリアさんの足を完全に治すってなると使う材料が手にはるか分からないし…それになにより…」
ユリはそこまで言って言葉を詰まらせる。深刻な顔をするユリの顔にその場の全員に緊張が走る。
「さっきも言ったように多分ゲテモノ料理になると思うから食べるのには相当覚悟がいるよ…!」
それを聞いたミーロはきょとんとした顔をした後にケラケラと笑い出した。
「なら私が何とか食べられるように工夫して作らなきゃですね!」
「ミーロならきっとどんな料理でも美味しく作れるにゃ~!」
せっかくの料理が美味しく食べられない事などユリにとっては一大事なのだが、未知のスキルから作られる料理にどんな制約があるのかと思っていたミーロは安堵した様子だ。
「それで…ユリは必要な材料が何か分かってるんですか…?」
「うーん…僕が知っているレシピだとスタミナが回復する料理にエナジービートルの幼虫を加えるんだけど、この辺りで聞いた事はある?」
エナジービートルとは防具の素材となるレア素材の一種で、その幼虫はポーションなどの材料となる虫の素材だ。この世界の動植物の生態系がゲートの影響を受けているのであればモンスターだけでは無く様々な素材類もこの世界にあると思われた。
「エナジービートルですか、確か腕の良い鍛冶師で無いと加工が出来ないと言われている素材の虫がそんな名前だったような…」
元冒険者であるミリアは聞いた事があるようだ。『鍛冶師』スキルはランクによって扱える素材が増えていき、作成する物に対して『鍛冶師』スキルが低いと失敗して素材が消滅すると言った物で、確かにミリアの言うようにエナジービートルを素材として使用出来る『鍛冶師』ランクは比較的高めだ。
「でもどこで入手が出来るのかは分からないですね…」
「ならギルドで聞いてみましょう!素材の事ならプロに聞くのが一番ですよ!」
ミーロの提案に一同は同意し、ひとまずこの場は解散する事になり、ユリとアクティは宿に戻ったのだった。




