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EP.1‐目覚め‐

挿絵(By みてみん)


 深い暗闇の中で漂う事しか出来ない僕はいつしか何も考えられなくなっていた。僕はただ眠っているだけなのか、それともこれが死後の世界なのか、何故こんな暗闇に居るのか、そして僕は誰なのか、何も分からなくなっていた。


 どれだけの時間が経ったのかも分からないが、突然まぶた越しに強烈な光を感じて目を開けた。暗闇に慣らされた目には痛みすらも感じたが、僕は光の方向へ無我夢中で体を動かした。まるで夢の中で体が重く進めない時のようだったが構わず足搔き続けた。



 なにやら美味しそうな匂いに鼻をくすぐられて目を覚ました。まず目に入ったのは風に揺られる木の枝だった、そして匂いの方向を見ると紺色の髪の青年が焚火に吊り下げた小さな鍋に向かっていた。その服装はファンタジーに出てくる騎士のような恰好をしている。


「あ、あのー…」


 青年に声をかけた瞬間に強烈な違和感に襲われた。男だったはずの自分の口から発せられたのは可愛らしい女の子の声だった。突然の事に気が付いていなかったが、慌てて自分の身体を調べると、あるはずの無いものがあり、あるはずのモノが無くなっていた。


「やあ、ようやく目を覚ましたね、気分はどうだい?」


「えっと…」


 突然の事の連続に戸惑っていると青年が何かを察したように話し出した。


「おっとすまない、私はプラン王国に仕えている騎士のロウと言うんだ、よろしくね。アプル村の村長に書状を届ける道中で君が倒れていたんだ、こう見えても専門はヒーラーでね、未熟ながらミドルキュアで治療はさせてもらったよ」


 既に知らない単語ばかり出てきて混乱していたがミドルキュアと言う単語には聞き覚えがあった。


「ところで君の名前と出身は?任務を終わらせてからになるけど送らせてもらうよ」


「出身は日本…?僕の名前は…」


 名前は何だ…?自分が恐らく男だった事は覚えている。日本に住んでごく普通の生活を送っていたはずだ、毎日の日課は好きなゲームをプレイする事…


「ユリ…です」


 思い出した、ミドルキュアと言うのはゲーム内の回復魔法でこの身体は自分がやっているゲームの『Timeless Solace』通称タイソレというMMORPGの自分のキャラクターだ。そしてよく見ると服装も最終ログインの時のままだった。


「名前がユリで出身はニホンだね…どこかで聞いたことある気がするけどこの辺りの地名では無いね、どおりで珍しい服装をしてると思ったよ。まぁ詮索はしない、とりあえず食事にしようか、味は補償出来ないけどこれでも野営で食事を作るのは慣れているんだ」


「…いただきます」


 ユリは状況が把握できずにいたが匂いに誘われて起きただけに空腹なのは間違いなかった。ユリの返事を聞いたロウは器にスープをよそうとユリに差し出した。


「どうぞ、ただの野菜のスープだけどね」


 ユリが口にスープを流し込むとしっかりと味の付いていて具材も食べたことは無いが違和感も無く食べられた。その時頭の中に見覚えのあるステータス画面のような物が浮かびその中にある空腹ゲージが回復していくのが分かった。


「頭の中にステータス画面が出てきた…やっぱりゲームのキャラになってるんだ…」


「ん?口に合わなかったかな?」


 神妙な面持ちで独り言を言っていると料理が口に合わなかったと思ったのか心配そうに聞いて来た。


「いえ、美味しいです。空腹ゲージも全快しましたし…」


「ゲージ…?ま、まぁ口に合ったようなら良かったよ」


 その後しばらく他愛もない話をしながら食事を続けながら、頭に浮かんだステータス画面を出せないか試してみた。するとゲーム画面と同じようにタブを開いてステータス画面はもちろんスキル画面やアイテム欄を開ける事も分かった。特にアイテム欄にはゲーム内で手に入れたアイテム類が残っていてそれを感覚的に手元に取り出せそうだった。


「ごちそうさまでした、とても美味しかったです」


「どういたしまして、それだけ食欲もあれば大丈夫かな。さて、片付けたらアプル村に向かうけど行く当てが無いなら一緒に行くかい?」


 ひとまず自身に起こっている状況は理解した、目の前にいるロウも国や村の名前も知っているゲームでは無かった、何より五感がゲームでは無く現実である事を証明している。とりあえずユリはアプル村と言う所へ行き今後の方針を決める事にした。


「お願いします」


「分かった、なら火の始末をしてしまうからユリはもう少し休んでて」


 ロウが火の始末をしている間、ユリは木を背もたれにして休んでいたが急に集中力が途切れるような感覚がしてきた、この症状に身に覚えがあったユリはユテータス画面を確認してみる。


「やっぱりストレス値が下がってる…」


 ストレス値とは一定値下がると魔法などを使用する時に消費する魔力の最大値が減少するものだ。ストレス値を回復するアイテムは複数あるが手ごろなものをアイテム欄から取り出してみる事にした。


「怪しまないようにポケットから出した感じで…よし!」


 ユリはポケットから煙草を取り出す。煙草はゲーム内でストレス値を回復する時に使用する一般アイテムで複数種類があるものだった。


「ライターまで付いてくるのか、フィルムまで巻いてあるし…元のゲームとは似てるようで大分リアル寄りになってるんだな…」


 ユリはフィルムをはがして煙草を取り出し一本加えると火をつけて吸ってみた。


「スゥ… ふぅぅ…」


 旨い、ゲーム内アイテムの煙草がどんな味か不安だったが非常に落ち着く。再度ステータス画面を確認するとストレス値は回復して魔力の最大値の減少も無くなっていた。


「よし、片付け終わり。ってユリ、それは何を吸ってるんだい?」


「あ、ごめんなさい、ちょっと煙草を吸ってました」


「煙草なんて高級品を持ってるんだね、私も頂き物で吸った事はあるけど、とても私には合わなかったな…」


 こんな煙草が高級品だとは思わなかった、ストレス値を回復するためとは言え軽率だったかも知れない。


「あはは、ハマっちゃいまして…ロウさんもどうですか?」


 ユリは煙草を一本出してロウに差し出した。ロウはどうしようか一瞬考えたようだったが素直に一本取った。


「折角だしいただこうかな」


 煙草を加えたロウにユリはライターの火をつけて近づき煙草に火をつけた。


「フゥー…ん!?何だいこの煙草!?美味しい上に心が安らぐ…以前の貰い物と比べるまでも無い。それにその火を付ける道具、魔道具の一種かな?小さな火を生み出すだけの魔道具なんて初めてみたよ」


「ま、まぁ僕の故郷の代物って事で…」


 二人は煙草を吸い終え、吸い殻を片付けるとロウが乗って来たであろう馬の方へ向かった。


「それじゃあユリ、アプル村に向かうけど馬には乗れるかい?私の後ろに乗ってほしいのだけれど…無理そうなら村までもうそんなに遠くは無いし歩いて行っても大丈夫だよ」


 ユリは乗馬スキルはもちろん共命と言う動物や召喚獣と心を通わせてお互いのステータスを上昇させるスキルも高ランクだ。もちろんリアルでの乗馬の記憶など一切無いがロウの馬と目が合った時から乗馬も問題無いと確信出来た。


「乗馬なら大丈夫です。それにしてもこの子とても良い馬ですね」


 ロウの馬は筋肉の付き方も大きさも毛並みさえも素人目でも素晴らしいと思える程だった。そしてユリが再度馬の方に目をやると馬がユリに近づいてきて顔をすり寄せてきた。


「驚いたな…グリフは気性が荒くて滅多に甘えたりしないんだが…」


「グリフって言うのか、よろしくねグリフ」


 ユリがグリフの顔を撫でると頭を下げて背中に乗る様に催促してきた。


「相当グリフはユリが気に入ったんだね、そうだ、乗馬経験があるならユリが手綱を握ってくれないか?グリフがここまで懐くユリの乗馬の腕も気になるし、何より今手綱が私だとグリフが拗ねてしまいそうだからね」


「分かりました、グリフお願い出来る?」


 ユリがそう言うとグリフは嬉しそうにひと鳴きしてユリが乗りやすい位置に体を移動させた。そのままユリは慣れた動作でグリフの背中に乗った。


「まるで言葉が通じているようだね、よっと」


 グリフの背中にユリが乗った後に続いてその後ろにロウが乗った。


「ではそこの道を進んだ先がアプル村だからお願いするよ」


 グリフの背中から先を見ると馬車が2台通れるほどの舗装のされていない土の道があった。


「じゃあ出発しますからロウさんはしっかり僕の腰に手を回しておいて下さい」


 ユリの中では男同士なので何も考えず発した言葉だったが、見た目が美少女でもちろん中身も女性だと疑っていないロウは少し戸惑った。


「い、いや、私は普段から手離しでも乗馬出来るようにしているから気にしなくて大丈夫だよ…」


 しかしユリはロウにもたれ掛かり体を反るとロウの腕を自分の腰に回させた。


「それだとロウさんが余計に疲れちゃいますよ、遠慮なく僕につかまってて下さい」


 ロウは細く柔らかなユリの腰に内心緊張しながら腕を回しているが、そんなロウをよそにユリは中身が男なのでロウに触られている事などもちろん気にしていなかった。


「それじゃあグリフ、アプル村までお願いね」


 ユリが手綱を振るとまるでゲームでキャラを操作するようにグリフを操る事が出来た。そしてそのままアプル村のある方向へ速度を上げて向かったのだった。


★ユリの容姿アバター

・髪 腰より長めの黒髪ロングストレート

・顔 つり目寄りのオレンジの瞳

・服装上半身 シャツにぶかぶかのパーカー

・服装下半身 短めのスカート

・足 白靴下に黄色のハイカットスニーカー

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