63 : Day Dreams : Yoyogi-koen
♪
ミゴミゴ島が ありまして
ミゴミゴ仲間が いるんです
じゃがバタ ブッころ ポツリ
ときどき アンチぶって ファン
「よっ、じゃがバタだぞ!」
顔面はサル、身体はネコの着ぐるみ。
声の出演・リョージ。
「ハーイ、ブッころよ?」
顔面はヘビ、身体はペンギンの着ぐるみ。
声の出演・マフユ。
「やあ、ポツリなのだ」
顔面はウシ、身体はネズミの着ぐるみ。
声の出演・ケート。
「元気か、アミーゴ!」
いつも元気なじゃがバタが言った。
ミゴミゴ島のあいさつは、アミーゴだ。
「きょうもうまそうな名前だな、じゃがバタ。食ったろか?」
ブッころはいつも腹を空かせている。
一応女子という設定だが、だれも意識はしていない。
「これでも食ったらどうだ? ハラ壊しても知らんがな」
皮肉な物言いが特徴のウシネズミ。
ポツリが自前の牛車を引いて、なにかを運んできた。
「さっきから腐臭がすると思ったら、ポツリかよ」
「なんでも腐りかけがうめえんだよ。どうしたんだ、それ」
「海岸に流れ着いていたから拾ってきた。シロクマという生き物で、寒いところに生息しているらしい」
ふだんのミゴミゴ島にはありえない生物。
特異な闖入者から、きょうの物語ははじまった。
……それは、どうやら死にかけのアクマダモン、あるいはその抜け殻だった。
よだれを垂らすブッころ。
「味はともかく食いではありそうだな」
いまにも襲いかかりそうなブッころを、
「待て待て。毒があるかもしれんぞ」
慎重に制するじゃがバタ。
「てか、いま動いたぞこれ。生きてやがる」
後退るポツリ。
「ちょうどいいじゃねえか。イキがいいほうがウマい」
「暴れられるとやっかいだ。縛っておこうぜ」
「正体がわからんからな、ともかくゾーボクじいさんのところに運んで訊いてみよう」
アクマダモンを縄でぐるぐる巻きにするじゃがバタ。
ポツリが牛車を引いて画面からフェードアウト。
横から飛び出してきた奇妙な犬らしきものが歌う。
「荒縄、ぐるぐる、トドメは鈍器でしょ~♪」
顔面が3本のダンシングフラワー、身体がイヌの置物。
声の出演・サアヤ。
大木を中心に、前シーンから引きつづき3キャラがフェードイン。
ゴツゴツした幹には顔面があって、ぎょろり、と目を見開く。
「なんじゃ、おまえらか。ここへは二度とくるなと言っておいたじゃろう」
口元だけネコで、ヒゲを生やした大木(品種不明)。
声の出演・チューヤ。
「なんだと、じじい。薪にするぞ」
いつも戦闘的なブッころ。
「樹齢3歳のくせに偉そうだぞ」
冷たいポツリ。
「え、俺3歳なの!? じゃあ、じいさんとか呼ぶなよ!」
我に返る老木っぽい3歳。
「てめえ、あたしがだれかわかって、そういうナマなクチきいてんだろうな!?」
「ひぃい……どこのヤクザだよ……」
「ブッころスよ?」
「怖いんだよ、ブッころ! スやめろス!」
「なんでだよ。体育会系の部活じゃ、スは必スだろ」
「うまくねえよ! ……そろそろまとめろよ、じゃがバタ!」
「ああ、なんかおまえら、仲良くやってっから、いーかなと。……でさ、ポツリが拾ってきた、この白いやつ。食っても平気かな?」
じゃがバタが、刃物をシャキンシャキンやりながら調理のタイミングをうかがっている。
瀕死の「白いやつ」が断末魔の訴えをしているが、無視する雑木。
「知らねーよ。とりあえず、そこのヘビペンギンに食わせてみたらいいだろ。できれば即死する程度の毒だとありがたいな」
「ああ!? 燃されてーのか、おい、ゾーボク!」
「ひいぃい……植物をたいせつにしろよ!」
「荒ぶる、女が、素朴にどんど焼き~♪」
場面転換に合わせて躍り出る犬が、楽しげに歌う。
ゾーボクの根元に枯れ木と枯れ葉を寄せ集め、ブッころがマッチで火をつけようとしている。
大騒ぎするゾーボク、無視するポツリ。
不意に曇り空を見上げたじゃがバタがつぶやく。
「お、郵便配達のオジョーナさんだ」
かなり高空のように見えるが、じつはサイズが小さいだけで、それなりの低空を飛んでいるカモメのオジョーナさん。
「さあ、受け取るがよろしいわ、愚民ども! ほーっほっほ」
尻に殻をつけた雛なのに、いつもやけに大量の荷物を運んでくる金髪の郵便配達夫。
声の出演・ヒナノ。
バラバラと降ってくる手紙と荷物。
何個かはキャッチするが、何個かは落下して地面にめりこんでいる。
ゾーボクにも、すでに何本かのノコギリやナイフが突き刺さっている。
毎回、この急降下爆撃による被害で息も絶え絶えになるが、かなり「狙った感」があるのは気のせいだろう、とゾーボクは信じるようにしている。
「ゴルァ、テキトーな仕事すんじゃねえぞ、メンドリ、焼き鳥にされてーのか! ちゃんと降りてきて渡せって言ってんだろ! 毎度毎度、割れた卵食うのたいへんなんだぞ!」
地団太を踏んで絶叫するブッころ。
「いろいろと突っ込みどころ満載だが、よくあの小さな翼面積で、これだけの荷物を運べるものだと感心はする」
ゾーボクの下に避難しているポツリ。
「そこかよ!?」
冷凍食品を回収しながら突っ込む、慣れて冷静なじゃがバタ。
空では、ひとしきり荷物を落として満足したらしいオジョーナさんが、翼を翻して去ろうとしている。
やおら木陰から出てきたポツリは、
「ともかく島外の事情を聴きたい。……撃ち落とせ、じゃがバタ」
「ドン・ファン!」
じゃがバタはジャンプし、胸の部分を大きく広げる。
サルだけに豊かなギャランドゥがあふれ出す。
その男性ホルモンビーム直撃を受けた、ヒナドリの郵便屋さんが落ちてくる。
「あーれー」
「キャッチ!」
「なにをなさるの、ひどいじゃありませんか」
キャッチしてくれたじゃがバタに、頬を染めて苦情を申すオジョーナさん。
「ひな鳥のくせに色気づくんじゃない」
「てめえ、つぎあたしの卵割ったら、塩ふって食ってやっかんな」
吐き捨てるポツリに、本気のブッころ。
「黙ってろ蛇ペン。──それで、島の外はどうなっている?」
画面の外を指さし、オジョーナさんに問うポツリ。
郵便配達夫は、料理人の胸に顔を埋めつつ憮然として、
「もちろん渋谷ですわ。放送センターですもの」
「すたじおパーキングからこんにちは! って、そういう話じゃねえよ! この変な妄想世界は、こいつのせいか?」
引っ立てられるアクマダモン。
いまにも首を切り落としそうな勢いのブッころに、ブルブルとふるえあがって首を振るアクマダモン。
そこへ、ふらりと歩いてくる、顔面から3本の花を生やしたイヌ。
「いやいや、これこれ、サアヤさんの夢でしょー♪」
その名もケルベロガールズは、サアヤらしい昭和のイマジネーションで歌った。
一同の視線が、イヌに集まる。
場面転換のたびにうるせえな、と思っていた程度のわき役が、まさか真犯人だったとは。
いや冷静に考えれば、たしかにこの昭和テイストはサアヤに特有だ。
番組タイトル・肉骨粉。
東京の彼方にあるミゴミゴ島を舞台に、じゃがバタ、ブッころ、ポツリが、ともに泣き笑い、冒険する、幽鬼と魔獣あふれる物語。
昭和末期を飾った偉大な人形劇である。
「なんて悪夢だよ……」
額に手を当て、天を仰ぐじゃがバタ。
「てめえサアヤ! 俺をこんな姿にして、ふざけてんの!?」
地団太を踏もうにも踏めないゾーボク。
「いいじゃん、チューヤにぴったりじゃん。脳内年齢、樹齢3年半の雑木おじさん」
「ゾーボクおじさんてなんだよ!? だいたい生後3年半でおじさんて!」
「ボクにも言わせろ。ポツリってなんだ。まるで友達がいないみたいじゃないか」
「いるの?」
「くっ……殴りたい……」
「ははは、たしかに友達いなそうだよな」
「きさまに言われたくないわ」
「じゃがバタとか、うまそうな名前だな。つぎつくれ、リョージ」
「いいけど……てか、サアヤの夢はいいとして、なんでオレたちが、それに巻き込まれてるんだ?」
「夢ならしょうがないだろ。なんでもありだ」
「じゃがバタ、ブッころ、ポーツリー♪」
なぜか脳裏にこびりつくメロディ。
ともかくこれは夢だ。強い酒が見せている夢なんだ、と自分に言い聞かせる雑木チューヤ。
「目ェ覚ませ、サアヤ! おまえの変な夢に、俺たちを巻き込むんじゃない!」
「だまれゾーボク」
しゃーっ、と木の根元に小便を垂れるケルベロ。
「ちょ! キッタネ! サアヤさん女子でしょ一応! 立ちションとか事務所NGじゃないの!?」
「イヌになったら一度はやってみたいこと2位だろ、電柱放尿は」
なにしろボディがイヌなので違和感も羞恥心もない。
「やーい、ションベンかぶり、きったねー」
「ゾーボク、エンガチョ!」
「バイキン、エーンガチョ!」
はやし立てるじゃがバタ、ブッころ、ポツリ。
号泣するゾーボク。
「うわーん。身動きとれない3歳児いじめるとか、ひどいよぉー」
「バカバカしい。それでは、わたくしはこれで」
飛び去ろうとするオジョーナさん。
その尻尾の殻をつかんで地面にはたきつけるアクマダモン。
びたーん、と平らになるオジョーナさん。
「な、なにをなさるの!? 訴えますよ!」
金切り声を張り上げるオジョーナさん。
唯一、レギュラーキャラではないアクマダモンは、周囲に集めた6人のメンバーを順に見わたし、最後にゾーボクを見つめた。
「目を突くのじゃ」
「目?」
「覚ましたいならな」
群がる5キャラ。
ゾーボクの眼球はつぶされようとしている。
「いててて! ちょっと、身動きとれないからって、俺をいたぶりすぎでしょ!」
「覚めませんね」
「昔から、よく言うじゃろう。1度でダメなら」
「なるほど」
「よ、よせ、バカ、オジョーナさん、ゆるして!」
郵便配達オジョーナさん夫人は、2度目のベルを鳴らした──。




