ガチンガ・ボヌス
バラム・ロンゾはその白塗りの笑顔を崩さないまま、しかし、場に緊張感の走る声色で叫んだ。
「ガチンガ!!!何をしているのです!!貴方の役目ですよ!」
呼ばれてセンチネンクルスの一段から1人が高速で射出されたように躍り出た。
「ガチンガ・ボヌス!!!」
なんだこいつは。と言う面をして固まるヴォルフを尻目に岩鉄斎が音を置き去りにして踏み込んでいた。
「岩鉄拳!」
「虎走躍爪!」
「土 竜 激 突 甲 !!」
瞬く間に正拳突き、懐への低姿勢・半身の、踏み込んでの掌底による突き上げ。
しかしそれだけでは止まらない。
まるで爆撃により地面が吹き飛んだのかのような土煙を上げながらおこなわれたその突き上げは、拳の形状が虎拳でよく見られる五指全てを第一関節から立てるものであったのが機能したのか、
猛烈な一撃は裂撃となってガチンガ・ボヌスの上体を反らし、更に、纏っていたマントを吹き飛ばした。
すでに両腕を下腕で合わせる形で防御姿勢を取っていたガチンガ・ボヌスであったが、
反らされた上体腹部に向かって
頭突きと肩背面部、膝蹴りを合わさった攻撃
【土竜激突甲】が炸裂した。
「アイツ!!」
遅れて反応したヴォルフが驚いていたのはあの速さの岩鉄斎の一撃目をほぼノーダメージで受け切ったガチンガの硬さではなく。
その外見だった。
マントが剥がれ、露わになったその姿はまさにゴーレムといった様相を呈した人型の岩石巨兵であった。
「…」
岩鉄斎は別に驚いた様子もなくそのまま技を出し切ってガチンガを吹き飛ばす。
闘技場の反対側にある内壁面まで吹き飛ばされたガチンガであったが、
「ガチンガ…!」
壁面を崩して大の字で寝ている状態から胸部からまるで釣り上げられるかのような不自然な挙動で起き上がる。
痒いぞ?といった仕草で胸元を払ったガチンガは、
更に首を文字通りゴキリ、バキリと鳴らし、
「ガチンガァアアアアアア!!!!!」
その巨体に見合わぬ異常な速さで肩口から突進してきた。
「はゃ…!!?」
ヴォルフが速い!と言い切る前に岩鉄斎とガチンガが接触する。
「甘いわ…!!!」
ズン…!!!!
一種で押し潰されたかのように見えた岩鉄斎であったが、土煙が落ち着くに見えてきたその姿は驚くべきものであった。
「至天・三天到律」
岩鉄斎は目を閉じて左手で印を作り、
右手では人差し指、中指、親指の三つのみを前に伸ばし、右腕のみでガチンガの巨体を静止させていたのだ。
「ガ…チンガァ…アアアアアア!!!!」
岩の巨体が力んだ音だろうか、
ゴゴゴ、と音がしてガチンガが叫ぶと明らかに圧力が上がって岩鉄斎を押し切ろうとしていることがわかる。
「愚かな…」
「見せてやろうお前の未来を。」
そう言った岩鉄斎は目をカッと見開く。
「ガ…ッ!?」
ガチンガは1ミリも動けないその状態で後方に、
まるで時空の歪み、いや、星々を吸い込むブラックホールの如き空間が出来上がっているのを感じた。
「ほう…やはりわかるか貴様の終着点が。」
「然様天・超坐戴禅屈」
「アレ、は、お前が敗北し到達する敗者の居場所だ。」
目にあたるであろう光が出ている、二つの穴が、
恐怖によるものであろうか…
明滅している。
「さあ、終いぞ…」
「ガァァア!!!」
「理 力 天 ・
高 峰 戒 却 全 天 !!!」
口上と共に、岩鉄斎は印を解き、
左手を右手と同じ高さで、同じように三本の指で。
右足を前に踏み出したと同時に前に突き出す。、
その瞬間、空間が岩鉄斎の全身から放たれた闘気によって岩鉄斎の方向以外の全てから押し込む。
押し込まれたガチンガは前方向に押し出されるはずだが、
岩鉄斎の技によって前にも進めない。
「圧力で押しつぶすつもりか!?」
バラム・ロンゾが慟哭する。
「押しつぶすなどとそのような惨い真似はせぬ」
「ハァァー…!!!」
すでに両腕での支えはなくなっているはずだが捻じ曲がった空間にかかった圧力そのものが闘気による押し込みと釣り合いをとらせている。
その隙に、両拳を腰貯めに呼吸を整えた岩鉄斎は、
「墳ッ!!!!」
両拳を前に突き出し、捻じ曲がった空間を叩き割った!!
バツン!!
何がが弾けたような爆音と共に
後方の特殊な長方形の力場へと岩石の巨体は
"亜音速で"吹き飛ばされ、
「ガチンガ…!!……ボヌス。」
自身の名を呟いて、ガチンガ・ボヌスは倒れ伏した。
「さて、どうする…次は貴様らぞ」
明滅し、光を失ったその両眼を見て、
口だけは笑ったまま、
目は禍々しい狂気の眼差しで、
バラム・ロンゾはその恐ろしい白塗りの顔で叫んだ。
「なんと!!!!!」
「面汚しも良いところですよ!!ガチンガ!!!」
「…。」
そう言って少し黙ると。
ニィ
と口元を更に大きく歪めてバラム・ロンゾが前へ出る。
「良いだろう、下等種族ども!!!」
「そんなに死にたいなら見せてやるぞ!!」
「超越異能生命体の中でも、特にこのオレだけが持つ権能技術の極致を!!」
「恐ろしさを!!!!」
割と小柄に見えたバラム・ロンゾはそのローブを投げ捨てると、
細長いように見えてしっかりとしたその筋骨隆々の四肢と、
何に使うかもわからない無数の動画縫い付けられたマントを左右に広げながら上空へ飛んだ。
「踊り狂って死ぬが良い!!」
「この深淵道化、」
「バラム・ロンゾの手によって!!」
ヴォルフは目を見開き戦闘体制を取る。
「ヤバイぜ!周囲が覆われていく!!」
それを見てマリヤが2人に言う。
「…私が脱出経路を用意するわ。それまで時間稼ぎを。」
「…ぬぅ、お主は我らの力を甘く見ておるな。」
「でも、彼も危険を感じ取っているはず。」
「…そう見えているそうだぞ、小僧。」
「ちげーよバカ。」
ヴォルフは肩越しにマリヤのことを見ながら言う
「このままじゃ…
アイツらに、逃げられちまう
って話だぜ!!!」
「アイツはオレがやる!」
ヴォルフは2人から向き直り、
バラム・ロンゾへ駆け出した。




