ラングドン・ニール・セールリストン
ラングドン・ニール・セールリストンは臆病な男だった。
とりわけ運動が得意というわけでわけではないが、ぬっと存在感のある大きな体を持ち、
精悍な顔立ちな割に、卑屈そうな眼差しで佇んでいるため好印象を持たれることもない。
そんな彼が得意なのは計算術とソレを活かした測量・軽量からなにか物事を興すことであった。
幸い彼はラングドン王国の第二皇子であり、早々に皇位継承権を長兄であるディランを推薦することで辞退できたため、国の政において、治水事業や都市計画の実行者であったり、嵐や飢饉、隣国との争いなどにおける行政の円滑な動きを助ける働きをし。
それを天職と考えて充実した生活を送っていたのだ。
だが、異世界からの侵攻が始まり全てが狂う。
化け物に国を追われた難民たちが周辺の侵攻を受けていない国へと流れることで諍いが起き、
ただでさえ、正体不明の化け物によっていくつもの国が崩壊していく中で、生存圏の奪い合いによる戦争まで始まってしまった。
隣国との関係性、化け物に対する対処、異世界からの影響による気候変動や異常事態。
彼は、激務に追われ、それでもなお、懸命に働いたが、ついに責任を問われて他の王族により裁判を起こされてしまっていた。
「なんでこんなことに…私はただ仕事をしていられればよかったのに…!」
妻子をもたない彼にとって関係がある女性は家族を除けば3人しかいない。
幼馴染のルアン・ディビィアン。
諸侯貴族の才女、ルルラーナ・トリミトン。
まだ皇位継承権をを持っていた時の
許嫁、リズベル・ラディントン。
どの女性も人生で彼が会話したことのある女性であり、友人以上の関係を作れた人たちだ。
仕事人間であった彼は仕事の延長線上にあるような形で、王族の義務的に彼女らを誘って食事をしたりしたことはあるが、何の気なしに、自分から誘ったりしたことはない
「本当は恥ずかしかっただけなんだ…」
様々な恐怖から逃げるように、1人夜、寝室にいた彼は、後悔と苦しみを呟いた。
すると、
『…せよ』
「(なんだ…?)」
『真なる勇者、受胎せよ』
『其は父となり、悪に滅びをもたらす者』
「なんだ!?」
起きるとそこには3人の女性がいた。
左からリズベル、ルアン、ルルアーナである。
虚な目をした彼女たちは、声が止むと意識を取り戻してたかのようにハッとしていた。
「ニール様…!」
「ニール?」
「ニールさん。」
「き、君たち…!?なぜここに…??」
その驚きと裏腹に、右手が光り、彼女らと光のオーラが繋がる。
「ぐっ…!?」
自らの右手から何やら力強い何かエネルギーのようなものが飛び出して、3人の女性へと取り込まれた。
『これが神託。その子らを護るのが、ラングドン・ニール・セールリストン、貴様の使命だ』
「あ、貴方は誰なのです…!?」
『それを知る必要はない。ただ、迫り来る世界の脅威はお前が取り除くことができる、と、それだけを考えよ』
「(か、神…なのか?!)」
ニールは空を仰ぐようにしながら、その言葉を受け取り、
改めて状況を確認した。
「「「…♡」」」
よく見ると、自分のよく知る女性たちは何やらソワソワしている。
「き、君たち…?」
「よ、よくわかりませんが、私は…♡」
「ん…♡…寝室に来なさい、ニール」
「今こそ王侯貴族の女傑、その本領魅せますわ…♡」
ニールは、一度に3人の子を認めることとなった。
〜・〜・〜・〜・〜
ラングドン王国は揺れた。
とっくに王位継承権を譲った第二皇子がいきなり3人もの女性を娶り、子まで成したからだ。
『裁判から逃れるつもりだ!』
『王でもないのに…穢らわしい…!』
『奴は王位継承権を放棄して、油断させ国を獲るつもりなのでは…?』
巷では、悪名が轟いていたが4人にはあまり関係がなかった。
「この子の名前は、パルラがいいわ」
「ルアン」
ルアンはディビアン家に伝わる退魔の英雄パルラ・ディビアン公の名をもらうことを提案した。
「ディビアン家は王族ではないし、戦地からも遠い地方を治めている。そこに君も逃げなさい」
「答えはNOよ…と言いたいところだけど。この子のためだし仕方ないわね。」
「代々、私の家に使えるメウ家にこの子を隠し、育てるようにするわ。」
それに続き、リズベルが答える。
「私はどんな形であれ、王族の血が入ったことを一族は歓迎しておりました。よって、ラディントン本家の子として育てます。」
さらに、ルルアーナが続ける。
「私も同じでしてよ。」
「そもそも、私の選んだ殿方に文句は付けさせませんわ?私もトリミトン家で育てます。」
彼女らは見た目の可憐さと裏腹に、随分と肝の座った性格をしていた。
「君たち…申し訳ない!!」
ニールは深々と頭を下げた。
「突然、こんなことに巻き込んでしまった…!」
「いえ、構いませんわ。」
「そうね、別に何も変わらないわ」
「ええ、私もそう思います…」
3人は心から状況を悔やんではいないという感じであった。
「それとも…」
「「「私たちに文句があるの?(あるんですの?)(ありますか?)」」」
その感じに気押されるニール。
しかし、やらなければならないことは山積みだが、決して、諦めるわけにはいかない。
そう改めて彼女らの眼差しを受け止め、覚悟を決めた。
「よろしく頼むよ。」
〜・〜・〜・〜・〜
15年後。
彼のデスクには、書類が一枚置いてあった。
『先行部隊発進許可』
『承認』
『特務工作部隊隊長、シャズ・ブナール・トリスタン』
承認の班が押してある、その紙は写しであり、
王国の議会へと実物は提出されていた。
『それでは議題をあげてください。』
議長の老翁が声をあげて、ニールは息を吸って答えた。
「失礼、先立つ前に、現在、我が国が置かれている危機について述べておきたい。」
「私は宰相、ニール・セールリストン。」
「そして、皆も知ろう、この国の第二皇子であったラングドン・ニール・セールリストンでもある!!」
「我らは、下劣の烙印を押されようとも、今日の、この危機のため15年前より準備を進めてきた!」
「この世界…ひいてはこの国の未来のために。」
「我らは一致団結する必要があるのだ!」
その直後、
議会で大きな歓声と、拍手が巻き起こったのはいうまでもない。




