怒れる獣・エ・ネ=ルギゴリ=ゴリゴリ=ラー
『我々の世界には神は1人しかいなかった。』
そう語り始めた、エイ・エルは自らの視点で語り始めた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜
アドミラル・マクラーレン平原。
そこは、元は広大な海であった。
デイネブ・エルセレブ・アーガリアンと呼ばれる海の化身が神との戦争に敗北し、殺害されたことでその肉体を台座として、神の軍門に下った、息子のデイレブ・マクラーレンが海の代表者として作り上げた大陸だ。
海を司るものが作り上げた大陸だけあり、風でゆらめく海藻、地を蠢く“分解者“たち、…とまるで、お前たちの想像するような「大地」とやらではなかったが、
あまりにも広大なその陸地面積が、豊かな国を作り上げるだけに足る恵みとしてその地で暮らす全ての民族を支えていた。
そう、「支えていた」…のだ。
“ソレ”は突然、現れた。
空いっぱいに巨大な炎の星が満ち、
大陸のど真ん中を消し飛ばして拓かれた大地には、
『暗黒の裂け眼』ができた。
そうしてそこから現れた無数の【影】のうち、一つがその影のヴェールを取り払って姿を現した。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
巨大な類人猿といった様態のその存在は、ヴェールを取り払った途端にその大地が足りなく思えるほどのサイズへと変貌し、世界の果てまで響く雄叫びを上げた。
昼は地が烈火に染まり、
夜は、紫天の下、烈火を生き延びたありとあらゆる生物が、【影】とその巨躯の存在、
『エ・ネ=ルギゴリ=ゴリゴリ=ラー』
に蹂躙、捕食されたのだ。
そんな中、
ある男と女がいた。
名を「アビス」、「ラピス」と言った。
彼らは魚人族の番だった。
大陸が生まれても、以前その世界の主要な環境は海であったため大陸の人間族を除くと、世界で次に多いのは魚人族であった。
しかし、世界の激変により魚人族は、海を追い立てられて陸地へ…
陸地を追われて海へと、各地を転々としながら徐々にその数を減らしつつあり、その煽りを2人も受けていた。
無限に生い茂る海藻と無数にいる分解者たちを捕まえれば食事に困らない大陸で
神の勝利に酔い数千年、神への祈りを忘れた大陸の種族と違い、
海の化身デイネブによって作られたが、
その息子が軍門に下ることによって、
敗北しながらも慈悲によって勝者の大陸種族と同等の恩恵を受けてきた魚人族の、
変則的な経歴でも平等に扱う「神」
と、
正しい判断をした海の化身の子「デイレブ・マクラーレン」
二つの存在に対する信仰心は凄まじく、それによって結果的にその信仰心から、
たびたびデイレブとの化身的同調と儀式的な祈りによって、神との交信を可能としていた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜
「神よ、アドミラル・デイレブの御名において、眷属より願いを申し上げます。」
アビスは焦っていた。
共に行動するラピスは度重なる疲労に倒れ、この夜を明かした先にまつ、灼熱の昼を耐えることができないと考えたからだ。
「御身が最も重要であることは重々承知です…」
「ですが、我らが祖、デイネブを打ち倒した貴方様ならばあの強大な怪物を打ち払うこともできるはず…!」
「…そうでなくとも!なんらかの事情でそれができないのであれば我が愛するラピスに…!」
「どうか彼女にこの苦難を乗り越える加護をお与え下さい!!どうか!!」
魚人族の時空を捉える目が空間を伝わる『神の意思』を視覚的言語として捉える。
『…ならぬ。ワシがあやつらと争えば、かの者“エ=ネ・ルギゴリ=ゴリゴリ=ラー”は討ち倒せよう。』
『しかし、恐ろしきはあやつ単体ではなく、あやつ達『センチネンクルス』と言うワシに匹敵するチカラを持つ者達の集団よ』
「センチネンクルス!?なんですそれは…!あのような化け物がまだ他にもいるとおっしゃるのですか?!」
『そうじゃ、ワシがこの世界の固有な値、神としての固有値を示してしまえば、奴等に解析され、ワシの力をどれほどぶつけた所で波を手で打ち払うようなものとなり…』
『1日とかからずこの世界は奴らに完全に支配されてしまうであろう。』
「そんな…」
『…絶望するでない。ワシの見立てでは少なくともあの怪物単体の限界は7日とみておる。』
「!!…では!?」
『うむ、ラピスにはワシのチカラで明日を生き抜くだけの加護を授けよう。しかし、それはワシの力がこもっている。当然、見つかってはならぬ。』
『明日、ここから南の海に出て海に潜みやり過ごすのじゃ、ここからラピスを運ぶのは大変じゃが…できるな?』
「はい!命に変えても…!!」
アビスの試練が始まった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜
「はぁ…!はぁ…!見えたぞ…!海だ…!!!」
【影】に追われる、長き苦難を経て、南の海へと辿り着いたアビスだったが、そこで驚くべき光景を目にする。
7日目ついに遭遇しなかった怪物はなんとその身を北の海に沈め、岩盤から掬い上げるようにして大陸アドミラル・マクラーレン平原を飲み込もうとしていたのだ。
南の海岸から見えるほどなので、大陸と変わらないどころか、大陸の北にそびえ立つ山々をも飲み込もうとしているその巨躯は、
まさに恐怖を体現したかのような姿であった。
「この日を終われば、救われるんだ、救われる。」
「救われるんだぁ!!!!…!?!?!?」
もはや考えることを放棄して一心不乱に。
ラピスを抱き、逃げる。逃げる。
夕日が沈む、その間際、ついに振り返ったアビスは見た。
大地が飲み込まれその巨躯…いや莫大な“生ける”大陸そのもののとかしたかの怪物が。
なおも、その体に対しては矮小も矮小であるはずのアビスとラピスを。
『捕食』
するため、大海原をかき分けてきている姿を。
「いやダァああああああああああーーー!!!!」
魚人族の彼は、ラピスを抱えながらとはいえ、
それまでも止まらず進み続けていたが、
7000海里ほど離れたその場所ですら全く安全に思えず、
全身全霊、体がその速度に血を滲ませるほどのスピードで泳ぎ出していた。
夜明けは徐々に近づいていた。




