三国吸収・金騎士の伝説
「我ら獣王刻蹄軍!!」
「汝は人族の国のものとお見受けする。」
「我らにも慈悲はある。このままおとなしく汝の国へと帰るのであれば咎めはしない!!」
「…」
無言で見つめるノア。
それに対してその軍の首領と思しき男が神輿のようなものの上から凄まじい眼光でこちらを射抜く。
「…獣の怒りを知るがいい。」
その男がそう呟き片腕を高く掲げる。
そうすると、獣王軍の中から数人が、目にも止まらぬ早さでノアの周囲を取り囲んだ。
「「「「「「「「獣人:八間喰殺!!!」」」」」」」」
八方向を全て抑えられたノアに対し、まるで肉食獣の群れが獲物を追い詰めた時の捕食シーンのように同時に取り付き、傷つけようとする。
「甘い。」
当然その発言は獣人たちの誰でもなく、ノアの台詞だ。
喰らいつかれたように見えたノアだが、その点、全くを持って動じておらず、
身じろぎとオーラの爆発的な増大により周囲の獣人、それどころか、地平線まで広がる獣王軍のほとんどを昏倒させる。
「此奴は…一体何者なのだ?!」
自身の神輿を担ぐものたちも多くが倒れようとしたため、獣王軍の首魁・リオネル=デルジャイロは大地に立っていた。
「わ、わかりません!?」
「もうよい!!」
立っている残りの部下たちに振り返って確認するも全く意味のある回答が返ってこないため怒りとともにノアに向き直るリオネル。
「我!獣王刻蹄軍総司令・牙将軍リオネル=デルジャイロ!!」
「汝の名を聞こう!!名を名乗れい!」
その言葉に、一考したノアが口を開く。
『我、神炎を司りし者…アンクロスロード・ディバイン』
声に特殊な効果をつけ、聞くものに畏怖を与える異次元の発声をするノア。
「アンクロスロード!!?!?」
獣王軍の意識のあるものたちにもその名に破局的な意味があることはすでに知りわたっており動揺が広がる。
「クロスロード王国か!!!!!」
名をお互いに名乗りすでに臨戦体制だったリオネルが鉤爪状の武器と鎧を闘気で色付けて自身の毛並みと同じ橙色へと染め上げる。
「ついに我らの国を狙ったのだな!?」
「同盟国の獣畜の国が落とされたが、本国ではないから…と臆病にも我らの国の司令部は雌どもの意見に賛同して開戦を宣言しなかったが、玉無しどもめ!!!!」
三本の爪がついた鉤爪をふるい、こちらノア側の地平線の彼方まで傷跡が生み出されるほどの斬撃、その乱舞がノアを襲う。
「なぁ!?!貴様も戦争好きなのだろう!?」
「やはり男は闘う生き物なのだ!!!!」
ノアは腕を組み、一歩も動かず、全て闘気による受け流しにより捌いていた。
「ハハハハハ!!!」
「これが音に聞く炎王と言う者か!?」
「それとも口上通り、彼の国の伝説の神の炎そのものか!?」
一方的に攻撃をしている立場ということで誤解したのかさらに勢いをあげ、蹂躙しようとするリオネル。
だが、ノアが捌く向きを変え、リオネルの巨体を反らせるほどによろめかせる。
一瞬の隙を見逃さず、鎧の中心鳩尾の部分は拳を放つ。
「バカめ!神撃の類であっても俺の獣王闘気外装には傷ひとつつかんぞ!逆に貴様のそのやわな拳を砕いてくれるわ!!!」
「…愚か者め」
闘気を拳が当たる鎧部分に偏らせ、反動でノアの拳を砕こうとするリオネル。
しかし、鎧も闘気も意味をなさなかった。
「極肢【天仙凛】」
「…ッッッッッッ!!、、、、、、…」
その一撃は闘気も鎧も無視して、体内構造の部分的揺れを引き起こし、それによるズレで内部に圧迫した空白を作りさらに揺らす。
味わったことのないその攻撃に膝をつき目を白黒させたリオネルは最後にノアの顔を覗き込んだ後、そのまま倒れ動かなくなった。
「し、司令が!?」
「な、何ということだ!?」
逃走しようとし始めるものや、動揺で動けなくなるものなど、かろうじてノアの攻撃で戦闘不能にならなかったものたちもリオネルが倒されたことにより戦意を喪失しているようだった。
すると、
「「パピルス・グラコルト」」
一瞬で空が暗雲に包まれたかと思うと、天から白い糸のようなものが無数に降ってくる
ノアはオーラ圧だけでそれを近づけさせない。
しかし、獣王軍はそうではなかった。
「か、身体が!?逃げれない!」
「…」
「何だこれは!?身動きが取れぬ!」
逃走しようとするもの、意識を失ったもの、リオネルが倒されたことで動けなくなったもの。
それらすべてに糸が付着しまるで操り人形のように全身のコントロールを奪われていく。
リオネルを含めた獣王軍は全員が一斉に飛びかかってきた。
「…くだらぬ【技】だ。」
ノアはもう一度オーラ圧だけで全員を吹き飛ばした。
が、今度は吹き飛ばされた者たちの背後から黒い影のようなものが飛び出してきた。
ノアは実態がないものだと即座に見抜き、まず、一体を指差してオーラで炸裂させる。
影が黒い液体のようになって、ノアのオーラ密度の高い層でビチャビチャと堰き止められる。
「これは…呪いか…!」
どうやら影の正体は呪いの瘴気を圧縮した人型の攻撃人形だったようだ。
呪いについてはあまり詳しくはないノアであったが、因果については熟知している。
「直接触れるのは避けて正解のようだな。」
指を開き、手を振るうと、未だ対空していた影たちが切り払われた。
「まぁ、術者の居場所はわかるぞ…?」
そうノアが見据えた先は暗雲立ち込める上空。
「 吹 き 飛 べ 」
先ほど振り払った腕をそのまま上空へと突き出したノアは莫大な力をそこに込める。
爆風により空の暗雲が消し飛ばされ黒装束の男たちが降りてくる。
顔を黒い影で覆っていたその者たちが着地するよりも早くそれぞれの鳩尾に触れずに拳の拳圧を叩きこんでいく。
「引導を渡してやれば、因縁をつけることもできまい。」
「我ら、最強の妖雲部隊が…呪うこともできずにやられるとは…!?」
そのままノアは、たった一人空中で雲を作り逃げようとしていたおそらく司令塔的立ち位置の黒装束の男を捉えて沈黙させた。
事実上、獣人の国と、妖の国が敗北した瞬間だった。
次は金騎士の国だ、とノアとアンクはは翻り飛び去った。




