戦略:結果
「…ハハ…ハハハ!!」
カイセイが笑い出す。
「勝ったぞ!!私が神炎を従えた!!」
「さぁ!お前たち!!姿を現せ!」
ノアがあたりを伺うと
そこかしこからさまざまな姿のものがある程度の集団となって現れる。
皆一様として顔を隠していた。
すべての人が機械式で素肌の見えない姿をしておりかつ、無機質な仮面をつけた集団。
角や尾が見える獣人然としたおどろおどろしい仮面をつけた集団
顔に黒い煙がかかっておりその中から眼だけでも常人なら恐れをなし狂うような双眸が窺える集団
少ない人数ではあるが統率されており一切の隙を見せない金の仮面をつけた集団
一塊に集まっていると言うこと以外統一性を感じない集団。
これら5つの集団が音もなくこちらを覗き込んでいる。
「こやつらは五大国の使者どもよ、私が神炎を手にした時、五大国はクロスロード王国の名の元に下り、世界は統一されるのだ!神炎を齎した神のもとにな!」
「神炎を司りし神の代行者よ、我がクロスロード王国の永遠の繁栄と共にかの五大国をクロスロードの傘下へと加える証人となりたまえ!」
「フッ…よかろう。」
その周りの人々に加護を感じさせる光のエネルギーを迸らせるノア。
「はは!これで私こそクロスロード王国の継承者に相応しい!」
しかし、ノアは指で空をなぞると、手に持っていたカイセイの証明書を焼失させた。
「なっ!!!!」
「初めに言ったであろう、勘違いは身を滅ぼすと。」
「格が上であるものに対して交渉をして契約を結ぶ…それ自体は悪くないが、格上のものが恩と感じるような過失や有情なる行為に対して報いることはあっても、代償行為として契約を守らせようなど勘違いも甚だしい。」
「貴様!こんなことが!クロスロードの未来が!」
「何度も言わせるな、それは貴様の思い描いた未来でしかなく…“勘違い”だ」
そのやり取りに割り込むように金の仮面の首領と思われるものが言葉を投げかける。
「失礼。我らは五大国としてその証跡を元に軍門に下ることを決定したゆえ、それがなければこの件は無かったことになるがよろしいか」
「あぁ、帰ってもらって構わないが。」
その言葉に各集団から1人ずつ飛び出してきてカイセイに突っ込む。
「ガハッ!!??」
「申し訳ない、カイセイ殿。われら“五大国”で既に話をしていてね。」
「五大国…だと!?六大国協議ではなく?!」
「あぁ、申し訳ないな。あれは少し君の若さを利用させてもらうためにでっち上げたものでね。既に正式な協議を…」
「貴様らぁ…!」
全身を貫かれた惨状でも屈しないと、周りに取り憑いた者たちを振り払う。
「…ぅぐ…お前の!おまえのせいでぇ!!!」
全てかなぐり捨てて、恨み節を唱えて突っ込んでくるカイセイを右手で掴み、虹色の炎で燃やし尽くすノア。
「まぁ、次だ」
金の面はその容赦のないノアの行動と言葉に肝を冷やした様子で言葉を続ける。
「…我々としては、貴方を害する目的はない。」
「我々の研究として、クロスロード王国と貴方、神炎を司る者というのは関係値がそれほど高いものではないとわかっている。」
「我々としてはこのまま争いの種である炎王ごとこのクロスロード王国は解体し、土地も割譲する形で穏便に終わらせたい。」
「だからどうかーー」
「力を貸してほしいと?」
「それが最も穏便に“済む”」
「お前たちも何か“勘違い”しているようだな」
その言葉に交渉決裂と判断したのか金の仮面の首領は飛びすさり、5つの集団が一斉に攻撃態勢をとる。
「交渉プランB〜Yまで省略、最終プランZを開始する!各国部隊は対神攻撃開始!!」
「機甲神機!!」
「神喰牙獣!!」
「魔影斬滓!!」
「神聖威孔!!」
「カオスサーシェフ!!」
さまざまな攻撃がおそらく普通の人間には一つであっても過剰と言える火力として繰り出される。
しかし、
「(見ておけ、我が弟子よ。破天裁魔とは“こういった技の”極致であると言うことを。)」
ノアは。
「【破天裁魔】」
一撃で、
それらすべての技を掲げた拳から展開した光によって消し去った。
「バカな!?」
「あり得ない!?」
無傷どころか、消耗の一つも見せないノアに周りの五大国の部隊全員に絶望が走る。
「何を思ってこのようなことをしたかはわからないが…」
「 跪 け 」
全員が強制的に地に伏せられる。
「我が求めるのはただ一つ、変わらない日常よ。
もちろん、この国の王とてそれは例外ではない。それがそこで無力化した炎王が生まれた経緯よ。」
「さぁ、私欲に塗れた“侵略”は今すぐにやめてもらおうか」
金の仮面の男が答える。
「ハッ…!ハハーーッ!」
「我々は帰らせていただきます!!」
金の集団が退散するとほぼ同時に、他の集団も散り散りに離れていった。
「(これが破天裁魔…)」
苦境を乗り越えるだけの格を見せたその権能の一端を垣間見たアンクも感嘆する。
場を支配するだけのパワーだけでなくどんな構成、構造であろうとも無力化させる繊細さを併せ持つ力であるとわかったからだ。
「さて、ディアンナという女のせいでできなかったことを進めようか。」
ジロリと見抜くとそこには
枢機卿ダビダル卿、カーネス隊長、ロンダルトン氏が揃いノアのことを伺っていた。
「申し訳ない。五大国の策謀、カイセイの狼藉全て我々国家中枢に責任がある…」
ロンダルトン氏は青ざめながら言葉を紡ぐ。
「良い。それよりお前たちが気になっているのは炎王のことだろう。」
意中の話を出されて、より一層恐縮する一同。
「かの王は、あれ威光目を覚ましませんで…どうか我らが王を元に戻していただけませんでしょうか…!」
「そんなことはしない。」
絶望言葉が紡がれた。
「なぜなら、これは“結果”だからだ。」




