緋色の封印
「この一撃は炎魔の斬撃…!」
「万物を叩き割る溶断の刃!」
「【破 邪 真 炎 剣】!!!」
「ちょっ!?ちょっとまって!!」
制止の声も無視して繰り出される“突き”
しかし、それは突きというにはあまりにも破滅的で、
天災というには、自然の無機質な残酷さ、より一層「人」の殺意を感じる機械的な所作、
まさに噴火、巨大な熱せられた刀身、隕石のエネルギー、それらを想起させるようなパワーをもった、焔を濃縮したような塔や砦とおなじくらいの太さ大きさを持つ莫大な熱の奔流が回避したアンクに余波でさえ照りつける。
直撃し、破天裁魔によって肉体を強化しておかなければ、いかにノアといえど、アンクごと焼失していたであろう。
「(さて、小僧先ほど言った通りだが、我は都合あって貴様を強くしてやらねばならなくなった)」
「(つまりは弟子だ。我が弟子アンクよ)」
「(御前にはわからんだろうが、彼奴はこの世界に同列以上のものが相対せねば負けない、“世界修正力”というものを受けている存在【開闢者級】だ。」
「(攻略には我の力は必須だろう。)」
ノアが続けて話をするがアンクには頭に入ってこなかった。
師と後継という関係性もそうではあるが、
このノアという男が親身なことをいうと思っていなかったからだ。
振り回すだけ振り回されるんだろうなという勝手な思い込みをしていたことにアンクは恥じた。
「何を呆けておるかッ!!」
「爆裂千烈衝!!」
炎王による、残像を伴う無数の細剣の突きが繰り出される。
それは衝撃波によって、炎王の持つ大剣の形状を無視した“飛ぶ斬撃“であり、面破壊力はまるで巨大な手榴弾が爆発したようなものだ。
しかしこれも。
アンクは難なく避け切る。
「(身体が軽い…)」
「(時間が止まって見えるよ!ノア!)」
先程の莫大な一撃こそ脅威ではあったがそれクラスの攻撃でなければアンクの肉体にダメージが入ることはなさそうだ。
【よしよし、それでいい。】
【さぁ、炎王よ。準備は良いか?】
「フフフ…」
「ハーッハッハッハッハッハ!」
高笑いする炎王。
どういうことかわからずにいたアンクに対し告げる。
「良かろう。ワシの力では近接戦闘にて、アンクロスを捉えるのは厳しいようだな。」
「望み通り我の最大の一撃を持って決着としよう。」
「【破邪真炎剣】」
「【爆縮】」
破邪真炎剣という先程の一撃を生み出した大業から派生した、圧縮された高熱の大剣を精製する炎王。
「(そうだな、御前自身も本能の赴くままに攻撃するがいい。それがお前の最大の技のはずだ。)」
「(わかった。)」
アンクは両の拳を前に、
右手の紋様が上に来るように上下に拳を突き出す。
両手に紋様が広がっていき、腕から胸、頬にまでそれは広がる。
両腕を真横に広げて、カッと眼を見開く。
莫大なオーラが放出される。
肘を背中に向けて、くの字に折り、両手の拳を腰タメに構えると放出されているオーラが集まっていき球形に収束する。
2人の攻撃は同時だった。
「【破邪神炎剣】」
「【|緋色の封印《シールドアウト・スカーレッドディストーション》】」
炎王の一撃は真一文字に切り開いた横薙ぎの一閃で、アンクどころか背景に見える広大な山脈の山頂部分にまで届き、同じ高度にいた全てを横薙ぎに焼き払った。
しかし、アンクのオーラは破られずに、球形のオーラに浮かび上がる紋様は炎を伴って色濃く反映される。
すでに放たれているアンクのこの攻撃により炎王の攻撃は弾かれていた。
瞬く間に紋様は拡がりながら炎王を捉え、その意識と力を奪って、猊下に見える炎王城に等速で押し飛ばした。
「「「!?」」」
時にして数刻も経たずに上空に消えていった2人が戻ってきたことだけでなく、
炎王が落ちてきたことに驚く謁見の間の面々。
すでにアンクの背にはノアの幻影はなく、その姿もアンク本来のそれだ。
落ちてきたと言っても墜落というよりは不時着といった形で炎王に大きな傷は見当たらないが気を失っていることに変わりはなかった。
その光景に炎王とアンク以外の面々が言葉を失っている中、謁見の間にフード付きの革のローブを目深に被った者が入ってきた。
「執事長!何をしておるか!!このものは誰ぞ!」
ハッと気づいたロンダルトン氏が一喝する。
執事長のニールが遅れて入ってくる。
「申し訳ございません。この者かなりの手練れ出して…遅れをとりました…!」
なっ!?とこの後に及んでまだ一波乱あるのか?!と驚くロンダルトン氏に、ダビダル卿が冷静に尋ねる。
「名を名乗っていただいても構いませんかな?そこのお方。見ての通り今、炎王はご対応できかねますのでね。」
「左様。狼藉を働くのであれば吾輩が相手になろう。」
カーネル隊長が前に出る。
「おーっとっと!待ちなよ!」
両手をあげておどけるフードローブの人物。
フードを外すとそこには赤毛の女が姿を現した。
「あたいは、ディアンナ。ここには空で見かけた戦いを追ってきたのさ」
周りを見渡し、アンクを捉えるがまさかと周りを見渡す。
「あたいは目と耳が良くてね。空でのやりとりもあった出来事も見させてもらったんだ!」
「さっきここに来た白髪の漢!知らないかい?」
全員がアンクの方を見る。
「んー?なんだい話題の王子サマが何か知ってるってことかい?じゃあさ。」
目にも止まらぬ速さでアンクを胸元に抱き抱えて元の位置に戻るディアンナ。
「元々、コイツには用があったし、個人的にも用ができたんで借りてくよッ!」
「んぶゥ!?」
アンクは抱き抱えられたまま連れ去られてしまった。
「な!?おい貴様!?」
そこで○○が制止する。
「ロンダルトン殿、まずは炎王に意識を取り戻していただくのが先決でしょう。」
「そうですね。彼のいう通りでしょうロンダルトン氏、それに彼はどちらにせよここまでのことをしでかしたのです。我々でどうこうするには判断できかねますよ…」
ダビダル卿も追従する。
嵐のような出来事で混乱したロンダルトン氏であったがその発言で我に帰り冷静さを取り戻した。
「そうであるな、まず炎王にお伺いを立てねばならぬ。」
一同は炎王のため動き始めた。




