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緋色の封印

「戻ったか、アンクくん、いや、アンク王子。」


屋敷に入ると、オービットに迎えられた。

とりあえず明日は早いということで特に相談もなく着替えや入浴をすませ、ディナーを食べたら就寝できるようにすると大広間に通された。


「さて、食事しながらでなんだが、明日の話がしたい。良いかなアンクくん。」


食事をある程度進めるとオービットはそう切り出してきた。


「あしたって、謁見のことかな?」


そうアンクが問うと、いかにもといった様子でオービットは語り始めた。


「明日の謁見、君には三人の人物に注意してもらいたいんだ」


「1人は、拝火教の最大精力を誇る神火派の中心人物でもある、枢機卿タビダル・ロストネルラス」


「2人目は、魔炎鎮火隊と言われる生え抜きの魔法騎士たちが集まる大部隊の長・使徒斬りのラズ・カーネス」


「3人目は“火馬車”・“不滅灯”、“断熱鉄骨”などの製造加工といった鋳造業まで幅広く取り扱い、今や財務大臣でもあるビネット・ビネガー・ロンダルトン氏」


オービットが灯りと共に、三つの小さなガラス細工のような物をかざすと、ガラスには精巧な像が刻まれていたのか3人の肖像画が天井に映り出た。


特に、と強調したあと、


「このダビダル卿には要注意だ。」

「彼は拝火教の中でも過激な思想と活動下部組織を持つ神火派を今の地位までのし上げた男でね…」

「神炎を宿したと言われる初代炎王は神からいただいた炎を死後返さずに一族で不当に独占していると主張しているのだよ。」


「…」

ノアは特に反応せず聞き入っている風に目で続きを促す。


「この背景には確かに炎の一族とその眷族である緋ノ髪一族が、中間管理職から、地方の番兵長に至るまでその席を埋めているということもある。」


眷族・緋ノ髪一族とは、炎の一族のように自分の炎は持たないが、火や熱を自らの身体能力や異能に還元して自信を強化できるという性質をもつ元は同じ炎の一族だった者たちだ。


「緋ノ髪一族は、今や自分の炎を持たない一族の者よりもよっぽど力を持っているものも多く、炎の一族ではなく、炎そのもの、引いては拝火教に信心を捧げて身を置くものも多くいるのだ。」


「そうした風潮では国民全てに恩恵をもたらしたという神炎を炎の一族が独占したから今の地位があるのだという主張が流行るのも無理はない…」


「かく言う私も、さほど炎の一族に身を捧げようなど考えてはおらぬしな」


「…とまぁ、話はそれたが、そうして炎の一族の権威を下げてでも自分の主張を崩さず、一族に睨まれていたダビダル卿だったが、『神火が再び炎王となるものに宿る』という一族の伝承を何処からか聞き出してきて流行らせたことで今や、一大勢力となるに至ったのだが…」


「ここまで聞いた感じだと、変なおじさんが教会で成り行きで偉くなったって話に聞こえるね」


オービットは、それだけなら良かったのだ…と呟きため息をつく。


「問題は君だ、アンク王子」


「…?僕が何か悪いの?」


「君に非はないのだが、あの日君が秘宝により言い伝えでは神炎を受け継ぐものとして、そして、それによって王子となったことで彼は君をとても欲しがって(・・・・・)いるんだ」


欲しがるとは、お世辞にも人に使う言葉ではない。

本来のアンクならそれだけで異を唱えるところだが、ノアは冷静にアンクが大人ならするであろう対応として、恐る恐ると言った様子で確認した。


「…それってまさか、生贄とかにされるってこと?」


「いや、そこまで野蛮ではないがね、さほど変わらないかもな。」


オービットは続ける。


「どうやら儀式によって君の炎を体から分けて、王都の中心にシンボルとして据えようとしているらしい。」


「(えぇー!!!)」

心のアンクが叫ぶ。


「そして、ロンダルトン氏は残った君を徹底的に研究し、魔炎鎮火隊が脱走や暴れて施設を壊さぬよう警備につくという協力関係をもとりつけているらしい。」


「(なんでぇー!?!?)」


「(うるさいぞ小僧。)」


精神だけで叫ぶアンクにノアが嗜める。


「我々一族としては、君には王として、一族の最有力後継者として、神炎を宿すにしろ、そうでないにしろ頑張って欲しいわけで、そうなると彼ら有力者と敵対してしまうかもしれないわけだ。」


「もちろん、君もそんなことにはなりたくあるまい?」


「(コクコクコクコク)」


「はい。」


精神だけで何度も激しく頷くアンクを完全に無視してノアは返事をした。


「そうなると、今の気難しい現炎王に正式に後継者として認めてもらわなければならないし、そもそも、君の存在は隠されてきたわけだから親子関係をまず認めてもらわなければならないんだ。」


「一族の直系で、最も力をもつ、ライセイ・ヴァンクロスロード」


「神炎を操る技術体系から派生し王族のみに伝えられてきた、“煌炎術”それを史上最も体得していると言われる、ミロク・ディークロスロード」


「侵略軍を打ち負かすどころか、逆に攻め入って領土を広めるということを一度ならず何度も行い“炎旗の英雄”と呼ばれる若き天才、イスラ・ドラクロスロード」


「彼らを差し置き、自分が後継者だと王に主張できる覚悟が君にはあるかい?」


少し間をおいて、アンクは答えた。


「…はい!」


ホッとした顔でオービットはグラスの中身を飲み干した。


「その返事を聞いて安心したよ。」

「実を言うと、君の一族との決闘は私も見ていてね。」

「君のあの強さと、神炎の存在、そして、君の強い意志を見せれれば一族として望ましい方向にこの話が動くのではないかと私はそう考えたんだ。」


長話をしてしまったね、と後付けしてもうすでに皆が食事も取り終えていたこともあり、席を後にするオービット。


アンクは焦燥に駆られながらも、その実、身体を操るノアが焦らずに寝室に入ってすぐに寝たものだから、アンクもそのまま一緒に眠りの淵に落ちていくのであった。

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