緋色の封印
皇炎の国、クロスロード皇国は、建国以来、王たる炎を継承するクロスロード公の後継者が炎王としてその広大な領地を収めてきた国だ。
よって、初代炎王はある種神格視されていた。
「結構並んだね?」
「時間取らせちゃってごめんね?でも絶対ここにはきた方が良いと思ったの。」
「いやいや、時間は大丈夫だよ。それに、それだけの御利益があるってことだよね。すごいや。」
「ウリエラ様はその力の覚醒を、ネリア姫は皇女としてふさわしい存在になれる成長をそれぞれ願って、今あれほどの躍進を遂げているってわけ。」
「行ってよかったでしょう?」
「うん。」
そんなことを言いながら時計台の元へ戻る2人。
しかし、行手にはぞろぞろと見るからに盗賊といった風体のならず者たちが取り囲んできていた。
「へへ、王子サマよぉ、可愛い子と遊んでんじゃねぇかよぉ〜」
「金持ってそうだなァ?ジャンプしてみろよ、ヒヒッ!」
「おいおいテメェら、あんまり下品な口を聞くなよ?このお方は炎王サマの後継者であらせられるぞ…ククク…」
アンクはミリアの前に出て、右手に炎を宿らせた。
「ミリア。ここは僕がなんとかするから逃げて。」
「でも、1人じゃ…」
「大丈夫。それに君の足の速さならそうそう捕まらないだろうし、僕も頃合いをみて逃げるよ。僕にも護衛がいるしね。」
「そうね…わかったわ…また会いましょう?アンク」
バッ!と勢いよく駆け出したミリアはあっという間に街中に消えていった。
「おうおう、女の子を逃がすとは漢だねぇ王子サマ。」
「でも、オレたちの狙いは初端からオメェなんだよ…ヒヒッ!」
「さっき、護衛がどうとか言ってたな?」
「…!」
「アイツらなら今、俺の部下たちに襲われてそれどころじゃねえと思うぜ?」
どうやらこのならず者の頭領のような者がいうにはかなり計画的な犯行らしい。
「(くっ、どうすれば…!)」
「「「「ヒャア!」」」」
迷っている隙に、下っぱらしきならず者が何人か飛びがかってくる。
「はぁああああ!!!」
大きくタメをつくって。地面に手を合わせて高熱の急激な発生で爆風を起こす。
飛びかかってきた下っ端数人は吹き飛ばされて地面に投げ出された。
「ほう…?ただのガキかと思えば意外にやる…オメェら行くぞ!」
「ヘイ!お頭!…ヒヒッ!テメェは終わりだ!」
「ククク…俺たちのデルタブレイカーは誰にも破れねぇぜ!」
盗賊団の頭領と思しき男と、痩せこけた男、腕だけが常人の2回りは大きいソフトモヒカンの男の3人が3方向を取り囲む。
「「「デルタ…」」」
3人が一気に突撃しようとしたその時、
パラララッ♪パララロー♪
独特な吹奏楽器の音ともに黒い馬車が大通りをかけてくる。
「はぁ!」
馬車から勢いよく何かが飛び出し、アンクの前に躍り出た。
「我が名!オルドラット・L・ローレンティツィー」
「我が名、ミハイル・R・ロスティルド!」
「「我ら、救世騎士同盟!!!」」
「大丈夫か?少年!」
オルドラットと名乗った甲冑騎士姿の黒髪短髪の好青年がまずアンクへの声かけをして、ミハイルと名乗った金髪長髪の少年騎士がその間長剣を肩口引き手に、剣先を相手に、両手でタメを作る形で構えることで隙なく牽制する。
「…」
「ヒヒッ!なんだってんだ?!コイツら!」
「ククク…おもしれぇぜ!お頭!やっちまいましょう!」
はやる気持ちを抑えながら2人は許可をとるが頭領は許可を出さない。
「…武器壊しだな。」
「岩のアレ。やるぞ!」
「アニキ?!」
「大アニキ!?こんなガキどもにアレを?!」
「バカヤロウ…デルタブレイカーだって、そもそもは格上だろうが潰す技だ。おれたちゃ、確実!速攻!滅殺!がモットー!」
「「すいやせん!!」」
痩せこけた男が細腕を大きく開き、鈍く光る魔力光とともに腕いっぱいに空気を抱く。
同時に、ソフトモヒカンの男も目を光らせ地面をつかみ土中から大岩を取り出した。
頭領の男が叫ぶ。
「虎岩殺!!!」
ソフトモヒカンの男が投げた大岩は頭領の力を浴びて光る。
まるで無重力のように自由落下せず、等速でアンクたちに向かってくるその大岩は痩せこけた男の、大気のような目に見えぬ何かの塊に包まれて加速度的に速さを増していく。
「くっ!」
「なんだというのか!?」
“騎士同盟“の2人はアンクを庇いつつ大きく横に避ける。
しかし、避けた後の大岩は大きくカーブをかけて上空で向きを変えて再びこちらは飛んできた。
「気張れよ。テメーらぁ!」
汗が滲むその顔から、おそらく、あの光がこの頭領のモノで、それによって岩を操作しているのではということがわかる。
横の2人はそれとは別に大岩に対しサポート魔法か何かを使っているようだ。
「くっ!うおおぉぉぉぉぉお!」
「オルド兄さん!うおぁぁぁぁああ!!!」
回避不能、と判断したオルドと、それに合わせたミハイルが剣を振り、大岩破壊を試みる。
バキンッ!
2人の長剣が半ばで折れて砕ける。
「馬鹿な!?」
「王国謹製の長剣だぞ?!」
大岩は崩れたが、2人の得物は破壊されてしまった。
「…ふぅ、なかなかやるじゃねぇかアイツら。」
「ヒヒッ!だがもう何もできそうもねぇなぁ?」
「さっさと畳んでやりましょうぜ!」
盗賊たちは勢いづいているようだ。
「(まずいよ!ノア)」
「(いや…、…。)」
ノアが動く気がないを知り余計に焦るアンク。
しかし、ノアは静観を決め込むつもりのようだ。
「…オルド兄さん、僕たちも精霊剣を…!」
「あぁ…!」
ミハイルが鍔と柄だけの“剣”を取り出す。
「【至高の精霊】よ…万事に霊格を見出し司るその権能をもって、我らが不朽の怨敵を下すための普遍なる霊剣を齎らし給え!!」
オルドラットが口上と共に魔力を込めると、ミハイルの持つ“剣”からスパークと共に青白い刀身が姿を現す。
「「【至高剣】“ラン=スロット”!!!」」
2人が叫び、柄の元から伸び続けていた刀身が固定されスパークが止まる。
オルドラットは任せたと言った様子で下がり、首元で背負っていた鎧の追加装甲に見える金属の椀状物を腕にベルトで固定した。
どうやらバックラーとしても機能するものだったようだ。
ミハイルが両手で剣を頭領に向けて言う。
「行くぞ!!!」




