緋色の封印
「まだやるか?」
その光景に広間は騒然となる。
「なんと…」
「ガイア殿が…!」
「ええい!まだ終わってなかろう!見届けぬか!」
家老たる威厳で黙らせるアスライル。
家長のレバールは未だ戦況を見守っていた。
〜・〜・〜・〜・〜
「くっ!」
フレアランドは先ほどであれば、ガイランドを巻き込んでしまうほどの長さまで溶断ブレードとかした炎の手刀を伸ばす。
「みているな!お前たち!」
急に、虚空に向かって声をかけるノア。
なんだ!?と驚くフレアランドだが、
それは彼ではなく、広間の炎の幻像の視点に向けたものだった。
「ひぃ!?」
「なぜこちらの視点がわかるのだ!?」
会場では映像を見せている、この炎の特異性に気づくモノ、そうでないものに驚愕を与える。
しかし、を含め、広間の長椅子に座る一族の傑物たちには我々幹部に対しての発言だなと伝わっていた。
「聞け!!!!!!」
「彼は異能を全開にして勝負を仕掛けてくるようだが!」
「私は2人がかりの強襲を異能なしで捌いでみせたぞ!」
「そこに転がる伸びた漢は先ほどから見ていたのならわかる通り、君ら一族きっての武芸者であろう!」
「そしてそのもう片割れも今ここで!」
「もし!そんな私が異能を使えばどうなるかという参考としてお見せしよう!」
そこで、ノアはフレアランドに目を合わせ、クイッと、二本指を立てて挑発する。
ガイランドが倒されたことに動揺していたフレアランドだが、挑発されても怖気付くほどには気押されてはいなかった。
「ズオァ!」
長大な溶断ブレードを振るう。
ギリギリで跳び越えたノアの広報の雑木林が真一文字に切り倒される。
ニヤリと汗を流しながらも不敵に笑うフレアランドは振るった右手だけでなく左手も振るって連撃を仕掛けてきた。
全て回避するノア。
〜精神世界〜
「(さて、小僧。)」
「(さて、小僧。じゃないよ!ていうかこれ終わったら身体返してよね!?)」
「(お前が我が力に答えればな)」
「(なんなの!もう!)」
「(さて、前回は異能を出すだけだったな?)」
「(な、何?いきなり…?)」
「(今回は我が身体を動かしてやるから異能を制御してみよ)」
「(えええ〜!!!)」
「(幸い、お前の炎の火力の最大限でも両足から出せばかなり移動に使えるはずだ。)」
「(炎の火力が一定な特質があればこそな芸当だ。お前が覚えるしかない。)」
「(そんなこと急に言われても…)」
「(それともう一つ。)」
「(奴に一撃食らわせてやる時、タイミングに合わせて異能を使え。)」
「(危なくない??)」
「(自惚れるな、小僧。お前の炎に殺傷能力などない。)」
「(お前の判断で【ファイア】と唱えれば良い。)」
「(う〜ん。)」
「(さあ、考えている暇はない、行くぞ。)」
この間、約0.05秒。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
フレアランドの異能手刀を避けながらアンクとの話を終えたノアは、直前の一振りを屈んで避けたあと、
目にも止まらぬ速さでフレアランドの懐に飛び込んだ。
「(今だ小僧!)」
「(!!)」
「(はぁあああああツツツ!)」
フレアランドには突如、懐に飛び込まれたとおもったら、両足から炎を噴き出して胸元に飛びついてくるアンクが目に映った。
「なっ!?」
何!?と言い切るよりも早く、屋敷の屋根よりも高く押し上げられるフレアランド。
「くっ!?」
咄嗟にアンクを振り払うが、悪手であった。
「あ。…ウワァァアアア!!」
自由落下していくフレアランドにノアは先の展開を思い浮かべてため息をつき、落下地点に先回りする。
「(…今しかないぞ小僧。)」
「(…うん)」
落下してくるフレアランドの顔目掛けてアンクのパンチが入る。
「【ファイア】!!」
落下の重力に加え、姿勢の制御も儘ならぬフレアランドは赤熱した拳を顔面に受けて沈黙した。
〜・〜・〜・〜・〜・〜
「なんと言うことだ…」
「まさか、あの2人が敗北しようとは…」
広間にはざわめきが広がっていた。
「(あの身のこなし、そして言動、間違いない!)」
そして、家長レバールは二つの戦いを通して、確信を得ていた。
「(我らが王は前代の王が亡くなられた際に、力に目覚め、人格をも変わったと聞く。)」
「(推測だが、王家の力は絶対無比であるが故、継承制…しかし、今代の王のように生きたまま退位されるのであれば王ではなくなる。)」
「(それを踏まえてこのような際に王の力に目覚めるたまに宝は存在していたのでは…?)」
「(仮にそうであれば…!)」
レバールは異能の炎により、揺らいだ空間から広間に戻ったアンクに対し、席を立って手を前に礼をした。
「今までのご無礼お詫び申し上げます。アンク王子。」
「しかし、王が貴方の持つ“炎”を認めないであろうと言うことも事実、ございます。」
「我々は認めさせていただきます故、何かありましたらお力になりましょう。」
その発言に、長椅子に座る幹部達が目を向けるが、
「これから先、シンエンに目覚まし者となるやもしれませんからね」
続く言葉に、皆が同様にアンクに目を向ける。
様々な感情を伴った視線がアンクに集まるが、
それぞれの幹部たちが立ち上がる。
「「「我ら真炎会議!
王子を炎王と認める集い!
この事を炎に誓う!!」」」
会議が決議される時おそらく使われているセリフを長椅子のメンバーが同時に唱える。
終われば次々と退席していく幹部たち。
「アレス君、屋敷まで王子を頼むよ。」
レバールがアレスにアンク一行の退席を告げた。
「この後は時計塔に向かっていいんだよね?」
ノアがアレスに問う。
「ええもちろん。しかし、そこまで時計塔に何がご用事ですか?」
「時計そのものには興味はないよ」
人差し指を口元にあて、目を閉じて思い浮かべる子供っぽいそぶりで答えるノア。
そのまま、一行は時計塔へと馬車を走らせた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜
「(さてと…お前の身体に負担をなるべくかけぬように異能を無駄に使いすぎた。1時間ほど眠るからその間、時計塔の近くで好きにするが良い)」
「(なんでこっちが身体の使用時間に制限設けられてるの!?)」
「え…!アレ…?」
「どうかしましたか?王子。」
時計塔の周りの繁華街にアンクは当然アレス達護衛を連れて到着していた。(鎧の兵士は目立つので周囲の道から合図を送り、アレスと不審者の連絡をしている。)
「イヤイヤ!何でもないよ!」
「…?そうですか。」
慌てて周りを見渡すと、ふと、道端の往路に邪魔にならないようにボロ布を纏った女の子が目に入った。




