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緋色の封印

パン屋の厨房にいたのは銀髪の未亡人感漂う女性と、人の良さそうな顔をしたパン職人の男だった。


「!!」


ノアの顔を見るなり、銀髪の女性が話しかけてきた。


「アンク!?アンク、私よ!わかる?リンネお母さんよ!?」


軽く錯乱した口調で語りかけてくる女性の声はノアの聞き覚えはなかった。

しかし、


「お母…さん…?」


どうやらアンクには聞き覚えがあったらしく、またも一気に体の主導権を奪われた。

明瞭で無い記憶、思い出とも違う、部分的で本能的な記憶か。とノアはそう読み取った。


「アンク覚えていたのね!?良かった!!」


笑顔で駆け寄り、抱きしめるリンネという女性。


だが、今度は抱きしめる腕に嫌に力が入り、仄暗いオーラが立ち込め、吐息には色が乗り、艶やかな声でアンクに囁く。


また(・・)、会えたね♡ノ〜ア?♡」


その豹変に、肉体の持ち主たるアンクはすくみ上がる。


「黙ってたってわかるんだから…♡」


「私の異能で貴方の魂とあなたを構成する必要因子がこのカラダのナカにあるのを感じる…♡」


リンネはアンクの体の首筋に鼻を当ててスーッと吸い込む。

するとアンクの力が抜け、脱力する形でリンネに身体を任せた。


「これが今の貴方なのね!!」


「あの時の貴方は触るのも躊躇うくらいに完璧で完成されていて手を出そうと考える余地すらなかったけど時間だけ見れば3000年もの壁を越えて、今!」



「あなたとの子を成すわ!!!」



勢い衰えぬまま、リンネが両肩をはだけさせた時。


「まぁまぁ…少し落ち着きなさい。リリス(・・・)。」


ようやく、隣のパン職人の男性が介入してきた。


「その口調…!?あなたまさか…マハ!?」


リンネ(リリス)が驚きの声を上げる。


「驚くのも無理はないが、君の異能に引っかからないのは、そもそも私が生まれ持つ異能によって高度情報生命体に属する存在だからだよ」


「そんなの知らない…ノア様〜!」




「2人であると言うことはわかっている(・・・・・・)。」




その瞬間、明らかにその場の空気を変えた存在、その存在感に、リリス、マハ共にその場で居直る。


「さて、時間もない。今日は確認がてら、寄ったまでだ。」


神威携えた様な特異な雰囲気でノアは言う。


ノアが右手をかざすと、2人の間に風が吹き抜け、優しく包み込んだ。しばらくしてから絡まった糸が解けるように緩やかに消えた。


「また会おう」


そしてノアはそうして厨房を出た。


〜・〜・〜・〜


おおよそ、時間にして5分程度のものだったが、ノアとしては有意義な時間だった。


しかしアンクにとってはそうでは無い、


目が覚めたと思ったら母親に抱かれていて、その母親が意味不明な言動をし、特に説明もなくその場を去っているのだ。

文字通り客観的にみて不満の多い状況であろう。


「(ねぇ!あれは何?お母さんはどうなっちゃったの?!)」


「(その説明には少し時間がかかる。何事もなければ今日の夜更けにでも話してやろう)」


ノアは会計を済ませて出口に揃った侍女2人と店を出て、馬車に乗り込んだ。


「では、今回の会議の会場、レッドランド邸へまいります。」


アレスに1番大きい氏族などはなく、大きな氏族がお互いに拮抗していると聞かされるノア。


当然、パン屋に向かうなどよりも全力で向かったため先ほどよりは時間がかかったがすぐに到着した。


通された広間にはすでに席に貫禄のある面々が座しており、全員と目があった。


「貴殿に来てもらったのは他でも無い君の“炎”がどのようなものかをここで見せてもらうためだ。」


中央の座席に座ったノアは対岸の家長に当たるものが座るであろう席に着いている男から語りかけられた。


「我々は皆、自分の“炎”を持つ。」


「その特異性によって他の国々や、組織、数多の生物の中でも一目置かれる存在。それが我々【焔の一族】だ」


「これから王を継ぐであろう君の炎をみておきたいという気持ちはわかるかね?」


ノアは頷いた。


「よろしい。」


「ではそれぞれ炎を前へ。」



その言葉に応じるようにそれぞれが片手を前に出し炎を出現させる。

ノアの席含めて、全部で10席あるがそれぞれが色や形状、雰囲気の違う炎を保持していた。



「ではアンク王子、炎を前へ。」


厳密には異能を使うのはアンク本人であるため、ノアが体の主導権を渡す。


不意に自身に体のコントロールが戻ってきて驚いたアンクだが、状況はわかっていたので自分の炎を出した。


「…なんと。」


「そんなこともあるのだな。」


「…俺は認めん。」



いくつか声が上がっているが、状況がよくわかっていないアンクに家長席の男が説明する。


「君の炎は、“燻る炎”だ。」


やはりか、と周囲がざわつく。


「その炎は、それ単体では燃え続けることができず、燃料さえあれば一定の火力で燃焼し続けられる代わりに、火力の変化もない。」


「我ら炎の一族は、統治の力としてその火力が求められる。つまり、」



「いわゆる負け組のスキルだ。」





淡々と事実が述べられる。


だが、それにアンクは絶望しなかった。


「そんなの関係ないよ!」



「僕は負けても挫けない!」


その力がなんであろうと前を進むのみ。

そのスタンスは変わることがなかった。


ノアは異能を過信し自分の“軸”とする、この一族の者たちよりもよっぽど良いなとアンクを評価した。


「(その言葉を表すだけの力はあるしな。)」


ノアは既に、それをどうやって証明してやろうか。と考えていた。




「(一族の始まりを考えれば、本来、アンクくんの考え方の方が正しい…)」


「(しかし、現状の周辺各国や、事実我が国の歴史を鑑みれば、一族の今の考え方は間違ってはいないはずなのだ…)」


アレスの脳裏には、様々な国や組織にいる強者たち、特別な兵器、存在などが思い浮かんでいた。


王族とも言える炎の一族の長、レバール・テイナス

未来より力を借りる次世代の王位後継者、アンク


炎の誇りがぶつかろうとしていた。




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