魔女さんとパンケーキと僕と
投稿が遅れて申し訳ありません!理由としましては新学期による課題考査が挙げられます。
翌日の夕刻。
カラン。
僕は『魔女屋さん』の扉を開く。
「・・・・いらっしゃい」
相変わらず無気力そうな表情をしていた。見事に表情が死んでいる。
僕はいつもの様に魔女さんに話しかけようとするが、その時にいつもと少し違う匂いが鼻を掠めた。
「・・・・?なんか、焦げ臭い?」
「・・・・」
彼女が身体をピクリとさせた。
その仕草に全てを察してしまった。
「あー・・・・ホットケーキ、失敗したんですね」
その証拠に、香ばしさの中に甘い匂いが仄かに混じっている。
「・・・・馬鹿にしてる?」
「してませんよ」
「うそ」
彼女は見るからに不服そうに言って、顔を腕に埋めた。
そんな彼女に僕は一つの提案をする。
「もし良かったら、教えましょうか?」
「?」
「そんな『作れるの?』みたいな顔しないでください。・・・・独り身生活も長いので、多少の料理ぐらいできますよ」
彼女は一瞬逡巡すると、ぽつりと言った。
「・・・・・・・じゃあ、よろしく」
数分後、僕たちはキッチンに立っていた。
材料をボウルに入れ、並べながら僕は彼女に問い掛ける。
「・・・・魔女さんってエプロン着けないんですか?」
「・・・・めんどくさい」
本当にめんどくさがりだなこの人。いやまぁ、知ってたけど。
「駄目ですよ。エプロン付けなきゃ。油が飛んで火傷したらどうするんですか?」
「・・・・えー」
「似合うと思いますよ」
「・・・・エプロンに似合うとかある?わたしをおだてるつもりなら大失敗だけど?」
ばれたか。僕としては普通に危ないから、エプロンをつけて欲しいのだけど。
結局、彼女は渋々といった感じで棚からエプロンを取り出して頭から被った。
「・・・・届かない、取って」
彼女が指を何かに向けた。
棚の上部に吊るされている木ベラだ。
彼女が小柄だというのもあるが、かなり高い所にあるから届かないのだろう。僕ですら背伸びが必要だし。
「そこに踏み台がありますよ」
「めんどくさい」
「何回目ですか、それ」
「さぁ・・・・?」
「・・・・よっ、と・・・・・・。はい。取れましたよ」
木ベラを降ろし、彼女の手に持たせる。
「ありがと」
二人がしっかり手を洗った事を確認し、料理が始まる。
「じゃあ、最初にボウルに卵と砂糖を入れましょう。そしたらと油を入れてしっかり乳化させます」
「分かった」
カシャ、と卵の殻を割ってボウルに入れ、砂糖をざらざら振り、カッカッカッと軽快に泡立て器で混ぜる。
思っていたより手際がいい。少し意外だったけれど、それもそうか、と思う。見た感じ、彼女は一人暮らしの様だし、料理慣れしているのだろう。
薄い黄色の油が流し込まれ、再度混ぜる。
「・・・・これでいい?」
「はい。白身も油もちゃんと混ざってますし次に行きましょうか」
「その前に・・・・・・・・疲れた」
「あはは・・・・少し休みます?」
「・・・・料理がこんなにめんどくさいとは思わなかった」
「え、じゃあ普段はどうしてるんです?」
「フライパンに野草放り込んで炒めるだけ」
「・・・・野菜炒めかぁ」
二人して少し休んだ所で、作業再開。
「今度は牛乳とバニラビーンズを砕いた物を混ぜます・・・・というか凄いですね?バニラビーンズって高級品ですよ?」
「・・・・なんか偉そうな人に薬あげたらくれた」
「へぇー!凄いですね!流石魔女さん!」
「そんなことより、はやく」
「あ、はい」
牛乳とバニラビーンズをさっきのボウルに投入、この際バニラビーンズは少しでいい。香り付けだから。
「次は薄力粉とベーキングパウダーをボウルに振るいながら入れましょう」
「分かった・・・・混ぜる?」
「そうですね。これに塩を少し入れて混ぜたら生地の出来上がりです」
今度は木ベラに持ち替えて、くるくると混ぜていく。
ダマなく混ざったら塩をほんのひとつまみ加える。
「フライパンは温めておいたので、早速焼きましょうか!」
「・・・・うん」
生地の入ったボウルは中々重いので、少しだけ手を貸しながら流し込む。
あとは弱火でじっくりと焼くだけだ。
「表面がふつふつしてきたのでひっくり返しましょう」
「う、重い」
「あ、支えますから」
さっきはボウルを支えれば良かったが、そうはいかない。仕方ないので、彼女の手に僕の手を添える形になる。
くるり、と手首を返すと、薄黄色の面が綺麗な焼き色の面になる。
「よいしょ、と。うん!いい感じですね」
「終わった?」
「あとは待つだけですよ」
「じゃあ、出来たら呼んで」
「いや、もう焼けますよ?」
「そう。じゃあここで待つ」
数分雑談で時間を潰していると、甘い香りが漂ってきた。
「焼けたかな?」
「?何で竹串刺すの?」
「ああ、ちゃんの火が通っているかを確認するためです・・・・・うん!焼けてますね!」
「へぇ・・・・」
フライパンをかまどからどけ、丸皿の上に出す。
バターと蜂蜜をかけると、ホットケーキの熱でたちまちにとろとろと溶け出してくる。
「完成です!」
「おおー。美味しそう」
「いただきます」
「美味しいですか?」
「・・・・早い。まだ口にも入れてない」
彼女はホットケーキをナイフで小さく切り分けると、口に含む。
「甘くて美味しい」
彼女はお気に召した様で次々と切り分け、口に入れていく。
そして半分ほど食べた所で、
「ご馳走様」
「お粗末です・・・・ってあれ?まだ残ってますよ?」
「君の分だけど・・・・」
「え、いいんですか」
「半分は君が作ったようなものでしょ」
「じゃあ遠慮なく」
キッチンから新しい丸皿とナイフとフォークを持ってきて、ホットケーキを取り分ける。
口の中に入れるとふわりとした柔らかさと蜂蜜の甘さが香った。
「あ、美味しい」
僕はあっという間にたいらげると、窓の外を見やる。
そこは薄闇が膜を張っていた。
「夕暮れですね・・・・・そろそろお暇させてもらいますね」
「早く」
間髪入れずに帰りの催促。・・・・ちょっと心にくるものがあるけれど、彼女はいつもこんな感じだ。
「はい。今日もありがとうございました。多分明日も来るのでよろしくお願いします」
「別に来なくていいのに」
「それはできないですね。僕、魔女さんと話すの大好きなので」
「・・・・はぁ、もういい。めんどくさいから早く帰って。」
「すごく大きなため息つきましたね・・・・・。それじゃあ、また!」
木製の扉を開け、木製のドアベルがあたたかい音色を奏でる。
しっかりと扉が閉まったのを確認して、僕はゆっくりと家まで歩き出した。
最後まで読んでいただき、感謝です!