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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
文化祭狂想曲
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幕間 打ち上げにて(咲視点)

「おいしい料理のつくりかた」咲視点のお話。執筆は紅葉です。

「みんなお疲れさまでした! いやあ、たくさん売れたね」


 部長の薬師寺しのぶが乾杯の音頭をとった。乾杯といっても、それぞれが手にしているのは、コーラやオレンジジュース、ウーロン茶といったソフトドリンクの入ったグラスなのだが。

 咲はコーラを一口飲んだ。熱された鉄板の前にいたからか、祭りの余韻が残っているのか、喉を通る炭酸の刺激がひどく心地よかった。


「今日の一番の功労者なんだから玉野君と美晴さんから選んで」


 回されてきたケーキ箱の中には、秋らしく大粒の栗を使ったモンブランや、つやつやした断面をみせたいちじくのタルト、その他色々な種類のケーキが収められていた。


「じゃあ。遠慮なく。美晴はどれがいい?」

「お先にすみません。えっと、この洋梨のタルトがいいかな」


 ケーキ箱の中をのぞく美晴の顔が自分に近づいて、ドキッとする。表情に出ないように気を引き締めつつ、美晴の皿に洋梨のタルトを、自分の皿にカボチャのモンブランを載せて隣の薬師寺しのぶへと箱を回した。


「玉野、渡瀬さん、結局最後まで悪かったな。ありがとう。本当に助かった」


 もう何度目かの高木先生の謝罪に、逆に申し訳なさが立つ。


「おごってもらい損ねましたしね」

「玉野? このケーキ先生のおごりだぞ」

「腹がちぎれるくらいご馳走してもらう約束だったはずですが」

「ああ、また今度な」


 今度が本当にあるのかどうかわからないが、そういうことにしておこう。本当に楽しかったのだ。だから別になんとも思ってはいない。


「それにしても玉野君のコテさばきと、包丁さばきはすごかったね。私、肩書きは部長だけど、実はあんまりお料理うまくなくて。本当は優の方が部長に向いてるのに」


 隣の薬師寺しのぶが落ち込み気味にへらりと笑った。


「まあ、俺はうちが定食屋やってるんで」

「それでも練習しないとあんな風にはできないよ」

「まあ、そうですね」


 俺たちの会話が聞こえたのか、彼氏の麻生一平と話していた池田優が、ぐりんとこちらに顔を向けて鼻息荒く部長を励まし始めた。


「何言ってるんですか、部長。部長はしのぶ先輩でないと無理ですって。お料理なんて練習すればできるようになるものですけど、私、しのぶ先輩みたいに、みんなをまとめられませんもん」

「それもやればできるようになるものだけど」

「私なんか、本当に部長の器じゃないですもん。むしろ、しのぶ先輩の跡を継いで部長になるなら南美のほうが案外向いてるかも」


 池田優の言葉に、高木先生の隣でほわほわと微笑んで座っている藤田南美を見た。男の庇護欲を誘いそうな頼りなさそうにも見える藤田南美だが、なかなか芯のしっかりとしたタイプだなとも思う。


「今度は英稜高校と合同で合宿とかしたいですね!」


 と、弾んだ声をあげたのは、美晴の隣に座る根津まり子だった。俺が最初にお好み焼きの鉄板を担当している間、美晴と一緒に売り子をしていた。ずいぶん懐かれたようで、美晴と仲良く話をしている姿を何度も見かけた。女子にしては長身の根津まり子と並ぶと、美晴の方が年下に見える。美晴のあの腕の中にすっぽり包めるサイズ感はなんとも言えず愛しい気持ちにさせる...... って、何考えてんだ俺。


「ゔっ、ゴホ!」

「玉野君大丈夫?ケーキが喉に詰まっちゃった?」

「別に」


 美晴に差し出されたオレンジジュースを一口飲んで、間接キスだと気づいた。そんな俺の様子に気づきもせず、美晴は根津まり子と薬師寺しのぶと合宿の話で盛り上がる。


「お料理合宿ですね。バーベキューとかもいいですね」


 顧問として聞き捨てられなかった高木先生が呟いた。


「ふむ、藤田さんとひとつ屋根の下で一晩過ごせるチャンス...... 悪くない」


 いや、悪いだろ。っていうか、高木先生と藤田南美、そうなのかよ。できれば聞きたくなかった情報が勝手に耳に飛び込んできた。


「高木先生、隠す気本っ当にないでしょ?」


 池田優が暴露されて固まっている親友を庇うように、高木先生の発言に噛みついた。高木先生は余裕の態度で、藤田南美の唇に付いたクリームを拭って、その指をぺろりと舐めた。


「だから、TPOは弁えているよ」

「どこがですか!」


 料理部の面々は、それぞれの会話に夢中で見ていなかったようだ。池田優だけが

 親友の為に、小声ながらも鋭く高木先生に苦言を呈している。


「っていうか、先生、どうせ先生は俺たちと同室になりますよ」

「ま、そうだろうね」


 そこまでは期待してませんでしたよと余裕の表情で高木先生は頷いた。


「こんばんは。歓談中に失礼します」


 カラリと調理実習室の扉が開かれた。結構ギリギリの会話をしていた直後の俺たちは、ギクッとして扉の方を向いた。入ってきたのは、昴学院の生徒会長古川蘇芳と、生徒会役員のメンバーなのだろう。校内を巡回しているときも同伴していた女子に加えて、今は背の高い男子を一人従えていた。「みなさん、お疲れ様でした」と言いながら、俺たちに用事があったのか、俺と美晴の席の近くにまでやってきた。

 生徒会長が立っているのに、座ったままで挨拶できるわけもない。俺と美晴は古川蘇芳の前に立った。今日何度目かのお礼と謝罪を言われる。


「せっかく文化祭に来てもらったのに申し訳ない。少しだけれど、今日のお土産にどうぞ」


 古川蘇芳は、カラフルな綿あめが三色入ったカップと、手作りっぽさが出ているクッキーの詰め合わせを美晴に手渡した。


「蘇芳さん、ありがとうございます」


 美晴が嬉しそうに微笑みを古川蘇芳に向けた。


「玉野君、ちょっと、ちょっと」


 俺は薬師寺しのぶと鈴村都に呼ばれて先に席に戻ることになった。


「なにか?」

「うふふ~ん、美晴ちゃんと蘇芳様が気になる?」

「ならねぇよ。で、何?」


 とはいったものの、古川蘇芳が何か言ったことに対して、美晴が笑顔で答えたり、少し驚いた顔をしたりしているのが気にならない訳はない。


「ちょっと聞いてよ。まり子ちゃんってば、一週間前からサッカー部の同級生と付き合いだしたんだって」

「根津ちゃんの裏切り者ぉ」


 鈴村都が大げさなリアクションで泣き真似をする。根津まり子はそんな先輩たちを見て半笑いだ。なんだ、こいつらのジュースに酒でも混じっていたのか? 仲の良いことだ。


「というわけで、英稜高校の男子を紹介して、玉野君」

「合宿もしたいけど、その前に合コンのセッティングよろしく」


 二人して両手を合わせて拝んでくる。高木先生は藤田南美を構い倒しているし、池田優は麻生一平と仲良く話し込んでいる。背後では、美晴が古川蘇芳を名前呼びしながら、生徒会役員たちと何やら談笑している。


 ああもう、早く美晴を連れて帰りてぇよ。

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