文化祭狂想曲~Hermit編・3
閉会のアナウンスが流れ、校内から一斉に拍手が起こる。料理部の面々も達成感にあふれた表情でハイタッチしていたりする。
とはいえ、たくさん用意した材料はほとんど使い切り、閉会の前に売り切れてしまったのだが。てんやわんやの騒動だったが、料理部の屋台は大好評のうちに終わることができた。
結局、咲と美晴の二人には最後まで手伝わせてしまった。今も片づけを手伝ってくれている。部長も優も固辞したが、人のいい美晴たちは手早く手伝いを始めてしまった。
文化祭の片付け日は翌日に用意されているものの、さすがに調理道具やレンタルしていたものは今日のうちに片付けなければならないので、売り切れになってからはそのあたりを整理していた。おかげで閉会のあとは調理実習室へ荷物を運んで洗い物をすれば今日のところは終了だ。
「優、手伝うよ」
片づけが始まった頃合いに一平が顔を出した。思わず顔がほころぶ。
「助かるけど、空手部とかクラスの片付けは?」
「空手部は演武だけだったからもうとっくに終わったよ。で、俺のクラスの方は出し物の片付けを明日やることにして、全員それぞれの部活の片付けに行っちゃった。問題なし」
「そうなんだ。うん、ありがとう助かります」
料理部には男手が少ないので、重たいものを運ぶときはとても助かる。一平と咲が重たい鉄板類を水道まで運んでいき、優や美晴たち女子は調理器具や細々したものを調理実習室へ運び込んだり洗ったりしていた。
全員で片づけをすればあっという間に終わる。屋外で鉄板を洗っている咲と一平以外の面子でささっと済ませ、椅子に腰かけた。
「美晴さんも玉野さんもすごく手際がいいの。見習わなくちゃ」
「ええっ、優さんめっちゃ料理上手じゃないですか。私、キャベツ切る係に必要ないんじゃないかって思ってました」
「そんなことないですよ! 本当に助かったんですから」
美晴は春の陽だまりみたいな人だな、と優は知り合えたことにうれしくなった。他のみんなも一緒なようで、口々に「これからも部同士で交流したいよね」などと雑談に花が咲く。
やがて咲と一平が戻ってきて、二人も巻き込んだ打ち上げが始まった。みんな好きな飲み物をコップに注ぎ、乾杯の声が重なる。病院から戻ってきた片手を包帯で巻かれた鈴村と、両手にカフェテリアのケーキの箱を下げた高木先生も加わり、調理実習室は一気ににぎやかになった。
文化祭の終わりはどこか寂しいものだ。けれどこの達成感は何物にも代えがたい。
全員で協力してやりきった満足感に全員が笑顔になっていた。
★★★★
もうだいぶ陽も落ちて、西の方に夕焼け色を残すだけになった頃、咲と美晴は帰っていった。次は二人の英稜高校料理倶楽部を訪ねると約束をして連絡先を交換し合い、全員で見送った。
学校も閉門の時間になり、料理部の面々もそれぞれ帰宅の途についた。
優は一平と二人で歩いている。
「二人ともいい人たちだったよ」
「ああ、玉野君と鉄板洗いながら少し話したけど、思ったより話しやすかったよ。割と無口な奴かと思ったんだけど違った」
「だね、あんまり余計なおしゃべりをするタイプじゃないとは思ったけど、指示も的確だったしすごかったよ。玉野さんち、食堂やってるんだって。普段から切り盛りしてるからだよね、私も弟子入りしたいくらい」
「―― へえ?」
「彼、学校で結構もてるんじゃないかな。かっこいいし、料理はすごいし優しそうだし」
特に美晴に対してはバレバレなほどに優しかった、とキャベツを刻んでいた二人の姿を思い出した。咲が美晴の後ろから覆いかぶさるようにして千切りのコツを教えているところなんか、部長やまり子が鼻血を噴きそうな顔をしてた。
美晴さん、玉野さんとつきあってもつきあわなくても苦労しそうだなと優はくすりと笑った。がんばれ、と夕空を見上げてエールを送る。
と、後ろからぐいっと引き寄せられた。そのまま後ろへバランスを崩し、背後にいた一平の胸に倒れこむ。
一平の腕が優をぎゅっと抱え込んだ。
「一平さん?」
「―― 」
「え、やだ、何か怒ってる?」
いや、怒っているというより――
「ひょっとして、すねてる?」
ぎくり、と一平の肩が跳ねる。
あたりに人影はなく、少し寒く感じる秋の風が二人の周りを通り過ぎた。けれど触
れている部分は温かい。制服の布越しに感じる温度が気持ちいい。
「―― やっと二人きりなのに他の男べた褒めするし」
「えっ! あ、ごめんなさい」
どうやら優が咲を褒めるものだからすねていたらしい。
そんなつもりじゃなかった、と必死に弁明していると、一平の頭がこつん、と優の肩に載った。
「ごめんな、優に甘えてばっかりだ俺。玉野君のことだって、優が純粋に褒めてるだけだって頭じゃわかってんだけど―― ホント、余裕なさすぎ」
「そんなことないよ。私だって一緒だし、さっきだって空手部の人たちと一緒に来てくれた時、一平さんも美晴さん目当てなんじゃって思ったら落ち着かな―― 」
さらにきつく抱きしめられる。きつすぎてケホッと小さく咳が出て、気がついた一平が腕を緩めた。顔を見合わせてお互いにプッとふきだした。お互いやきもちを妬いていたなんて。
「帰ろっか」
「うん」
二人はそっと手をつないで歩き出した。
「文化祭狂想曲」本編はこれで完結です。
明日から3話短い幕間をはさみ、次の章に入ります。
次の章は合作方法を変えて、1話ごとに執筆者交代のリレー小説形式になります。お楽しみに!