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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
リミット!~断罪パーティーはひそやかに
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優、禁断のスイーツタイム(優視点)

優視点です。執筆はひろたひかるです。

 夕食の片付けも終わりテレビを見ていたけれど、そのうち父さんが自室で本を読むと言ってリビングからいなくなった。私も自分の部屋に戻ってまったりしていたら、スマホが鳴った。一平さんだ。勝手に笑顔を作る頬を押さえながら通話ボタンをタップする。


『優、これからこっちに来ないか? できれば夏世も連れてきてほしいんだ』

「え、今から? いいけどどうしたの?」

『実はさ、さっき話があって咲んところに行ってきたんだ。そしたら遼さんがお土産にって自作のスイーツを持たせてくれたんだよ。みんなの分あるから食べに来ないか?』


 遼さんのスイーツ! うわ、一気にテンションが上がる。

 あのパーティーの時、想像を遙かに超えた美しいスイーツの数々を見て、お客さんたちがおいしいおいしいって食べていたのも見て、ものすごく食べてみたかったの。

 とはいえ、時計はもう夜の八時を回っている。


「こんな時間にスイーツなんて食べていいのかな」

『でも一晩たったら味が落ちるんじゃないか? そうなったら遼さんも悲しむだろうなあ』

「うわ、そう言われちゃうと」


 めちゃくちゃ説得力がある一言。うん、そうだよね、おいしいものはおいしいうちに。遼さんの悲しむ顔なんて想像したくないからしょうがない。しょうがないんだよね!


「うん。わかった、夏世さん誘って行くね」

『よろしくな』


 電話を切って、うれしくてベッドの横でくるんと一回りしちゃった。すぐに夏世さんに電話して、それからさすがに部屋着のまま行くわけにもいかないから着替えて、一気に夏世さんのマンションへお迎えにテレポートした。




「来たわよ! 遼さんのスイーツだって?」


 古川家のリビングにテレポートアウトするなり上機嫌で夏世さんが大きな声を出した。


「やあ、いらっしゃい」


 ソファーの定位置に座った蘇芳さんがノートパソコンから顔を上げて微笑んだ。あれ、こんな時間まで仕事ですか? って思ってたら、夏世さんがちょっとむすっとした顔でノートパソコンを指さし、蘇芳さんが苦笑してパソコンをぱたんと閉じた。やっぱりお仕事だったんだ。

 ふふふ、言葉がなくても伝わってる感じが好き。ニヤニヤしていたらリビングの奥のキッチンから一平さんがひょっこり顔を出した。


「お、二人とも来た? んでは――じゃーん!」


 何の印刷もない真っ白なケーキ箱をリビングのテーブルに置いて、蓋を開ける。中には秋らしい色のケーキが五つ、きれいに詰められていた。夏世さんと私の口から「わあっ」と声が出る。美味しそう!


「遼さんから聞いてきたんだ。ええと、左端から抹茶のプリン、かぼちゃのプリン、さつまいものシフォンケーキ、紅いものモンブランと、丹波栗のモンブランだって」

「やだ、どうしよう選べない」

「うん、どれも美味しそうだねえ」


 蘇芳さんも興味津々な様子で箱を覗き込んでいる。お土産を持ち帰ってきた一平さんは鼻高々な顔してる。一平さんか作ったわけじゃないのにね。ちょっと可笑しい。


「一平さんは、どれ食べる?」


 振り返って声をかけたら「ううん」と首を横に振った。


「俺は咲んちで食べてきたから」

「そうなんだ。ね、どれ食べてきた?」

「ええとモンブランと、シフォンケーキと、かぼちゃのプリンと」

「えっ、そんなに食べたの?」

「あと親子丼」


 えっ? とその場の全員が一平さんを振り返った。


「親子丼?」

「うん。腹減ったってつぶやいたら、咲がササッと作ってくれたんだ」

「ササッと……」

「美味かったぜ。卵がフワッフワでトロットロで。出汁がきいていい香りでさ。トッピングに三つ葉と海苔をダブルでたっぷり載せてくれて。あー、思い出しただけでまた食いたくなってきた」


 フワッフワでトロットロな咲さんの親子丼。晩ごはんはちゃんと食べたのに、想像しただけでまたお腹が減っちゃいそうだ。それ、絶対美味しい奴! 私と夏世さん、蘇芳さんが顔を見合わせた。おそらく全員無人島でのバーベキューの美味しさを思い出しているだろう。本当に咲さんて料理の天才! そして親子丼の美味しさを思い出しているらしい一平さんの、ちょっと締まりのない顔へ視線を移す。


「一平、美味かったか」

「おう。あれはすごかった」

「へえ、それはそれはうらやましい」

「だろだろ! んで」


 にっこにこ笑顔でこちらへ顔を向けた一平さんがふと動きを止めた。みんなにジーッと睨まれてるもんね。うん、そりゃあそうだよ。そんなの、うらやましいに決まってる。


「ずっるい! ずるい、一平! 私も玉野くんの親子丼、食べたい!」

「一平、それは不義理ってもんだよ。どうして誘ってくれなかったんだ」


 夏世さんどころか蘇芳さんにも詰め寄られて困っている一平さん。ちら、と私の方に視線をよこして「助けて」って訴えかけてくるけど、さすがに私も夏世さん蘇芳さんと同意見だ。


「優~」

「一平さん、抜け駆けした」


 ぷい、と顔を背けてやったら、一平さんがあからさまにがっくりと肩を落としていた。

 今度夏世さん蘇芳さんと一緒にねこまんま食堂に突撃しちゃおう。そう決めた。そして蘇芳さんもそう考えていたらしかった。


「よし、じゃあ次の土曜日に食べに行こうか。一平、ねこまんま食堂の電話番号はわかるか? 席の予約を」

「ないない、予約なんてない。でも俺から咲に連絡しとくよ……はぁ」


 一平さんが「ひどい目に遭った」って顔してスマホを開いて連絡し始めた。そして少し話してからスマホを耳から離して「予約できるってさ」と予約をとってくれた。

 やった! 次の土曜はねこまんま食堂でご飯だね!


 そしてそして、やっと食べられた遼さんのスイーツ!

 私は丹波栗のモンブランをいただいた。なめらかな栗のクリームにはところどころに歯ごたえを残す栗の粒が入っていて、生クリームに包まれたスポンジもふわっふわ。どれもこれもほっぺたが落ちるほど美味しい。蘇芳さんはさつまいものシフォンケーキを、夏世さんは紅いものモンブランをチョイスして食べていた。後の二つ、かぼちゃのプリンと抹茶のプリンは駿河さんと京子さん――古川家の通いのお手伝いさん――の分だ。冷蔵庫で冷やしておいて、明日食べてもらおう。

 結局全員一致で「ねこまんま食堂の帰りにカフェ・プリマヴェーラに遼さんのスイーツを食べに行こう」と決めたのだった。



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