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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
リミット!~断罪パーティーはひそやかに
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咲、断罪パーティーその後(咲視点)

咲視点です。執筆は紅葉です。


 出張料理人の仕事は、まあまあ成功だったんじゃないかと思っている。まだ高校生だから、いろんな事が足りなくて、親父や兄貴や、駒村さんや飯田さん、それから美晴たちの手をいっぱい借りることになったけどな。

 井原さんから受け取った報酬から、材料費などを引いても少し利益が出たから、親父と兄貴に渡そうとしたら、持っとけと言われたので、今度美晴となんかうまいものでも食べに行こうと思う。



 数日後に、久しぶりに一平から電話がきた。


『よう、元気だったか』

「ああ」

『お前のところの文化祭も、もう終わった?』

「ああ」

『俺のところも終わった。今年もお前のお好み焼き食いたかったぜ』

「そうか」

『なんだよー、まだ怒ってるのかよ』

「しつこいな、そもそも怒ってねぇよ」

『ちょっと待ってろ。そっち行くからな! お前の部屋の入り口付近には誰も立つなよ?』

「はいはい、分かったよ」


 通話が切れたと思ったら、部屋の入り口に一平が立っていた。テレポートってどんな原理で移動してんだよ。


「ありゃ、勉強してんじゃん」

「三年になったら、定期考査以外にもテストが増えるんだよ。昴学院は違うのかよ」

「だから上の空な返事だったのか。悪い、悪い。ウチも一緒だよ、だけど俺、こう見えて勉強も得意だから」

「そうかよ。まさか読心術的な超能力でズルしてんじゃねぇだろうな」

「そんなことしねぇよ! ってか、それは俺はできないの!」

「そうだな、それができてたら池田さんとすれ違って喧嘩なんてしねぇよな」

「咲ひっでぇ! ひっでぇ!」

「酷い、酷い言いながら、ニヤニヤしてんじゃねぇよ」


 そんな言い合いをしていたら、二段ベッドの上から兄貴が顔を出した。


「お、麻生くん来ていたのか」

「あ、お邪魔してます、遼さん」

「テレポートで来たのか? 遠い距離は無理だったんじゃないのか?」

「あの時は荷物もあったし、遼さんも連れて長距離は跳べないんですよ俺。一人ならこの距離ならなんとか、かな」

「ふぅーん、さっき咲が言っていたのはテレパシーってやつだな。麻生くんは使えないのか」


 なんでそんなに詳しくなってんだよ、兄貴。ちょっと前までヘリポートとか言ってたくせに。


「遼さん詳しいですね」

「そうだろ、ちょっと勉強したからな」


 兄貴がさっきまで静かに読んでいた本の表紙をこちらに見せた。学童向けの本で有名な大手出版社発行のマークと超能力のひみつというタイトルが見えた。


「で、一平はなんの用だったんだ? 用事があったから電話をしてきたんだろ?」

「ああ、そうそう。さっき蘇芳から聞いてさ。咲も知りたいだろうと思って電話したんだ。あの捕まった葛原仁は起訴中だって。で、他にも三人の男がいただろ?」

「ああ」


 その中に美晴にいやらしい視線を向けて、しつこく連絡先を聞いてきた奴がいる。


「アイツらも婦女暴行の共犯だってことが分かって捕まったってさ。他の女四人は葛原や男たちとつるんで遊んでただけみたいだけど、葛原が金ヅルにしてた前の女に関係を切られてからは、ちょいちょいその女どもにも金を借りてたらしくてな、警察に事情聴取されたときに、ずいぶんぶっちゃけてディスってたらしい。アイツらあんな見かけだけど、そこそこいいところのお嬢様だったらしくて葛原に金をあてにされてチヤホヤされてたってところもあったっぽい。まあ、それで葛原の家を家宅捜索したら、睡眠薬やら脅迫材料にしてた写真や動画も押収されたって。こりゃもうしばらくは出てこれないんじゃないか?」

「出てきたら恨まれたりとか、大丈夫なのか?」

「少なくとも優や美晴ちゃんは大丈夫だと思うぜ。夏世を逆恨みしたら、夏世と蘇芳が怖いからな。今度こそこの世から消されたりして……」


 まあ、そういうことも世の中にはあるかもしれないな。


「そ、そうか」

「ちょっ、今のは冗談だって」

「冗談なのかよ、ビビった」

「こっちがビビるよ、信じすぎだろ咲」

「一平の言う事だからな、信じるに決まってんだろ」

「あ、麻生くん顔赤いよ」

「遼さんお願いだから黙ってて! あーもう腹減った!」

「夕飯食ってないのかよ」

「道場から帰って、蘇芳に話聞いて、すぐに電話したから」

「そうかよ」


 しかたねぇな、冷蔵庫に何があったかな。シャープペンシルを置いて、キッチンに向かって冷蔵庫の中を確認する。お、鶏もも肉があるな。それに卵と、玉ねぎ。親子丼でも作ってやるか。


「咲? え、家に帰ったら京子さんが作ってくれた夕飯があるし、大丈夫だぞ? 帰るのも一瞬だし」


 後ろを付いて来た一平が遠慮してオロオロしている。腹減ったまま帰らせるなんてねこまんま食堂の名が廃るからな。


「親子丼、上に乗せるのは海苔か? 三つ葉か?」

「え、三つ葉かな、海苔も捨てがたい」

「両方だな、わかった。そこに座ってろ」


 小さなダイニングテーブルの椅子を勧めると、一平はちょこんとそこに座った。次に兄貴が冷蔵庫を覗き込んだ。冷蔵庫の中には、兄貴が学校の課題で作ったり、趣味で作ったりしたケーキやその他スイーツが常に入っている。


「麻生くん、そういえば約束をしていたな。どのスイーツが食べたい? 全部を一個ずつでもいいぞ。カフェで出しているものと遜色はないはずだ」


 兄貴待て、全部を一個ずつでも五種類はあるぞ。


「大丈夫だ。古川くんや池田さんたちにも持って帰ってやるといい。夏世様はどれがお好みだろうか」


 もう二十時だぞ。池田さんや井原さんはそれぞれの自宅にいるんじゃないのか? めちゃくちゃ時間をかけてケーキを選ぶのを横目に見ながら、俺はとびきり美味い親子丼を一平のために作った。

 一平は親子丼大盛りと、モンブランと、さつまいものシフォンケーキと、かぼちゃプリンを平らげて、お土産のケーキが入ったケーキ箱を抱いて、テレポートで帰っていった。

 仕事が終わった親父が二階に上がってきて、誰か友達が来てたのか? と聞いたので、一平が来てたんだよと答えた。親父もアイツがうまそうにたくさん食う姿を見るのが好きで、一平を気に入ってるからな。


「なんだ。それじゃあ店の方に連れてきたら良かったんだ。今日はいい煮魚があったし、天ぷらも揚げてやったのに」

「そうだな、近いうちにまた来るように言っとくよ」


 親父が残念そうに言うので、俺はまた近々飯を食いに来いよ、と一平にメッセージを送った。まさか、三日と空けずに通ってくるようになるとは思わなかったな。


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