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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
リミット!~断罪パーティーはひそやかに
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咲、誤魔化されて拗ねる(咲視点)

咲視点です。執筆は紅葉です。

 ばんじゅうや、クーラーボックスをエレベーターで運び、地下駐車場の飯田さんが運転するワンボックスカーに積み込んだ。

 少しして古川さんと井原さんと池田さんがエレベーターから降りてきた。


「まだ上に荷物が残ってると思うから、俺はもう一度戻ってくるよ。美晴はどうする?」

「美晴ちゃん、私たちと待ってましょうよ。パーティーではお話できなかったし、ね?」

「はい、ぜひ」


 すぐに駒村さんの運転する車に乗り込むかと思いきや、古川さんと井原さん、池田さんは美晴と立ち話をする気のようだ。


「僕がいるから大丈夫だよ、咲くん。お兄さんを手伝ってきてあげて」

「ありがとうございます。美晴をよろしくお願いします」


 葛原ってやつは警察に連れて行かれたけど、奴の仲間達の犯罪の関与についてはこれから調べるらしく、身分証の掲示だけ求められて帰されたから、この辺で待ち伏せをされていたら嫌だなと思った。美晴は葛原の友達っていう男に連絡先をしつこく聞かれていた。むかついて、むかついて、しゃべれないようにアイツの口に塩むすびを詰めてやろうかと思ったぐらいだ。ローストビーフを切り分けるナイフと皿を手に睨んだだけにしてやったけどさ。疲れているだろう美晴を休ませてやりたい気持ちと、一人にしたくない気持ちでぐるぐるしていたから古川さんたちの申し出はありがたかった。


「んじゃ美晴、行ってくる。一人になるなよ」


 心配性ねぇとからかう井原さんの声を背中に聞きながら、俺は古川さんたちが降りてきたエレベーターに乗り込んで、八階を押した。

 それにしても兄貴も一平も、エレベーターを上に呼ばないなんて、何してんだろう。

 もう荷物はエレベーターの前に全部出して、部屋をみんなで掃除して、動かしたテーブルなんかはそのままでいいと井原さんに言われたけれど、みんなで手際よく直して戸締り、忘れ物も確認して、ドアが自動ロックされる音を聞いた。

 一度にはたくさんエレベーターには乗れないから、俺と美晴がまず最初に荷物を持って降りたんだ。俺たちが降りたエレベーターは、すぐにまた上の階に呼ばれて上がっていったというのに、古川さんたちが降りてきたエレベーターは、少し立ち話している間も地下階で止まっていた。

 ま、どうせ一平と兄貴が喋ってて、ボタンを押し忘れているんだろうな。

 八階に上がってみると、エレベーターの扉の前でやはり兄貴と一平はしゃべっていた。


「しかし便利な力だな、テレポートってやつは」


 は? テレポートって言ったか?


「何の話だ?」


 すぐに昨日動画で見た番組がとか、最近読んでいる漫画が、と言い出すと思っていたら予想外に二人の表情が固まった。


「あー、ヘリポート、ヘリポートの話をしてたんだ」


 兄貴、嘘が下手過ぎるだろ。


「ふーん、ヘリポートね。また古川さんがヘリでどっか行くのか?」

「古川くん、ヘリを持ってるのか。さすがだな」


 何がさすがなんだか。パーティーを終えて、兄貴は古川さんと自己紹介をしあって以来、なぜか仲良くなったようだ。きっかけは兄貴が井原さんに「夏世様と呼んでもいいだろうか」と声をかけたことに始まる。あれにはみんなギョッとしていたな。俺たちは井原さんと古川さんが付き合っているのを知っているが、兄貴は知らないから、すわ横恋慕かとびびった。古川さんが、スッと井原さんの横に来て、肩に手を添えながら「夏世はやらないよ?」と答えた。兄貴は「それは無用だ。俺にはのりこという世界一可愛くて素晴らしい恋人がいるからな」と堂々と惚気た。これには古川さんも井原さんも目を丸くして驚いていたな。「だからそのような意図はない。だが、あのように堂々と啖呵を切る姿に惚れぼれとした。崇拝のような気持ちだな。人の上に立つ、そんな姿が似合いそうだ。だから夏世様とお呼びしたい、そう心の底から思ったんだ」

 そんな兄貴の口上の何が気に入ったのか、古川さんは「だってさ、夏世様と呼ばせてあげる?」とイタズラっぽく井原さんに尋ねた。井原さんは思いっきり引いた様子で「嫌よ、そんなたいそうな人間じゃないったら。夏世さんってさん付けで呼んで。それ以外絶対認めない」と言った。うちの兄貴って、時々心の声がそのまま出ちゃっておかしくなるんだよな。残念イケメンって商店街ではわりと有名なんだ。


 ってわけだから、兄貴が必死で何かを隠そうとしているのはすぐにわかった。でもテレポートか、テレポートって超能力の瞬間移動のあれの事かな。


「まあ、テレポートは便利だよな。実際使えたらいいのになって思う時はあるな。な、一平」

「あ、ああ。そ、そうだな」

「それにしても兄貴と一平はずいぶんと仲良くなったんだな」


 試作品のケーキでも食わせてもらう約束でもしたんだろうか。普段都内にいる一平は、大会でもなけりゃ、わざわざねこまんま食堂まで来ないだろうし、移動にテレポートが使えたら、いつでもケーキが食いに行けて便利なのになって話でもしてたのか? 夢のある会話だな。

 一平は汗をダラダラかいていた。ヘビに睨まれたカエルじゃあるまいし、マジでどうした。空手の試合でもこんなに緊張したことないだろ?

 ゴクゴクと喉が鳴ってるぞ、一平。


「あ、あのさ。咲はもし超能力が本当に使えるやつがいたらどうする?」

「は? 本当にか? 考えたことねぇな。火が出せたり、水が出せたりしたらキャンプの時とか便利だよな」

「咲、それは超能力じゃない。魔法だ」


 脱力した様子の一平が笑った。


「だな。まあ瞬間移動は便利そうでいいよな。透視はなー、あんまり使うところなさそうだけど。あ、でもスイカの中が詰まってるとか透視で分かるならいいよな!」

「ああ、そうだな。他に超能力といったらサイコキネシスにフォアサイトそれにだな」


 いきなり一平はこんなところで超能力講座を始めちまった。さっきからなんでこんなに一平は挙動不審なんだよ。

 それにしても一平と俺は親友だと思ってたのにさ、兄貴とコソコソしやがって。ちょっとばかし寂しいじゃねえか。少しばかり女々しい思考に自己嫌悪を抱くが、胸の辺りがモヤモヤしているのは誤魔化しようがない。他のヤツならこんな気持ちにならねぇんだろうな。相手が兄貴だから親友を取られそうと思ってしまうんだろうか。


 挙動不審な一平と、思考停止で立ち尽くしている兄貴を見ていたら、突然、一平の右肩にポンと手が置かれた。

 ちょっと待て。一平と兄貴の後ろに誰もいなかったし、誰も廊下を通ってなかったよな? 小さな白い手が一平の肩に乗ったのを見て、俺は心臓を掴まれたみたいに驚いた。一平もまたビクッと飛び上がった。


「ねぇ、一平さん、大丈夫だった?」


 池田さんの声が一平の後ろから聞こえて、池田さんが一平の背中からひょっこり現れた。


「池田さん、非常階段から来たのか?」

「え? ううん、なんか一平さんがバレたかもしれないって混乱してたから跳んで来ちゃった」

「飛んで……」

「うん、跳んで。あれ? まだあのこと言ってなかったの?」


 コテンと首を傾げる池田さんは、どうみてもいつもの池田さんにしか見えない。

 でも、何もないところに急に現れたよな? このタイミングでマジックやイタズラってのもねぇよな。だいたいこの何もない通路のどこに隠れるんだよ。まさか宇宙人とか透明人間とか? って、そんなわけねぇか。

 マジで超能力でテレポートしてきたって言うのかよ。まさかな、本当にホンモノの池田さんだよな?



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